第14話 メインスタッフとの撮影セット見学会

次にシエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーとハル・ハートリーの3人が続く。


その後にリーア・ミスタンテとパティ・シャノンが続き、後尾にカリーナ・ソリンスキーとエマ・ラトナーが続いた。


「・・昨日君を送ってからスコットと通話したんだけど、営業第4課創設の噂って聞いてる・・?・・」


と、後ろを少し気にしながら訊く。


「・・ええ、聞いています・・」   


「・・どう思う・・?・・」


「・・まだ誰にも確認していないので、今は何とも・・・」


「・・そうだね・・明日チーフカンデルにそれとなく訊いてみるよ・・」


「・・アドルさん・・」


「・・なに・・?・・」


「・・何だか・・艦長さんっぽくなってきましたね・・」


「・・そう・・?・・そんな雰囲気が出ていたかな・・?・・」


「・・職場での雰囲気とは、違いますね・・」


「・・まあ、営業係長のキャラじゃ、乗り切れないだろうからね・・」


「・・できれば平日は・・いつものアドルさんでいて貰えませんか・・?・・」


「・・うん・・それは・・大丈夫だと思うよ・・」


「・・アドルさんには、毎日驚きますよ・・」


「・・そう・・?・・」


私達の後ろで、シエナ・ミュラーがハンナ・ウエアーに話し掛ける・・。


「・・ねえ、あなたがさっき首っ丈とか言ったのは、皆に釘を刺すためだったんでしょ・・?・・ごめんね・・あなたにそんな事言わせちゃって・・」


「・・え、?・・ああ、あれね・・あれは・・そう言う意味もあったけど、半分くらいは私に刺すためだったんだよね・・」


「・・え・?・・ハンナ・・あなた・・」


「・・シエナ・・私もうヤバい・・でも頑張るよ・・あなただってヤバいんでしょ・・?・・アドルさんに会うの・・今日で2回目だけど・・それに・・まだアドルさんに会ってない娘がいるよ・・私達、その娘達にアドルさんの事説明するんだけど・・どんだけよ・・?・・」


「・・ハンナ・・落ち着いてよ・・きっと大丈夫だよ・・皆で手分けして話するんだからさ・・」


「・・ハッ!?・シエナ・!・思い出した・・あんたどうしてアドルさんの手を握って離さなかったのよ!?・あたしはまだアドルさんに指一本触れてないんだよ!!・・」


「・・ハンナ!・」

(・右手人差し指を口に当てて・シー!・・)


「・・フン!・シエナ・!・エドナとアリシアに連絡するのはやってよね!?・他のメンバーに連絡するのは、やっても良いから・・私達の仲間内で、あの2人が一番ヤバいよ・・2人ともああ観えて、エドナはブラコンだし・・アリシアはファザコンだから・・・」


ハンナ・ウエアーがそこまで言った時に、堪らずハル・ハートリーが口を挟む。


「・・ちょっとハンナ!・いい加減にしなさい!・・これ以上、変な愚痴話でアドルさんを困らせたら、私が許さないわよ!・・エドナとアリシアへの連絡と話は私がするから、他のメンバーへの連絡と話は、あなた達2人が中心になって手分けしなさい!・良いわね!?・」


「・・分った・・」  「・・了解・・」


そこで私は歩道の脇に寄って立ち止まる。


皆も倣って立ち止まり、私の周りに集まる。


穏やかな笑顔で見渡してから口を開く。


「・・少し考えがまとまったので、向こうに着く前にこれだけは皆さんに伝えます・・私が皆さんを選んだのは、艦内でのそれぞれの役職に相応しく、皆さんがそれぞれお持ちの知識・学識・技術・技能・経験・見識をその役職に於いて、十全に役立てて活かして貰えると思い、そう感じたからなのではありますけれども・・それとはまた別に会った事が無くても、私は皆さんの一人一人に言い知れぬ魅力を感じました・・それは言うなれば、ある程度のカリスマ性と言うのか・・無理なく自然に暖かく優しく人を信頼に導く魅力と言うのか、風情と言うのか・・理性的な知性の溢れる人としての魅力の上での、それぞれタイプの違う統率力を感じたからです・・艦長は艦のトップですが、艦長1人で総てを把握し統轄して動かそうとするなどナンセンスですし不可能です・・艦長はそれぞれのスタッフを信頼し、その役職の範囲内での事は任せる・・スタッフはその信頼に、実際での言動と結果・実績を以って応える・・それでこそ強固な信頼関係が築けるでしょうし、それでなくては勝ち抜けないでしょう・・ですから私が皆さんを信頼するのは、その為の大前提なのです・・勿論私は艦長として全力を尽くします・・ので、皆さんにも宜しくお願い致します・・」


