第13話 メインスタッフとの朝食会


「・・改めましてもう一度、皆さんに感謝を申し上げます・・そして、ついでと言っては申し訳ないのですが・・ここに居られる皆さんに、現状で関係のある事項について申し伝えます・・ハル・ハートリー作戦参謀・・」


「・・はい、何でしょう・・?・・」


「・・作戦参謀補佐として、エレーナ・キーンさんを推薦し、面談のオファーを今日出します・・面談の日時が確定しましたら、貴女も同席して下さい・・」


「・・分かりました・・同席します・・」


と、そう言いながら彼女は驚きの表情を浮かべた・・。


「・・リーア・ミスタンテ機関部長・・」   


「・・はい・・?・・」


「・・副機関部長として、ロリーナ・マッケニットさんを推薦し、面談のオファーを今日出します・・面談の日時が確定しましたら、貴女も同席して下さい・・」


「・・了解しました・・」


と、そう言いながら彼女も、口を少し開けて眼を見開いた。


「・・パティ・シャノン天体観測室長・・」   


「・・はい・・」


「・・副天体観測室長として、ミーナン・ヘザーさんを推薦し、面談のオファーを今日出します・・面談の日時が確定しましたら、貴女も同席して下さい・・」


「・・はい・・分かりました・・」


と、彼女もそう応えながら、左手で口を押さえた・・。


「・・カリーナ・ソリンスキー・メイン・センサーオペレーター・・」


「・・はい・・」


「・・サブ・センサーオペレーターは2席、用意します・・1人目は、カレン・ウェスコットさん・・2人目はジェレイント・セキュラさんを推薦し、面談のオファーを今日出します・・面談の日時が確定しましたら、貴女も同席して下さい・・」


彼女も驚きの表情を浮かべて少しの間、話せないようだった。


「・・どうしました・・?・・」


「・・いっ、いえ・・分かりました・・了解しました・・同席致します・・」


「・・最後に、エマ・ラトナー・メインパイロット・・」


「・・はい・・」


「・・サブ・パイロットも2席、用意します・・1人目は、ソフィー・ヴァヴァサーさん・・そして2人目は、ハンナ・ハーパーさんを推薦し、面談のオファーを今日出します・・面談の日時が確定しましたら、貴女も同席して下さい・・」


彼女は立ち上がって両手で口を押さえた。15秒程そのままでいたが、我に返ると狼狽したように座り直す・・。


「・・どうしました・・?・・」


「・・えっ、はっ、はい・・分かりました・・同席します・・」


「・・尚、シエナ・ミュラー副長とカウンセラー・ハンナ・ウエアーに於いても・・出来得る限り同席して下さい・・宜しいですか・・?・・」


「・・え・はっ、はい・・分かりました・・同席します・・」


「・・り、・了解しました・・同席します・・」


「・・皆さん、ありがとうございます・・ご協力に感謝します・・これで現状に於きまして・・ここにいる皆さんに対しまして・・申し伝えるべきと思われる事項は、以上です・・」


そう言うと席に座り、リサ・ミルズから受け取った保温ポットのカバーキャップを外して、ハーブティーをキャップに注ぐと口を着ける。


「・・現状で皆さんから私に言って置きたい事とか、質問はありますか・・?・・今でなくても気が付いたり思い出したりしたら、いつでも良いですよ・・」


熱いハーブティーで喉を潤して、一息吐いてからそう言った。


「・・ところで皆さん・・お腹、空きませんか・・?・・何か、頼みましょう・・」


そう言ってウエイターを呼ぼうとしたのだが、シエナ・ミュラーが左手を私の右腕に添える。


「・・アドルさん・・実はここに来れるメンバーで話し合いまして・・軽食を作って持ち寄ろうと言う事になりまして・・・」


「・・軽食ですか・・?・・持ち込んでも良いんですか、この店は・・?・・」


「・・はい・・実は昨日の日中に私からこの店に通話を繋ぎまして・・色々と話をして今日の午前10:00までは貸し切りとさせて頂きましたので・・私達でしたら、持ち込みは自由です・・ああ、リサさんには今朝お会いした時にお話しして、諒承を頂きました・・」


