幹部会議 (真)

配下の送迎のもとアジトに到着した俺は平田と共に幹部が集まっている会議室に向かった。


平田は車内ではほとんど無言だった。怖い。


俺と平田は昔からの長い付き合いだ。

エンプレスに加入した際は犯罪を犯すような感じもなく、可愛らしく周りから活動熱心と聞いていたので俺の補座として幹部に任命した。

まさか非人道的なことを当たり前のように行うとは全く持って思ってなかったけど。


今では犯罪組織となってしまったエンプレスの副指導者というポジションだ。

これから行われる幹部会議でも、基本的に彼女の進行のもと行われる。


いつか彼女が他の幹部と結束して俺を排除し、この組織を乗っ取るのではないかと思っている。


(いや、もう警察とかに俺の身元がバレる前にこの組織明け渡したいんだけどね!)


以前幹部達にその旨を伝えたことがあるが、全員に却下された。

なんなら泣かれたまである。


幹部目線、もしも自分達が裁かれる際、1番上の存在を俺にすることで少しでも刑罰を逃れたり減らすことが目的なんだろう。

逃げようとするとあいつら監禁してきそうだし。


「はぁ……」

俺は小さくため息を吐く。

いつの間にか会議室に着いていたようだ。

中には俺と平田を除く幹部全員がいるのだろう。

みんな表向きは俺を崇拝してるからなのか、俺が直接関わる会議などに関しては俺より遅れることがない。


(正直、あまり会いたくないんだよな……。)

そんな事を思いながら扉を開ける。




————————




「お疲れ様です。」


そう言って中に入ると幹部全員が一斉に立ち上がり、頭を下げてきた。

俺はそれを軽く手で制する。

そしていつも座っている席へと腰掛ける。

それを見た後、幹部達はまた席に着く。


この部屋には円卓があり、上座から順に1番奥から時計回りで序列順に並んでいる。

俺の左隣には補佐である平田がいる。

俺は自分の椅子にもたれかかり大きく伸びをする。

すると隣にいる平田が声をかけてきた。


「どうされました?何かありましたか?」

「いや別に。ただちょっと寝不足なだけだよ。」

「左様ですか。」


(しかし毎回この会議前に思うが……)

俺は部屋を見渡しながら思う。


(あまりにも部屋の空気が殺伐としすぎだろ!!)


幹部全員犯罪者な事もあり、部屋はピリピリとした緊張感がある。

それはまるでこれから殺し合いが行われるのかのように。


会議自体はこのまま何も問題なく行われるため表面上は問題ないが———

(和やかな空気で会議してほしいし、たまにはボスらしいこともしてみるか。)

俺はは心の中でそう思い、幹部全員に向け口を開いた。


「みなさん、そんなに緊張なさらずにリラックスしてください。」


俺がそう言うと幹部達は一斉に俺の方へ視線を向けてきた。

いや怖いよ。視線で人を殺す気か?


内心震えている俺に続いたのは平田だった。


「"ボス"の言う通りです。これから殺し合いではなく重要な会議を始めるんです。皆さんくれぐれも話し合う姿勢でお願いしますね」


彼女の発言もあり、部屋の空気は穏やかなものなった。先程までの緊張感が嘘のように霧散する。


「では、準備が整いましたのでこれから幹部会議を始めます。」

この発言を皮切りにこの円卓にて会議が開始した。




————————




会議は特に何の問題もなく進んでいった。

俺は適当に相槌を打ちながら聞き流していたのだが特に問題はないだろう。


(早く終わらないかな。もう帰りたいわ。)

俺がそう思っていた時だった。

またもや空気が殺伐としたものに一変する。


原因は序列3位の『九頭竜 和人』からの報告だった。


「…実は昨日、『ガーディアンズ』の動きが確認された。」



『ガーディアンズ』——


エンプレスの撲滅の為に結成された組織と平田から聞いている。

その組織は、エンプレスを討伐する為なら手段を選ばない集団だとも。


そんな奴らに追われている以上、俺はいつ死んでもおかしくない状況である。

つまり俺は敵にも味方にも殺されるかもしれないということ。

はは、つら。


ガーディアンズの存在に憂鬱になっている俺のことなどいざ知らず、九頭竜は報告を続けた。


「また、奴らは我々の動きに気付いたのか、今までとは比べ物にならないくらいの戦力を投入するとの情報もある。」


(マジかよ!?ついにエンプレス壊滅の危機!?)