そこで締め括って私は一礼した・・20秒ほどで顔を上げると敬礼の真似事をして、また歩き始める・・目指す施設の正門まで、あと500mほどだ・・。


皆も後に続いて歩いて来ているが、リサ・ミルズが不意に右手でシエナ・ミュラーの左手を握り、一瞬だけ顔を歪ませてその眼に涙を溜めたが、流れ落ちる事は無かった。


「・・そんな事を言うから・・・私の心は・・・」


「・・大丈夫だよ・・大丈夫・・」


シエナ・ミュラーはリサ・ミルズの右手を右手で握り、左手で彼女の背中を擦る。


ハンナ・ウエアーもリサ・ミルズの左側から彼女を支えて、一緒に歩いて行く。


恥ずかしながらこの時の私は、彼女の様子に気付かなかった。


『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』9:18 AМ


正面の入り口から1階のロビーに入り、出迎えてくれた受付のお嬢さんに案内されて右側のラウンジに陣取る。


シエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーが何故か私を睨んでいるように感じたので、(?)と思ってリサ・ミルズを覗う。


少し情動的な表情を湛えているようには観えるが、取り乱しているようには観えない。


私の視線に気付いて彼女は笑顔を観せたが、その表情で私は彼女が建物に入る前に泣いたか、泣くのを堪えたのだろうと察した。


話をすべき必要も感じるが、それにより危険なベクトルに進み兼ねない可能性も感じる。


どうやら私を睨んでいる2人を信頼して相談するべきだろう・・機会を見付けて3人だけで話してみよう。


件の受付嬢が飲み物の注文を取りに来たが、彼女の背を見晴るかす先で昨日私達を出迎えたメンバーが揃って笑顔で歩いて来るのが観えたので、受付嬢には後でお願いしますと言って立ち上がる・・皆も私に倣って立った。


「・・お早うございます・・アドル・エルクさん・・昨日に引き続き今日も早朝から来社して頂きまして、ありがとうございます・・リサ・ミルズさんもシエナ・ミュラーさんもハル・ハートリーさんも、お早うございます・・来社頂きまして、ありがとうございます・・社員一同で心より歓迎させて頂きます・・初めてお会いした皆様も、お早うございます・・初めまして・・ようこそおいで頂きました・・歓迎させて頂きます・・私がファーストプロデューサーのマルセル・ラッチェンスです・・どうか宜しくお願い致します・・お先にこちらから紹介します・・こちらがマスターディレクターのアランシス・カーサー・・隣がファーストディレクターのハイラム・ケラウェイ・・その隣がセカンドディレクターのデザレー・ラベル女史・・更にその隣がセカンドプロデューサーのミンディ・カーツ女史です・・改めまして、宜しくお願い致します・・」


にこやかに全員が握手を交わし合う・・初対面である場合には、メディアカードの交換も行われる。


「・皆さん、お早うございます・・昨日に引き続き早朝の訪問にも拘わらず、歓迎して頂きましてありがとうございます・・それではこちらからもご紹介します・・こちらがカウンセラーに就任して頂きました、ハンナ・ウエアーさん・・隣が機関部長に就任して頂きました、リーア・ミスタンテさん・・そしてこちらが天体観測室長に就任して頂きました、パティ・シャノンさん・・その隣がメイン・センサー・オペレーターに就任して頂きました、カリーナ・ソリンスキーさん・・そしてこちらがメイン・パイロットに就任して頂きました、エマ・ラトナーさんです・・え、・今5人を紹介させて頂きましたが・・5人とも私との面談は終了しておりまして、つまり既に、役職就任についての諒承と意志の確認は得ております・・ので、直ぐにでもレクチャーとブリーフィングに入って頂いて、結構です・・」


「・・アドルさん・・そうでしたか・・ご丁寧な状況の説明をありがとうございます・・早速、レクチャーやブリーフィングを始めさせて頂くと言うのも吝かでは無いのですが、皆さん朝食は如何ですか・・?・・」


「・・お気遣いをどうもありがとうございます、ラッチェンスさん・・恐縮ですが朝食は既に全員で済ませて来ておりますので、ご心配には及びません・・どうぞ、始めて頂いて結構です・・」