と、ハンナ・ウエアーが私の問いを引き取って、少し悪戯っぽく答える。


左側を向いてリサ・ミルズの顔を見遣ると、穏やかな笑顔で頷いた。


「・・分かりました・・それじゃあ、皆さんの心尽くしを頂きましょうか・・?・・」


そう言うとリサ・ミルズ以外の全員が、テーブルの下段から思い思いにランチバッグやボックスやバスケットを取り出して、テーブルの上に置く。


開かれていくそれらを見渡すと、色取り取りで様々なオードブル・サンドウィッチ・ハンバーガー・ホットドッグ・チャバタサンド・バゲットサンド等々だ・・。


「・・何だか、すごく楽しいピクニックになりそうな感じですね・・何も食べないで出て来た甲斐がありました・・」


このような食卓は久し振りに見るので自然と目が細くなるし、空腹感にも急かされる。


不意に言い忘れた事に気付いて、副長とカウンセラーと作戦参謀を交互に見遣る。


「・・シエナさん、ハンナさん、ハルさん・・・申し訳ないんですが、言い忘れた事があったので・・エドナ・ラティスさんと、アリシア・シャニーンさんと、マレット・フェントンさんと、フィオナ・コアーさんと、ミーシャ・ハーレイさんですが・・今日中に本人と連絡を取って早目に面談が出来るように、スケジュールの調整などの段取りをお願いします・・サブポストが決まり始める前に、彼女達と話をする必要がありますので・・3人で連絡が取り切れないようでしたら、今ここにいるメインスタッフにも手伝って貰って下さい・・」


「・・分かりました、今日中に段取ります・・」


副長がそう応じる。他の2人も頷く。


「・・さあて、じゃあ、頂きましょうか・・」


大き目の紙皿を持てるだけ取ると、手が届く範囲内にいる人達に配る。


シュレッドビーフ・ゆで卵・トマト・レタスのバゲットサンドを、一つトングで取って紙皿に置き、中ぐらいの大きさのスモークドベーコン・トマト・レタス・キャベツのBLTサンドも2つ取って紙皿に置いてから、トングをリサ・ミルズに渡し、座り直してハーブティーを二口飲む。


「・・あ、あの、アドルさん・・」


と、左後ろから聴こえたので見ると、カリーナ・ソリンスキーとエマ・ラトナーが並んで立っている。


「・・どうしました・・?・・」


「・・あ、あの・・こちらを使って下さい・・」


そう言ってエマ・ラトナーが細身のバゲットナイフとフォークを・・カリーナ・ソリンスキーがケチャップとマスタードのチューブボトルをくれる。


「・・ありがとうございます・・さあ、一緒に頂きましょう・・」


「・・それと・・これをどうぞ・・」


そう言って2人とも自分のメディアカードをくれる。


「・・ありがとう・・」そう言って2枚ともスーツの内ポケットに納めたのだが、まだ2人が何か言いたそうにしているので、私は向き直って・・、


「・・どうしました・・?・・何でも言って下さい・?・」


「・・アドルさん・・ハンナやシエナもアドルさんは凄い人だと言っていました・・でも私達はさっきまでどう言う事か解らなかったんです・・でもアドルさんが先程、私達のサブポストに推薦したい人達の名前を発表した時に・・びっくりして鳥肌が立ちました・・どうして分かるんですか・・?・・ここにいるのも、発表した人達も・・皆、昔から私達の仲間なんです・・今、皆凄く感動しています・・私達をアドルさんの許に集めて下さってありがとうございます・・これはゲーム大会で・・リアリティライブショウですけれども・・勿論私達には仕事なんですけれども・・精一杯頑張るつもりです・・私達はアドルさんを信じますから・・何でも言って下さい・・よろしくお願いします・・」


