銃華は美しく。愛は狂気へと。
会議室前で立ち尽くす俺。
この先には幹部達が全員いるのだろう。
今日も平和な会議になればいいな。
そんなことを思いながら扉を開ける。
ドアを開けると中にいた幹部全員が立ち上がり、俺に頭を下げる。
いや、別にそこまでしなくていいから。
怖いわ。
とりあえず挨拶しておくか……。
「みなさんおはようございます。どうぞ楽にしてください。」
いや、本当に楽にしてほしい。
こっちは気が気じゃない。
俺は自分の席に座る。
それを見た幹部達が一斉に席に座りだした。
みんな嫌々やっているって顔だ。
平田と有栖に関しては殺意剥き出しで話しかけただけで殺されそう。
「では、全員揃いましたので本日の幹部会議を始めます。」
俺に対する殺意剥き出しのまま平田は話し始める。
「今日の幹部会議なのですが……友好予定人物リストの件についてです。」
まあ今日に関しては話す内容に関しても犯罪とは無関係だし、気楽に話せそうだ。
平田は友好関係になる予定の人物について話始める。
「名前は『金城 ほのか』という女性で年齢は19歳。所在地は北海道の○○町。住所もすでに特定済みです。」
「住所も特定……。凄いですね。」
いや、本当に凄いな。
いとも容易く住所特定してるのかよ。
思いっきり犯罪だし。
俺がドン引きしてる横で平田は誇らしく胸を張って話す。
「ありがとうございます。でもこれくらいなら朝飯前ですよ。」
朝飯前でこんなことしてたらやばいだろ。
さすが犯罪組織の幹部というわけか。
「そうですか。私にはなかなかこのようなことできませんから。」
「ボスもご冗談が下手ですね。」
「冗談ではないのですが……。」
冗談でも俺に犯罪行為をする勇気はない。
なんなら犯罪を犯しといて胸張れないわ。
そんなことを考えていると特徴的なハスキーボイスが耳に鳴り響く。
「友好者についてはわかったけど、なんでこいつを最初に選んだの?ただの特徴もない一般人じゃない?」
「そうですね。私も気になります。」
小鳥遊と桐野が頭を?にして質問してきた。
いや、俺にも知らん。
平田さん。あとは頼みます。
俺は後を託す様に平田に目をやると彼女は大きく頷いた。
さすが補佐だな。俺が知らないことも説明してくれるとは。
「彼女は町の人物から断罪者として恐れられているようです。」
「断罪者?」
小鳥遊がより頭を悩ませている。
わかる。俺もより一層悩んでる。
悩む俺のことなどいざ知らずに平田は続ける。
「なんでも、町に対する悪事に関わる人物を捕まえてるそうですね。」
「町の自称警察官というわけ?」
自称警察官————
なんか良いような悪いような響きだな……。
平田と九頭竜は女の子と仲良くなりたいのか?
「まあそこまではわかったけど…肝心の友好者になる理由がいまいちつかめないのだけど……。」
未だ悩み頭を抑えている小鳥遊を見つめる。
友好者になる理由か…。
自称警察官って言うほどだし正義感が高そうだが……。そんな人と仲良くできるのか?
こっちは犯罪組織だぞ。
———犯罪組織……?
俺に一つの答えが頭を過る。
そうか!わかったぞ。
「———彼女を(組織内の秩序管理の為に)断罪者としてエンプレスに招き入れるというわけですか?」
「その通りです!直接確認するまでは分かりませんが……彼女の実力が本物なら今後私たちの力になるかと!。」
俺の言葉に平田は「たまにはお前やるじゃん」といった目線で見つめてくる。
いつも不甲斐ないボスですみません……。
俺が落ち込んでいるところに桐野が明るい声で発言する。
「直接ってことは"誰かが北海道にいって『金城 ほのか』さんに会いに行く"ってことだよね?」
そうの通り。
で、多分俺が行くことになるんだろうなあ……。
桐野の疑問に平田が答える。
「まず前提として申し訳ないのですが……、彼女を招き入れるかを決めてもらうためにボスには北海道に向かっていただきます。」
ですよねー。
まあこれに関しては事前に平田から提案されていたしな。
俺が行くことになるのは充分承知だ。
俺は平田の言葉に頷く様に答える。
「はい。その点に関しては私も承知してますよ。」
俺のそんな言葉に平田は満面の笑みを浮かべて俺を見つめる。
いや、見つめるというか睨まれてる気がする……。
そんな平田は続ける。
「なので……
———これからボスと一緒に北海道に向かう人物を決めようと思います。」
平田の提案に会議室全体が騒つく。
え、そんなにみんな俺と北海道行きたくない?