「・・分りました・・それでは、早速始めさせて頂きましょうか・・では、ハンナ・ウエアーさん・・パティ・シャノンさん・・カリーナ・ソリンスキーさん・・リーア・ミスタンテさん・・エマ・ラトナーさん・・これから皆さんに、就いて頂ける艦内での役職についての、レクチャーとブリーフィングを行います・・それぞれ別室にて個別に対応させて頂きますので、どうぞこちらへおいで下さい・・長くても30分程で終れるだろうと思いますので・・お飲み物でも軽食でも、何でもご用命ください・・アドルさん達はこちらでお待ちになられますか・・?・・」


「・・はい・・差し支えなければ・・」


「・・分りました・・それ程にお待たせするような事にはならないだろうと思いますが・・ごゆっくりなさっていて下さい・・ご用命があれば受け付けの者に何なりとお申し付けください・・それと、弊社のアランシス・カーサーからアドルさんにご相談を申し上げたいとの事ですので・・暫時、お耳を拝借させて頂ければ幸いです・・それでは皆さん、どうぞこちらへ!・・」


促がされた5人は、出迎えに来た彼らに伴われて歩いて行く。


私達4人と、脇に控えたアランシス・カーサーが見送った。


アランシス・カーサーが私達の許に来る前に件の受付嬢が来たので、私とリサ・ミルズを除く2人が彼女に飲み物を頼んだ。


「・・お早うございます、アドルさん・・連日のお越し、有り難うございます・・それにしても『ディファイアント』のクルー配置は早いですね・・20隻の中で今のところ3番目に早いですよ・・」


言いながら私に近くの座席を勧めて、自分はその隣に座る。


「・・そうですか・・あまりご迷惑になっていないようで安堵しました・・それで、ご相談とはどのようなお話でしょうか・・?・・」


「・・昨日はアドルさんにインタビューをお願いしまして、その模様の動画撮影もお願いしまして収録させて頂いたのですが・・今日は、ここに居られる皆さんとご一緒にインタビューをさせて頂きまして、その模様の動画撮影をもお願いしたいのですが・・?・・」


「・・リサ・ミルズ女史も一緒にですか・・?・・」


「・・はい・・差し支え無ければ・・」


「・・彼女はクルーではありませんし一般の人ですから、私にそれを許可できる権限はありません・・彼女にもそれを諒承できる権限はありません・・」


「・・分りました・・それでは、シエナ・ミュラーさんとハル・ハートリーさんもご一緒に3人でのインタビューと、その模様を動画として撮影させて頂くと言う事では如何でしょうか・・?・・」


「・・私の一存で返答はできません・・協議しますので、暫時頂きます・・」


「・・結構です・・私は席を外しておりますので、決まりましたら通話かメッセージでお知らせ下さい・・」


私は頷き、彼は立ち上がって歩いて行く。


「・・それじゃあ、ちょっと廻りに来て下さい・・」


「・・私もですか・・?・・」と、リサ・ミルズ。


「・・そう・・君はクルーじゃないけど、僕たちはチームだからね・・」


3人が近くに座る。


「・・さて・・3人がインタビューに応えている模様を動画撮影したい、と言う事なんですけれども・・どうしますか・・?・・昨日インタビューには応えましたけれども、答えたくない質問には答えなくても大丈夫です・・ノーコメントとはっきり言っても良いし、はぐらかしても良い・・質問者がフレームに入っているなら、質問に対して質問で反すのも良いでしょう・・只、代わって応えるのはマズいでしょうね・・あまり好い印象は与えないでしょう・・スタイリストやメイクアップアーティストも居ますから、言えば対応してくれるでしょう・・私は会社員でもありますので、会社を引き合いに出されて訊かれた質問と私がその質問について答えた内容は、リサさんが会社に報告します・・どうしましょう・・?・・3人で参加しますか・・?・・」