私は立ち上がって俯いて涙を堪えているカリーナ・ソリンスキーの右側に立ち、左手で彼女の右手を取ると顔を上げて廻りを見渡す。


「・・私は只、リストの中の人達を調べ尽くして、一番やってくれそうな人達として皆さんを選び出しただけなんですね・・皆さんが以前からの仲間同士である事は、どこにも書いてありませんでしたし・・それを覗わせるようなものも読み取れませんでした・・ですから・・偶然だった、と言う事なんでしょうけれども・・それでも・・皆さんにとって、好い形になってきたと言うのは・・私にとっても嬉しいですし・・善い事だと思っています・・まだここに来ていない、メインスタッフメンバーもいますので・・まだ発表していない、サブポストへの推薦者もいます・・全員が揃うにはまだ時間が掛かるでしょうが・・皆で協力し合って・・早く全員が揃うようにしていきましょう・・私からも、よろしくお願いします・・」


私は手を離してカリーナに自分のハンカチを握らせる。


エマ・ラトナーも泣きそうになっていたので、リサ・ミルズがハンカチを持たせ、宥めて元の席に座らせる。


私も自分の席に座ろうとしたが、ハンナ・ウエアーが眼の前に立っている。


「・・アドルさん・・私達はこれまで一つに集まった事がありません・・誰も私達を一つに集められませんでした・・アドルさんが最初で、多分最後です・・皆、貴方に首っ丈ですよ・・」


そう言いながら自分のメディアカードを私のスーツの内ポケットに忍ばせる。


私は意識的に呼吸を抑えて顎を引いた。


(・・待てよ、落ち着いて冷静を保て・・舞い上がるんじゃない・・彼女達は私を信頼してくれる、と言う事を表明してくれているんだ・・それだけだ・・恋愛感情じゃない・・勘違いするなよ・・絶対に鼻を伸ばしてデレデレするな・・動揺するな・・顔に出すな・・)


ハンナ・ウエアーが少し不思議そうな顔で私を観ていたが、私が気付いて笑顔で観返して頷いたので、微笑んで自分の席に戻って行き、リーア・ミスタンテとパティ・シャノンが入れ替わる形で歩み寄って来る。


「・アドルさん・・私達からもお礼を申し上げます・アドルさんに対しては、感謝の気持ちで一杯です・・皆、そうだと思います・・私達もアドルさんを最後まで信頼しますので、何でも言って下さい・・アドルさんの凄い所を一杯観たいです・・全部観たいです・」


そう言いながら2人ともメディアカードを私にくれる。


「・・ありがとう・・僕も君達を最後まで信じるよ・・だから一緒に最後まで楽しんでやっていこう・・」


そう言って改めて2人と握手を交わす。


手を離すとリーアは、私のネクタイとネクタイピンの位置を調整してくれた。


パティ・シャノンは、私の両手首を取ってカフスボタンを調整してくれた。


2人とも私に微笑みを見せて踵を反し、自分の席に戻っていく。


私も自分の席に戻り、バゲットナイフでバゲットサンドをザクザクと切り分ける。


「・・じゃあ、頂きます・・」


そう言って切り分けた一つを手に取って食べようとしたが、シエナ・ミュラーが立ち上る。


「・・アドルさん・・すみませんが一つだけ・・まだ発表していないサブポストへの推薦予定者ですが・・今発表して頂ければ、ここにいる私達で手分けして連絡を取る事が出来ますので・・発表して下さい・・」


