【番外編】彼女たちの贈り物

「バレンタインデーですか。」

「はい。ご主人様のお口に合うかはわかりませんが……。」


バレンタインデー

日本では女性が男性にチョコレートを中心とした甘味を送る風習がある1日。

そんな中、俺は有栖に手作り菓子を手渡された。


「ありがとうございます。大事に頂きますね。」

「”鮮度が高い”材料で作られているので、なるべくお早めに口にしていただけると幸いです。」

「わかりました。」


有栖と少し会話をした後、彼女は自身のアジトへと戻っていった。

彼女の顔が少し赤くなっていた気がするが、気のせいだろう。




—————————————————




「バレンタインか……。お返しとか用意した方がいいのか?」


有栖から渡された小包。

俺はその包装を開けて中身を確認する。


「これは……。」


出てきたは円形で中央に穴が開いた一般的な形をしたドーナツだった。

生地は黒く、チョコレートのような匂いからカカオ材料を使ったものだと推測する。

食紅を使っているのか、ところどころ赤くデコレーションされている。


「ま、鮮度が命みたいなこと言っていたし、早めに食べるか……。」


俺はドーナツを口にする。


「少し独特な味だけど、これはこれで好きな味だな。」


甘いココアのような味に少し鉄のような……独特な風味が広がる。

この風味の正体は何だろうか。


「ん……?」


ふと、飲み込んだ瞬間に違和感を覚えた。

魚の骨が刺さってしまったような、小さな硬いものを飲み込んでしまったような。

しかしそれは一瞬で、すぐに喉の違和感はなくなった。





—————————————————




「ボス!ハッピーバレンタインです。」

「私からも、よろしければどうぞ。」


外での用事を済ませ少し歩いた先で、桐野と小鳥遊に小包を渡される。

一つはデフォルメされた動物が描かれたデザインの物。

もう一つは漆黒の包み紙に包まれた物だった。

桐野はともかく、小鳥遊はこういったことに興味がなさそうだったので意外だった。


「その黒い包みは、小鳥遊さんが『今年はボスにプレゼントしてみたい』って言ってくれたので、私が協力したものなんですよ!」

「—————ちょっと、余計なこと言わないで。」


掠れた声で桐野に注意する小鳥遊。

小鳥遊が俺にプレゼントか……。

なんか、俺に頼みたいことでもあるのかな?

犯罪以外だったらかなえてあげたいが……。


「とても嬉しいです。ありがとうございます。」


俺は二人に一礼し別れる。

桐野と小鳥遊は二人で何か話しているようだった。




—————————————————




「これは……。」


おそらく桐野から渡された物にはキャンディーが入っていた。

市販のものではなさそうで。手作りだろう。


「キャンディーってどうやって作るんだ?」


俺は桐野の器用さに感心しながら、小鳥遊から渡されたものを開ける。

中に入っていたのは漆黒のチョコレートだった。

見た目から察することができるほど黒く、純度100%のカカオだろう

俺は先に桐野からもらったキャンディーを口にする。


「甘いな。」


味はグレープだろうか。

キャンディーということもあり、甘い味わいが口の中に大きく広がる。

小さいものであるため、すぐに口の中で溶ける。


「じゃあ次は小鳥遊のだな……。」


小鳥遊に渡されたチョコレートを口にする。


「こっちは苦いけど、美味しい。」


カカオ成分がとても高いが、その分風味がいい。

先ほど口にしたキャンディーの後に丁度良い。

俺は二つの菓子を交互に楽しむ。

そんな時だった。


「どうぞ。」


自室のドアがノックされる。


「失礼するわね。」


部屋に入ってきたのは紗月だった。

彼女の手には紙袋が握られている。


「バレンタインデーってことで、寂しい思いをしてるかと思ってきたのだけれど……。心配はなさそうね。」

「お気遣いありがとうございます。大変ありがたいことにすでに貴女で4人目です。」


紗月は俺の言葉を聞くと、微笑んだ。

そして、紙袋を渡される。


「じゃあ4人目のプレゼントをあげる。本命よ。」

「嬉しい冗談ですね。ありがとうございます。」


彼女から渡された紙袋は見た目に反して重かった。


「ま、いらなかったら捨ててもいいし、使いたかったら自由に使ってね。」

「わかりました……って————」


使う?

使うとはどういうことだろうか。

食べ物じゃないのか?


「じゃあ……少し早いけど、私はこの後用事があるから失礼するわね。」

「ええ、お気をつけて。」


手を軽く振って部屋を後にする紗月。

俺はそのまま彼女からの贈り物の中身を確認する。


「重いんだよな……。何が入って」


中に入っていたのは一丁のリボルバーだった。

それも紗月が使用しているものと同じ仕組みの物だ。


いや使えるか!!!

かといって捨てるのも怖い……。


俺は見なかったことにして、彼女からの贈り物をしまう。

心臓に悪い……。




—————————————————




作業も終わり、自室でのんびりしていると、ドアがノックされる。


「どうぞ。」

「失礼します。ボス。」


部屋に入ってきたのは平田だった。

彼女の顔を見て、一番に覚えたのは心配だった。


「大丈夫ですか……?」

「大丈夫です!!」


どう見ても大丈夫じゃない。

顔を真っ赤に染め、フラフラしている。

絶対熱あるだろこれ。


「今日はどうしました……?」


恐る恐る平田に要件を聞く。


「あ、は、はい!ボスにこれをお渡ししたくて!」


手渡されたのは少し大きめの箱だった。


「これは……。バレンタインデーですか。」

「はい!ボスを想って精一杯頑張って作らせていただきました!!」


彼女曰く、徹夜で作ったものらしい。

とてもありがたいことだが、そこまで無理する必要があるのだろうか。

第一、 毒とか入っていないだろうな……。


「ありがとうございます。後程いただきますね。」

「はい!ありがとうございます!」


平田は熱があるせいか、いつもより数倍のテンションで話す。


「今日はあまり体調が優れなさそうですし、帰宅して体を休めてください。」

「あ、はい!わかりました!」


そういって平田は部屋を後にする。

それはまるで一瞬の嵐の様だった。




—————————————————




「平田が徹夜で作ったって……何が入っているんだ?」


恐る恐る箱を開ける。


「これは……。」


中に入っていたのは知らない菓子だった。

栗が砂糖漬けにされ、酒の香りがする。


「よくわからないけど、食べてみるか。」


うん。

甘いな。

でも少し酒の風味がある。

ブランデーだろうか?

これはこれで美味しい。


「みんな菓子作りが上手だなぁ……。凄いな。」


俺は紗月を除く女性幹部全員に感心する。

それと同時に嬉しさがにじみ出る。


「全部義理なんだろうけど、貰えるのは嬉しいな。」


俺は彼女たちの贈り物を思い出しながら、自室を後にした。

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