ああ……逮捕されたら幹部に全て罪をなすりつけられるのだろう。

そして自分達はは知らぬ存ぜぬで押し通すつもりだな?

こいつらならあり得るな。

ボランティアと犯罪を一緒だと思ってる狂人達だし。

自分の脳内で今後の未来を想像していた時だった。


「"ボス"は今回の件、どうお考えでしょうか。」


左隣にいた平田から唐突な質問を投げかけられた。

幹部達の視線が一斉にこちらへと向けられるのを感じる。


(やばいやばい!自分の今後の人生想像してたら急に質問ふっかけられた——)

俺は猛烈な焦りに襲われた。

ただ、身につけている仮面によって俺の焦りは幹部達には悟られることはなかった。

俺は脳みそをフル回転させる。


(今回のガーディアンズの対処をどうするかって話だよな…?)

軽く聞き流していた会話から質問内容を推測する。

何故俺に質問を振るのだろう。

平田による『ちゃんと話聞いてるのか?』チェックだろうか。

適当に聞いてました。すみません。


(とりあえず幹部の意見に賛成しておくか……


いやまてよ?)


坂田の脳内に一筋の電撃が走る。


(ガーディアンズをわざとアジトに招待して実際に俺は悪くない事を証明すれば助けてくれるのでは?)


それは、いうなれば賭けだった。

しかし、それ以外に俺が今後助かる道はないと思ってしまったのだ。


(俺は犯罪なんて直接犯していないし、捕まったとしても刑罰を軽くする事だってできるはずだ…!

というかそもそもこんな犯罪組織はすぐに抹消すべきだ!!)


そう思い至った瞬間、行動は早かった。

未だに鋭い視線を突き付けてくる幹部たちに向け提案する。


「たまにはこちらから彼らをお出迎えするのもいいのではないでしょうか」


俺の提案に幹部全員が驚愕の声を上げる。

もう一押ししてみるか。


「それに、彼らは今や我々の最大の敵です。彼らが本格的に戦力をより一層拡大する前に潰しておくのが良いかと……」


きちんと組織のことを考えてますというアピールをしつつ幹部たちをの反応を伺う。

しかし、幹部全員反対の色を示していた。


特に俺の意見に大きく反対したのは平田だった。


「彼らは我々幹部の情報を知らないはずです!もしバレてしまったら我々にとっては痛手を負うことになりますよ!それに…もしボスに何かあれば私は―――」


今後の犯罪活動に影響が及ぶんだろ?知ってるよ。でも、そんなのどうでもいい。俺にとって一番大切なものは、こんな犯罪組織なんかじゃないしな。

悪いが、死んでもらおう。




―――————





なかなかに幹部達の意見が曲がる事はなかった。

こいつら、一応俺がボスなんだが。

俺が最終決定権持ってるんじゃないのか。

もうダメ元で最終手段を使ってみるか。


最終手段————

それは


「皆さんはこの組織を立ち上げた時からの夢を覚えていますか?」


突然の俺の投げかけに幹部全員が困惑の表情を浮かべている。


俺はエンプレスを本格的に立ち上げた際の夢を幹部全員に共有している。

それは、「親切による世界征服」

簡単に言えば世界平和だ。


これは俺のエゴであり、理想論に過ぎないかもしれないが、それでも実現させたい。

色々と考えて、この組織を結成し

そして、辿り着いた答えがこれだった。

正直、これを言った時の幹部の反応は様々だったが……。

ここで俺の夢を全員に再度共有して、考えを改めさせよう。

こんな犯罪組織なくなったほうがいいということに。


これが最終手段だった。


そんな俺の質問に真っ先と手を挙げた幹部がいた。

序列9位『桐野 春香』。


幹部の中では一番下の序列だがそれでも実力は他の幹部達とも引けを取らない。

彼女は金を稼ぎなさいという指令に銀行強盗という答えを出してくるぐらいには頭が悪い。


頭脳に関してなら幹部の中で最下位を争う。

そんな彼女が真っ先に手を挙げた事に一抹の不安を感じつつも、彼女の答えを聞いた。


「我々に敵対する不必要な人間をこの世界から殲滅する事です。」

桐野は胸を張って答えた。


俺は息をすっと吐いて―――


(いや全然違うんですけど!?殲滅ってなんだよ!親切による世界征服どこいった?世界征服しかしてないじゃん)