「・・私は女優もやってはいますけれども・・インタビューに応えて話すと言うのが本当に苦手で・・できれば外して頂けると有難いですし、本当に助かります・・」


と、ハル・ハートリーさんが申し訳なさそうに言うので、シエナ・ミュラーさんを見遣る。


「・・良いでしょう・・私達2人で参加しましょう・・ハンナがいれば3人で参加できたかも知れませんが、今は私達だけですから・・」


「・・分りました・・ありがとうございます・・じゃ、リサさん・・カーサーさんに連絡を・・」


「・・分りました・・」


「・・スタイリストさん、頼みます・・?・・」


「・・先方の意向に任せます・・」


「・・そうですか・・」


リサ・ミルズはメッセージで送信するようだ・・私は彼女から貰ったハーブティーを注いで飲む・・まだそれほど冷めていない・・温かさが身体に染み渡る・・。


「・・個人的な事柄について、質問されるでしょうか・・?・・」


シエナ・ミュラーがやや心配そうに訊いてくる。


「・・されるでしょうね・・もう我々の事は、調べ尽くされているでしょうから・・」


「・・例えば・・?・・」


「・・個人の具体的な情報について訊かれるような事は無いと思いますが、訊かれた場合には当然、ノーコメントですね・・後は予測してみましょうか・・貴女のご家族とか近しい関係者が貴女がこのゲームに参加する事を知って、どのように反応したか・・発言や感想についても訊かれるでしょうね・・私やディファイアントや副長就任について、どなたかに話されました・・?・・」


「・・ええ・・妹と弟と・・劇団の関係者2人と・・私の会社の役員2人です・・」


「・・それはそれは・・確実に訊かれるでしょうから、整理して置いた方が良いですね・・次に、貴女が副長と言うポストとその任務をどう捉えているのか・・副長として私にどう接しようとしているのか・・他のメインスタッフやサポートスタッフ達にはどのように接し、どう付き合っていこうと考えているのか・・についても訊かれるでしょう・・まあ、参加と就任が決まってからまだ然程時間が経っていませんから、そんなところでしょうか・・」


と、そこで言葉を切った。

(・・何故もっと早く思い付かなかった・・)


私の表情を観てシエナ・ミュラーも表情で訊いてくる(??)・・。


「・・いや、もっと効果的で効率的な方法を思い付きました・・カーサーさんが戻って来たら提案してみます・・」


それから3分ほどが過ぎ、アランシス・カーサーが歩み寄って来て私の隣に座る。


「・・どうでしょう・・?・・決まりましたでしょうか・・?・・」


「・・ええ・・その前に私から提案があるのですが・・?・・」


「・・はい・・どんなことでしょう・・?・・」


「・・今行われていますレクチャーとブリーフィングが終わりましたら5人が戻って来ますので、全員で撮影セットの見学をさせて頂けませんか・・?・・インタビュー動画の撮影はその後として頂ければ、私とシエナ・ミュラーさんとハンナ・ウエアーさんと後もう1人くらい、参加する事が出来るかも知れません・・それに撮影セットの見学が終わった後なら、セットを観て触れての感想もインタビューで質問できるでしょうし、どうでしょう・・?・・」


「・・ほう・・それは良い考えですね・・確かにそうすれば、充実した中身の濃いインタビュー動画が撮影・収録できるでしょう・・そのタイムテーブルで段取って、今日は進めて行く事にしましょう・・ありがとうございます・・それでは、もう暫くこちらでお待ち下さい・・何かご入用はございますか・・?・・」


私は3人を見遣ったが、誰も何も言わない。


「・・いえ、大丈夫です・・」


「・・そうですか・・分かりました・・それではまた後程・・」


そう言って彼は歩いて行った。


「・・アドルさん、ありがとうございました・・先に撮影セットを見学すると言うのは良いですね・・それからならインタビューでも色々と喋れそうです・・」


シエナ・ミュラーがそう言って謝意を述べる。


「・・何、私も先にセットを見学させて貰ってからインタビューを受けたんで、そちらの方が断然良いだろうと思ったんです・・」


それからブリーフィングを行う中でレクチャーを受けに行っていた5人が戻って来るまでの間、特に何も話し合う事も無く過ごす。


その後20分が経過する中で、5人が全員戻る。


全員で暫時協議するからと言って、番組の関係者は暫く席を外して欲しいと要請した。


「・・皆さん、お疲れ様でした・・レクチャーやブリーフィングの内容については、後で訊く機会も確認する機会もあるでしょう・・先ず、皆さんがここにいなかった間にアランシス・カーサー氏と協議しまして、これから全員で撮影セットの見学をさせて頂く事にしました・・そしてその後にインタビュー動画の撮影が行われるのですが・・現状で決まっている参加者は、私とシエナ・ミュラーさんです・・そこでこれは私からの要請なのですが、ハンナ・ウエアーさんとエマ・ラトナーさんにも参加して頂きたいのです・・どうでしょうか・・?・・」