幹部達のあからさまな態度に胃がキリキリと鳴り響き始める。
一応……、桐野とか有栖はいつも通りと言った表情だけど。
まあ、何人同行するのか聞いてから人は考えよう…。
「ちなみに同行する幹部は何人ですか?」
「私としては2人でいいかと思います。可能性は低いですが、ガーディアンズや警察にエンプレスだと発覚するリスクを避けたいので。」
「そうですか。」
よし!2人なら俺と北海道に同行しても気にしない幹部はいるはず。
変に話し合って俺の心が傷つく前にさっさと俺の方で決めてしまおう。
「それならば、その二人を私のほうで決めてもいいですか?」
俺の言葉に幹部達がより騒めく。
安心しろ。俺と行きたくない幹部は選ばん。
大丈夫だよな———?
ふと平田を見ると満面の笑みで
「もちろんです。ボスに決めていただけるなら私たちも争いなく納得できます。」
「ありがとうございます。」
その笑みは『私を誘うな』という笑みですよね。わかります。
俺は幹部達を見渡す。
交渉の場を得意として、その場をまとめられる実力者が必要だな。
それでいうならば実質エンプレスを仕切っている平田が最適任なんだが……。
彼女は事前に今回の件を伝えるほど北海道に行きたくなさそうだしなあ……。
なら、九頭竜だな。
彼は幹部内で一番の頭脳の持ち主だし、交渉の場にもうまくやってくれるだろう。
とりあえず連れていけばなんとかなるだろう。
俺の事もよく察してくれるし。
ということは後1人だが……。
桐野は明るすぎて人によっては第1印象が良くない可能性があるし、あまり九頭竜とは相性よくないんだよな…。
そう考えると有栖かな。
有栖ならなんでも対応する能力はあるし、目立つメイド服は北海道に行く際にスーツを着れば良いし。
俺は有栖が座っている方向を見つめる。
そこには平田と目配せして少し笑みを浮かべる有栖がいた。
それは、作戦通りといった表情だった。
マジか、有栖も嫌なのかよ。
危ねえ、彼女を誘っていたら殺されるところだった。
俺はヒヤッとしつつ改めて同行者候補を考える。
うーん……。有栖もダメならいっそ護衛特化の幹部を同行させようかな…。
ふと向けた視線の先の人物と目が合う。
もちろん向こうは俺の仮面のせいで気づいてはいないが。
そうか。今回に適した“彼女”がいるじゃないか。
九頭竜と彼女なら何事も問題なく今回の作戦も遂行できるだろう。
そう思った俺は北海道に連れて行く幹部を指名する。
「————では、"九頭竜"と"紗月"に同行を願います。」
俺はそう言うと九頭竜と先程までリボルバーを回していた黒髪サイドテールの女性を見つめる。
『紗月 銃華』
エンプレス幹部序列第7位
両腰にリボルバーを携えた漆黒のバトルドレスを着た黒髪サイドテールの女性。
彼女は元軍人ということもあり対人戦や銃撃戦に慣れている。
もしもガーディアンズや警察と争いになった際、一番の護衛になってくれると思い、同行させることにした。
指名された2人は小さな笑みを浮かべていた。
特に不満もなさそうで安心する。
そんな時だった。
円卓が大きな衝撃で揺れる。
衝撃の原因は俺の隣と向かい側に座っていた平田と有栖からだった。
2人は円卓に思い切り頭を叩きつけていた。
え、二人ともどうしたんだ。怖。
「だ、大丈夫ですか?二人とも。」
二人の反応はない。
え?死んだ?