想像していたものと全く違う答えが飛び交い俺はどう答えればいいかわからなかった。


そんな俺の思いとは裏腹に桐野は目を輝かせ、得意気に『どうですか』と訴えかけていた。


桐野の視線に耐え切れず、ふと周りを見渡すと

幹部全員が桐野の発言に賛同するかのような表情をしていた。

嘘だろ。


(ここで否定したら周りから殺されかねないし、頷いて正解アピールをしておくか……)


俺が頷くと桐野の顔がパアァと明るくなる。

かわいい。

いやそんな事思ってる場合じゃなくて


(とりあえず適当に理由つけてガーディアンズをここに呼び出すことに納得してもらおう。)


俺は桐野に投げかける。


「でもこのままだと彼らはより戦力を増加してくるかもしれない。」

「それは…」

俺の発言により、先程まで太陽のように明るかった彼女の顔が雨のようにどんよりと暗くなった。

罪悪感を感じつつも俺は続ける。


「我々が彼らに敗北すること。それは夢の実現が不可能になると言う事です。」


もはや桐野は泣きそうに俯いている。

泣きそうになるような事を言ったつもりはないのだが…

ここは慰めるべきか……?


泣きそうになる桐野。

彼女への対応を考えている俺。

その様子を特に何もせず見つめる幹部達。

部屋の空気は混沌としていた。


そこに救世主が現れる。


「ボスはガーディアンズを迎え入れた上で奴らを殲滅するとお考えですか?」

声の主は九頭竜だった。


(ナイス九頭竜!流石幹部1頭がキレる男だ!)

九頭竜は桐野とは真逆な頭脳の持ち主であり、幹部の中では1番の天才だと俺は評価している。


九頭竜の助け船に俺は内心ガッツポーズをしながら続く。


「そうです。我々にはガーディアンズに対抗する力は十分にあります。」

「そこであえてこちらに誘い込むことで油断させ一気に叩くと。」

「はい。向こうも警戒はしているでしょうが、こちらの戦力を正確に把握していないはず。そして、こちらの兵力なら勝算は十分にあると考えます。」

「なるほど、確かにその手ならば我々も十分に対策ができますね。」


俺と九頭竜の会話を聞いていた幹部達も全員納得した様子だった。

ただ、桐野は未だ哀しげな表情を浮かべている。

罪悪感を否めない俺は桐野に声をかける。


「桐野。少し虐めちゃいましたね。すみません。」

「いえ、ボスは何も悪くありません。ボスの考えを迅速に思いつかなかった私が悪いです!」

「いえいえ。私は桐野が真っ先に手を挙げてくれて嬉しかったですよ。」

「ボス……!ありがとうございます!」


俺の発言によって桐野は哀しげな表情とは一変、目を輝かせ明るい表情に満ち溢れていた。

桐野はとても純粋で正直な性格であり、幹部の中で唯一、俺を慕ってくれている幹部だと思う。

まあ、彼女もゴリゴリの犯罪者なんだが。



———————



「……では今後我々は元々予定していた作戦を実行しつつあえてガーディアンズをこちらに誘い込み【殲滅】するという流れでよろしいでしょうか。」

「はい。異論ありません。」

「俺も賛成です。」

「同じく賛成します。」

「了解した。」


結局、俺の意見案は可決されることになった。

まあ殲滅なんてせずにやられる気満々なんだけど。


「では今回の幹部会議を終了します。これからガーディアンズを迎える準備をいたしましょう!」

平田の締めの言葉と共に幹部会議は終了した。


———————



幹部会議も終了し、それぞれが会議室から退室して行く。

胃痛と疲れでなかなか動けずにいた俺の目に隣で座っている平田が険しそうにしている顔が映る。

彼女が眺めているのは電子端末だった。

『大丈夫か』と声をかけようとしたが、それよりも先に彼女が立ち上がった。


「ボス、すみません。急用ができたため失礼します。送り迎えもせずに申し訳ございません。」

「いや、大丈夫だよ。平田もお気をつけて。」

「ありがとうございます。失礼します。」


俺の返事を聞くと、平田は足早に会議室から出ていった。

なんだろうか。

まぁ一人で帰れる分には余計な気を使わずに済む。


(胃が痛い。つらい。おうち帰ろう…)


俺はそんな事を思いながら、重い足取りで会議室を後にした……

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