「・・私は大丈夫です・・」と、ハンナ・ウエアー。


「・・私も問題ありません・・」エマ・ラトナー。


「・・ありがとうございます・・他に参加してみたい方はいませんか・・?・・メインスタッフに対してインタビューをする、と言う企画は今後もあるだろうとは予測していますが、ゲーム大会の開幕前では微妙だろうと思います・・撮影セットの見学後ですから、感想・要望・注文などについても色々と話しやすいだろうと思いますので、どうでしょう・・?・・積極的に参加しませんか・・?・・」


そう言って少し強めに呼び掛けてはみたが、手は挙がらなかった。


「・・分りました・・良いでしょう・・ありがとうございます・・では、私とシエナ・ミュラーさんとハンナ・ウエアーさんとエマ・ラトナーさんの4人で、インタビュー動画の撮影・収録に臨みます・・皆さんは女優さんですから・・インタビューには慣れていると思われますので・・特段のアドバイス等はありませんけれども、答えたくない場合はノーコメントでも構いませんし、よく分らない場合はその旨で答えて貰って結構です・・只、私に初めて接した時の印象とか、これから私に対してどう接して行こうと考えているのか、については訊かれると思いますので・・応答については、考えて置いて下さい・・他の質問に対しての応答については・・皆さん、それぞれにお任せします・・それじゃ、撮影セットの見学に行きましょう!・・」


そう言い終えると私は立ち上がり、離れた場所に立ってこちらを観ているプロデューサー達に向けて右手を挙げて合図をすると、彼等がにこやかな笑顔で歩み寄って来る。


「・・お時間を頂きましたが、撮影セットの見学に参りましょう!・連日ですが、宜しくお願いします・・その後昼食を挟みまして、インタビュー動画の撮影に臨みます・・参加しますのは、私とシエナ・ミュラーさんとハンナ・ウエアーさんとエマ・ラトナーさんの4名です・・宜しくお願いします・・」


「・・分かりました・・それではこれより、撮影セットのご案内をさせて頂きます・・どうぞ、こちらへおいで下さい・・」


と、マルセル・ラッチェンスが先頭に立って歩き始める・・私も立って歩き始めながらシエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーに目配せして、歩きながら徐々に列の後尾に移動した。


「・・実はちょっとお二人に相談がありましてね・・リサさんですけれども・・ここに入る直前に、泣きましたか・・?・・」


「・・え?、・・ええ・私の手を握って涙を溜めましたけど・・零しはしませんでした・・」


「・・そうでしたか・・支えて下さって、ありがとうございます・・リサさん・・昨日の今日で、感情的にも昂っているようなので・・今日の帰りは私と2人っきりにならない方が良いと思うんですよね・・そこで・・ハンナさんはエレカーで来られていますよね・・?・・できれば、リサさんを送って行ってあげて貰えると有難いんですけれども・・如何でしょう・・?・・」


今の話でシエナさんとハンナさんは3秒ほど顔を見合わせたが、私に顔を向けると・・。


「・・良いですよ・・今日の帰りは・・私達で送って行きますから、安心して下さい・・」


「・・そうですか・・ありがとうございます・・宜しくお願いします・・」


「・・リサさんて、純粋ですよね・・」


「・・あたし達だって、昔はさ・・」  


「・・ハンナ!・・」


「・・あ、・ちょっと遅れましたね、行きましょう!・・」


小走りで追い掛けて、先行するグループに追い付いた。


ちょうどリフトホールで追い付いた。


リフトに付け加えて、ターボリフトと呼んでくれと言っている。


地下一階の巨大な擂鉢型円形ホールは、昨日観た時と比べると周囲に装飾が施されていたが、まだ簡単なものであり全面でもない。


「・・ここは、スターターセレモニーホールです・・今回のリアリティ・ゲームショウ最大で最初のセレモニーで使います・・20隻の艦の全乗員がここに集い、最初のスターターセレモニーが開催されます・・そのセレモニーの終了後に、上の20の扉からそれぞれの艦に乗艦します・・『ディファイアント』へと通じる扉は、あそこです・・それでは、乗艦しましょう・・」