戸惑う俺に九頭竜が発言する。
「ボス、そいつらは放っておいといてください。ただのバカ二人なだけです。」
「そういわれましても……。」
「どうせすぐに元通りになります。」
「そうですか…。」
九頭竜は二人を呆れたように見つめる。
俺は二人を見ないようにして続ける。
「九頭竜は現地での作戦組みと友好対象者との交渉担当ををお願いします。」
「わかりました。必ずお役に立てるよう全力を尽くします。」
九頭竜は力強く、それでいて丁寧な口調で応えた。
そして……。
「”紗月”。あなたには私の護衛を願います。」
「うれしいわよ。ボス。私を選んでくれて。———ボスの護衛は、私の生きがいなの。」
彼女は、心底うれしそうにだった。
相変わらずお世辞が上手だ。
俺より年上なのもあるのだろう。
「いえ、今回の作戦にあなたは一番適していますから。期待していますよ。」
「なかなか嬉しい事言ってくれるじゃない!お姉さん頑張っちゃうわね。」
紗月は比較的俺に対して友好的な幹部の一人だ。
俺自身が背中を任せられる。
俺は北海道に行くことを少し楽しみになっていた。
「さて……。北海道に行く幹部も決めたことだし、一度幹部会議を中断する。
……再起不能になっている奴もいるしな。」
九頭竜は再起不能になっている二人———平田と有栖を見てそう言った。
「わかりました……。平田も有栖も何があったかは分かりませんが元気出してくださいね?」
「ボス。いいのよ、こんなメンヘラ2人置いて作戦会議しましょう?」
俺が心配しているところに紗月が止めにくる。
メンヘラ2人って……。まあ、いいか。
「では、一度幹部会議を終了する。……まあ馬鹿二人がまともになったら再開する予定だ。」
九頭竜の言葉により幹部会議は幕を閉じた。
「ではボス、私と紗月でこの後作戦会議をしましょう。」
「そうね。善は急げと言うし。」
「それ使い方間違っているのでは……。」
俺は九頭竜と紗月に連れられるかのように部屋を後にする。
————————
坂田が退出した会議室。
部屋の中には桐野と小鳥遊。
そして頭を叩きつけてから動かない平田と冥土が取り残されていた。
未だに戸惑っている桐野は二人に話しかける。
「ふ、二人とも大丈夫ですか……?動いてくださいよ…」
「駄目だよ桐野、二人はもう……。」
小鳥遊が桐野に諦めるよう声をかけた時だった。
「……ああ………。」
「うう……。」
その瞬間、同時に二人が起き上がる。
平田も冥土も顔は涙でぐしゃぐしゃだ。
「よかった……心配しましたよ二人とも!」
二人が起き上がったことに桐野は安堵の声をあげる。
しかし、安堵したのは束の間だった。
「あははあはあはあはあはははボスは私をなぜ見捨てたんですか……。———ああもう辛い。死のう。」
そういった平田は自身の持つカランビットナイフを自身の首へと運んだ。
それを見た桐野は必死に平田の手を抑える。
「やばい!小鳥遊さん何とかしてください!」
「私に言われても無理だよ。もう一回気絶させるしかないんじゃない?」
「それじゃあまた巻き戻るだけじゃないですかぁ!!」
そんな時だった。
いつも無表情の冥土がまるで何かが外れてしまったかのように、冥土はその場で高笑いを続けていた。
そして
「ご主人様……ご主人様…ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様……
今までありがとうございました。不甲斐ないメイドでごめんなさい…さよなら…。」
冥土はそのまま自信の持っていたダガーの鞘を抜き自身の腹を斬る————
手を止められる。
「馬鹿野郎!勝手に切腹しようとすんじゃねえ!」
小鳥遊は冥土を全力で押さえつける。
だが冥土は 、小鳥遊の腕を振りほどこうともがき、涙声で 、言う。
「どうして止めるんですか?私はご主人様に迷惑をかけることしかできない……役立たずのメイドなんですから……もう生きてる資格なんてないんです……だから殺してくれてもいいんですよ……?」
もう駄目だな。そう思った小鳥遊は冥土に手刀を叩きこんだ。
冥土はそのまま意識を失う。
そして、意識を失った冥土を抱き上げて、未だ争っている桐野と平田の方へと向かう。
「おい桐野。この女持っとけ。」
「小鳥遊さん……」
そういって小鳥遊は桐野に冥土を預け、平田にも手刀を叩きこむ。
手刀を叩きこまれた平田は冥土同様意識を失う。
「はぁ…疲れた。ボスも罪深い人間だよ……。」
そういって小鳥遊は体を伸ばす。
桐野は気絶した二人を見つめながら話し始める。
「愛って怖いですね……。」
「愛?はっ愛なんかじゃないよこれは。」
桐野の言葉に平田は笑いながら
「—————狂気っていうんだよ。」
小鳥遊は平田を担ぎながら会議室を退出する。
「あ、待ってくださいよ!」
それを見た桐野も冥土を担いで小鳥遊を追うように会議室を後にした。
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