手に持っている一つを紙皿に戻して立ち上がる・・。


「・・分かりました・・それでは、発表します・・エドナ・ラティス砲術長を補佐する副砲術長としてレナ・ライスさんを推薦し、面談のオファーを出します・・エドナ・ラティスさんと連絡が取れましたら・・この件についても、彼女に報告して下さい・・次に、アリシア・シャニーン・メイン・ミサイル・コントローラーを補佐するサブ・ミサイル・コントローラーとしてアレッタ・シュモールさんを推薦し、面談のオファーを出します・・アリシア・シャニーンさんと連絡が取れましたら・・この件についても、彼女に報告して下さい・・次に、マレット・フェントン補給支援部長を補佐する副補給支援部長としてナレン・シャンカーさんを推薦し、面談のオファーを出します・・マレット・フェントンさんと連絡が取れましたら・・この件についても、彼女に報告して下さい・・次に、フィオナ・コアー保安部長を補佐する副保安部長としてカリッサ・シャノンさんを推薦し、面談のオファーを出します・・フィオナ・コアーさんと連絡が取れましたら・・この件についても、彼女に報告して下さい・・次に、ミーシャ・ハーレイ生活環境支援部長を補佐する副生活環境支援部長としてヘザー・フィネッセーさんを推薦し、面談のオファーを出します・・ミーシャ・ハーレイさんと連絡が取れましたら・・この件についても、彼女に報告して下さい・・くれぐれも申し上げますが、既に『ディファイアント』の司令部は成立していると言う事で、彼女達にもその旨の説明をお願いします・・司令部としての連絡は連絡としまして、司令部を代表する艦長として私は、彼女達との面談は可及的速やかに実施して参ります・・現状での最優先事項は・・まだお会いしていないメインスタッフメンバーとの面談を可能な限り早く実施する、と言う事です・・以上です・・質問があれば、いつでも言って下さい・・ハル・ハートリー作戦参謀・・」


「・・は、・はい・・」


「・・私がこれまでに発表した面談希望者の氏名を総て列挙して・・今日先方で会うディレクターに申し伝えて下さい・・」


「・・分かりました・・そのように先方に申し伝えます・・」


「・・宜しく・・」


そこで言葉を切った私は座り直して、食べ始める・・シエナ・ミュラーはもう既に座っている・・私とリサ・ミルズを除いて全員が放心したような表情を湛えている。


「・・うん、これは旨い・・久し振りに食べたね・・これ程のサンドは・・どう・・?・・リサさん・・?・・」


「・・はい・・とても美味しいです・・母の味に近いですね・・」


「・・ところで今日くれたハーブティーは、ブレンドじゃないね・・?・・」


「・・はい・・カモミールです・・新鮮で薫り高い素材が手に入りましたので、特別に母が淹れてくれました・・」


「・うん・・とても高い・・強く立つ薫りだね・・今朝の朝食にとても合っているよ・・」


「・・ありがとうございます・・」


「・・アドル・・さん・・いえ・・アドル艦長・・全員・・集合しました・・全員集合です・・アドル艦長・・」


右隣のシエナ・ミュラーが放心したように言う。


私は右手で彼女の左手を握る。


「・・大丈夫ですよ・・シエナさん・・落ち着いて、しっかりして下さい・・只の偶然です・・でも皆さんにとって好い形になったのは、私も嬉しいです・・シエナさんもしっかり食べて下さい・・今日も長いですからね・・」


「・・分かりました・・アドルさん・・ありがとうございます・・取り乱してすみません・・」


「・・良いんですよ・・」


シエナ・ミュラーは私の顔を観て恥かしそうに俯いたが、気は取り直したようだった。


私は握っていた手を離そうとしたが彼女が離さなかったので、握り合ったまま左手で切り分けたサンドイッチを食べていたが、5分ほどすると彼女が左手の力を弛めたので私は右手を放した。


他のメインスタッフのメンバーも気を取り直したようで、それぞれのペースで食べ始めている。


リサ・ミルズの左手側のテーブルの上にちょっとした小山のように盛られているBLTサンドを取ろうとして、立ち上って身体も手も伸ばしていたら、ハンナ・ウエアーが私の手から紙皿を取ってサンドウィッチを4つ置くと、立ち上がって私の前に持って来る。