スターベース(宇宙基地)の撮影セットは、昨日より少し拡充されているようだ。


スペースドック・セットも、奥行きが増しているように観える。


マルセル・ラッチェンスが指し示したのは、左から2番目のスペースポートに左舷で接岸している、艦体を山吹色にカラーリングされた軽巡宙艦だった。


その山吹色が違和感アリアリで、心の中でも実際にも首を傾げる。


タラップを登り、外壁ハッチを開けて貰い、2重のエアロックハッチを潜り抜けて全員で減圧室に入った時に訊いた。


「・・ラッチェンスさん!・外壁の色を塗り替える事は可能ですか・・?・・」


「・・外壁の・?・艦体のカラーリングですか・?・それなら、ゲームが始まれば艦長のアクセス権限で、いくらでも変更できますが・・?・・」


マルセル・ラッチェンスは、その答えを聴いてもまだ微妙な表情をしている私の顔を観て怪訝な表情を作る。


「・・?・セットの外壁の色が、お気に召しませんか・・?・・」


私は口には出さずに仕種で肯定を伝える。


「・・まだ時間もありますから塗り直すのは吝かではありませんが・・一度だけですよ・・?・・何色がお望みで・・?・・」


「・・シルバー・ホワイトで、お願いします・・」


「・・かしこまりました・・」


些か慇懃且つ大袈裟に応えてくれる。


見学順路は昨日と同じだ。3枚目のエアロックハッチを開けて、デッキ15に入る。


一般クルーとサポートクルーの個室が並ぶ中、近いドアを開けて室内を見せて貰う。


「・・これで1LDKなの・・?・・」


と、パティ・シャノン。


「・・ちょっと広いわよね・・?・・」


と、カリーナ・ソリンスキー。


「・・3年ぐらい前まで、こんな部屋に住んでたね・・」


と、ハンナ・ウエアー。


「・・そうそう、こんな感じだったね、前の部屋・・」


と、リーア・ミスタンテ。


「・・飾り付けとレイアウトを工夫すれば、オリジナリティーが出せるね・・もっと明るくて暖かい感じも出せるわね・・」


と、シエナ・ミュラー。


「・・今の私の社宅よりも良い部屋ですよ・・」と言ったら、リサ・ミルズとハル・ハートリーを除く全員から驚きの声が上がる。


「・・えーー!・本当ですか・!?・」


と、パティ・シャノン。


「・・アドルさん・・私、不動産の業界にも伝手がありますから、もっと良い物件を探せますよ・?!・」


と、エマ・ラトナーが真顔で言う。


「・・いや、社宅なんだから会社からの補助があって、安い家賃で済んでいるんだから・・高い所には住めないよ・・」


「・・アドルさんが個人で払っている金額を教えて下さい・?・アドルさんと私の名前を出せば、これより良い物件が絶対に見付かりますよ・・?・・」


「・・いいよ、いいよ・・そんな事をして貰う訳にはいかないよ・・今だってすごく注目されているんだから・・ゲームが始まる前から、色々言われたくないからさ・・」


「・・じゃあゲームが始まって、落ち着いた頃に探しましょう・・大丈夫ですよ・・見付かりますから・・」


「・・それこそ、艦長とスタッフが癒着しているって言われるじゃないか・・気持ちは有難いけどいらないからさ・・さっ、まだ先は長いから、行こ行こ!・・」


そう言いながらエマ・ラトナーの言葉を遮り、肩を持って後ろを向かせ、そのまま背中を押して一緒にドアに向かう・・彼女は驚いて声を挙げ、少し抵抗しようとしたが、そのまま押されて外に出る・・押されながら少し嬉しそうにも観えた。


ずっと後になってリサ・ミルズに聞いたがその時、他のメンバーは驚きながらも羨ましそうだったそうだ・・・ターボリフトに乗ってデッキ14へ・・・


「・・明るいわね、妙に・・」


「・・天井、高っ・・」


「・・それに何、この広さ・・」


「・・この施設・・私が今通っているジムと、内容はほぼ変わらないけど・・無駄に思えるぐらい広いわね・・」


と、シエナ・ミュラーがざっと観て廻ってから言う。


「・・良い所に通っているのね、シエナ・・今度、紹介してよ・・」


と、ハンナ・ウエアー。


「・・良いけど、私はもう解約するわよ・・ここが使えるなら、もういらないから・・」


「・・これでここを使用できるのは、一般クルーとサポートクルーだけなんですか・・?・・」


と、ハル・ハートリーが声をひそめて言う。


「・・えっ!、・それじゃここよりすごい施設が、あと2つもあるってこと・・!?・・」


と、エマ・ラトナー。ハンナ・ウエアーが人差し指を口に当てて強く見遣る。


私の近くにシエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーとハル・ハートリーが寄って来る。


「・・アドルさん・・明らかに無駄な施設ですね・・」


と、ハル・ハートリーが更に小声で言う。


「・・そうだね・・出港したら2つは閉めて、格納庫か物置にでもするよ・・どちらにせよ、3つも動かして置くようなエネルギーの無駄遣いは出来ない・・」


「・・カメラはどこに設置されているんですか・・?・・」


と、パティ・シャノン。


「・・カメラは16の方位で、見えないように設置されている・・カメラが設置されていないのは、個室だけだ・・そうだ、皆、ちょっと来て・・・」


私は序でに皆を連れて、シヤワールーム・プールの更衣室・サウナの換気口を開けた左側・ヨガと瞑想の部屋の床下に設置されている、メンテナンスハッチを見せて廻った。


「・・アドルさん・・どうしてメンテナンスハッチの位置が重要なんですか・・?・・」


と、ハル・ハートリーが少し不思議そうに訊く。


「・・では、リーア・ミスタンテ機関部長・・どうして重要だと思いますか・・?・・」


と、少し面白がっているような風情で、リーア・ミスタンテに訊く。


「・・えと、メンテナンスハッチの位置が判っていれば、修理や整備や調整に取り掛かりやすいからでは・・?・・」


「・・まあ、それも重要ですけれどもね・・それとは別に、何かあった時の非常時用通路とか、秘密の抜け穴って言うのは重宝するでしょう・・?・・」


私のこの答えに、皆は少し呆気に取られたようだった。


デッキ13へ移動する。


「・・ここはもう、1LDKじゃないよね・・広すぎる・・」


と、カリーナ・ソリンスキー。


「・・サブスタッフの個室ですか・・?・・」


と、ハル・ハートリー。


「・・サブスタッフと医療室の看護師と厨房セカンドシェフの居住エリアだね・・」


「・・今、住んでいる部屋に近いですね・・」


と、シエナ・ミュラー。


「・・うん・・あたしの部屋もこのくらいだね・・」


と、ハンナ・ウエアー。


「・・ここのクローゼット・・30着は入るわね・・」


と、エマ・ラトナー。


「・・へえ・・結構良いんじゃない・・週末の2日間を過ごす部屋としては・・ランク、高いわよね・・?・・」


と、パティ・シャノン。


「・・リビングの固定端末は、貸与された携帯端末やpadとリンクできるんですよね・・?・・」


と、ハル・ハートリー。


「・・勿論できますよ・・その辺も含めて、携帯端末とpadの中のテキストデータは、よく読み込んでおいて下さい・・」


と、アランシス・カーサーが言う。


「・・これくらいなら、観葉植物の鉢植えを3つくらいは置けますね・・」


と、リサ・ミルズが言う。


「・・ここでのメンテナンスハッチは、クローゼットとサウナの内壁にありますよ・・」


そう言って皆を集め、ハッチの場所を教えて開けて見せた。


「・・あとはベッドなんですけれども、一人用にしては大きいですよね・・?・・」


「・・そおですかあ・・?・・」


「・・ハンナ・!・」


「・・いやいや、実は理由があってですね・・このベッドの下には、シークレットキットとサバイバルキットがそれぞれ一つずつ収納されています・・中身についてはマニュアルを読んでおいて下さい・・非常事態の際には、役に立つ物が収められています・・それじゃ、次に行きましょうか・・」


デッキ12に上がる。


「・・相変らずの広さと天井の高さと、この妙な明るさ・・日焼けサロンだっていれられそうだよね・・」


と、ハンナ・ウエアーが腕を上げて伸びをする。


「・・このトレーニングとエクササイズの施設を既定通りに使うのなら、使える人数は20人余りでしょう・・全員で使ったにしても、密度が低すぎてスカスカですね・・」


と、ハル・ハートリーがいかにもこんなものはいらないと言う体で言う。


「・・ここのジャグジーバスなんて、40人でも楽に入れるね・・」


と、エマ・ラトナーがやれやれと言った感じで言う。


「・・プールも全長で80mはあります・・競泳の国内選手権も開催できます・・」


と、パティ・シャノンが言う。


「・・マニュアルで読んだけど、プールは全長を120mまで延ばせるそうだよ・・だから、国際選手権も余裕で開催できるね・・」


と、腰に手を当てて言う。


「・・アドルさん・・ここはもういいでしょう・・まだ先もありますから、行きましょう・・」


と、シエナ・ミュラー。


「・・そうだね・・ここでのメンテナンスハッチの位置は、後で皆にメッセージで送りますよ・・それじゃ、いよいよデッキ11ですよ・・」


そう言って歩き出し、外に出る。


デッキ11・・・。


「・・ここが私を含む皆さんの居住デッキエリアです・・他には医療部長・スタッフドクター・看護師長・厨房ファーストシェフの個室が含まれます・・」


「・・間取りは2LDKだけど、この広さは・・?・・」


と、カリーナ・ソリンスキー。


「・・4LDKの広さはあるよね、充分に・・いや、それ以上かな・・?・・」


と、パティ・シャノン。


「・・ベッドルームが2つあるのは、どう言う事なんでしょう・・?・・」


と、ハル・ハートリー。


「・・ああ、それは・・訪問者があった場合の配慮・・と言う事らしいですよ・・まあ実際に、そう言う事があるのかどうかは分かりませんけどね・・」


「・・バスルームもシャワールームも、3倍近く広いね・・」


と、シエナ・ミュラー。


「・・サウナだって、6人は入れるよ・・」


と、エマ・ラトナー。


「・・見てよ、このクローゼット・・300着は入るよ・・」


と、ハンナ・ウエアー。


「・・へえ・・バースタンドまであるんですね・・あっ、お酒は持ち込めるんですか・・?・・」


と、エマ・ラトナー。


その点に付いては、セカンドプロデューサーのミンディ・カーツ女史が説明した。


「・・まず私物を持ち込めるのは、個室の中だけです・・武器・危険物・処方された薬剤以外の薬物・爆発物・習慣性の高い嗜好品の持ち込みは禁止です・・持ち込みたい私物は、乗艦の前に運営本部の受付に預けて下さい・・審査に通れば、個室迄お届けします・・お酒は大丈夫ですよ・・但し、飲酒が許可されているのは個室とラウンジだけです・・また、喫煙が許可されているのは個室だけです・・貴重品や壊れやすい私物は、落ちて破損しないように固定して下さい・・撮影セットですが、戦闘で被弾すれば揺れますので・・また、持ち込んだお酒のボトルをラウンジに持って入るのはご遠慮下さい・・無用な宣伝になり兼ねませんので・・持ち込んだお酒をラウンジのカウンターに預けたい場合には・・言って頂ければこちらでボトルを用意しますので、それに詰め換えてラウンジまでお持ち下さい・・」


「・・分かりました・・ありがとうございます・・」


「・・まあ、その他にも色々な規定がありますので・・マニュアルをよく読んでおいて下さい・・全く凄い部屋ですよね・・これでワインセラーでもあれば邸宅だ・・いつかは住みたい、夢の部屋って感じですよね・・・」


「・・リビングの固定端末はグレードアップされていて・・ベッドルームにも固定端末がありますね・・」


と、ハル・ハートリー。


「・・あの・・部屋の写真を撮っても良いですか・・?・・」


と、ハンナ・ウエアー。


「・・良いですけれども、画像をクルー以外の人に渡すのと、ネットにアップするのは厳禁です・・人に見せる場合は、肉眼で観て貰うだけにして下さい・・個室の間取りは非公開、と言う事になっているそうなので・・」


「・・分かりました・・」


「・・ああ、この部屋のメンテナンスハッチは、ベッドルームとバスルームとサウナにありますから、探して開けて写真に撮っておいて下さい・・」


それから暫くはメンバーの皆による、室内の撮影が続く。


メンテナンスハッチは3ヶ所とも10分程度で発見されて、画像撮影された。


「・・ゲームの最中に家族が会いに来る・・なんて事があるのかな・・?・・」


私はリサ・ミルズの隣に立って、独り言のように言う。


「・・会いに来て欲しいんですか・・?・・」


「・・ゲームが始まったら、休暇でも取らない限り実家には帰れないだろうからね・・」


「・・取れば良いんじゃないんですか・・?・・いつでも・・」


「・・そうだね・・ごめん・・」


「・・どうして謝るんですか・・?・・」


その問いには、答えられなかった。


「・・アドルさん・・そろそろ行きましょうか・・?・・」と、シエナ・ミュラー。


「・・そうだね・・行きましょうか・・ああ、最後にこの部屋のベッドの下に収納されている物についてですけれども・・シークレットキットとサバイバルキットとフードキットとメディカルキットとあとは若干の武器が収納されています・・詳細についてはマニュアルを熟読して下さい・・それじゃ、行きましょう・・」

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