「・・ありがとう・・」


「・・どう致しまして・・お易い御用ですよ・・」


微笑しながら私を流し目で観る

(・・出来れば止めて欲しい・・)


ふと気になったのでリサ・ミルズ以外の皆をそれとなく、気付かれないように見渡すと皆食事をしながらチラチラと私を観ている。


何とかちょっと雰囲気を変えられないものかと考えていると、この店のマスターシェフとファーストシェフが2台のワゴンを押してやって来た。


「・・皆さん、お早うございます・・本日は早朝から貸し切りとして頂きまして、ありがとうございます・・つきましてはそのお礼の一部として、厨房からの奢りでパンケーキをお持ち致しました・・ご賞味頂ければ幸いに思います・・どうぞごゆっくり、お楽しみ下さい・・」


そう言ってディシュズカバーを開き、様々なパンケーキをテーブルの上に並べ始める。


「・・へえ、美味しそうですね・・あ・それはウェルシュケーキですね・・?・・久し振りに見ましたよ・・スフレパンケーキもフルーツパンケーキも見事な出来ばえですね・・頂きましょう・・」


そう言ってウェルシュケーキを二つ、自分の紙皿に乗せる。


「・・アドル・エルクさんでいらっしゃいますね・・?・・お早うございます・・初めまして・・当店のマスターでございます・・実はアドル・エルクさんのファンでして・・昨日から連日当店をご利用下さいまして、本当にありがとうございます・・是非、ごゆっくりお楽しみ下さい・・つきましては一つ、お願いがあるのですが・・」


マスターシェフが歩み出てシェフキャップを外して挨拶する。


「・・お早うございます・・初めまして・・まだ大会は始まっておりませんが、ありがとうございます・・今後も時折利用させて頂く事になるかと思います・・何でしょうか・・?・・ご期待に沿える事であれば良いのですが・・」


そう応じながらマスターと握手を交わし、私のメディアカードを手渡す。


「・・実は我々と皆さんとでの記念撮影をお願いしたいのですが・・?・・」


「・・お店のサイトページはお持ちで・・?・・」


「・・はい・・あと宜しければこの店内にも飾らせて頂きたいと思いまして・・」


私はリサ・ミルズとシエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーを順に見遣る。


3人とも自然に頷く。


「・・良いでしょう・・撮影した画像は、私に送って頂けますか・・?・・」


「・・ありがとうございます!・分かりました、画像は総て送らせて頂きます・・」


そう言ってマスターはカメラを持って来るように指示した。


「・・さあ皆さん!・こちらのお店は今後も利用させて頂きます・・『ディファイアント』の司令部成立も記念して、コラボ撮影といきましょう!・・」


そう言って皆に立ち上がるように促す。


その後20分程に渡って、様々に画像撮影が続いた。


常にマスターをメインに据えてのツーショット・スリーショット・グループ撮影・全体集合撮影が様々なコンビネーションとヴァリエーションと演出で行われ、なかなかに盛り上がる。上手い具合に明るくフレンドリーな雰囲気に転換できたようだ・・。


「・・ありがとうございます!・思い切ってお願いしてみて良かったです!・撮影した画像は総てアドル・エルクさんにお送り致します・・何か問題があれば、ご指摘をお願いします・・使用する場合も適切に選んで、慎重に掲載させて頂きます・・本当にありがとうございました!・・」


私や皆に何度もお礼を言って、マスターとカフェのスタッフ達は退がっていく。


私も皆も、何度も握手を交わし合った。好い雰囲気になって良かった・・。


安堵して自分の席に座り直す。皆もそれぞれ自分の席に戻って朝食に取り組み始める。


BLTサンドとウェルシュケーキを一つずつ食べ終わったぐらいの頃合いで、シエナ・ミュラーが口を開く。


「・・アドルさん・・待ち合わせの10:00にはまだ早いですが・・早く始めた方が用事も早く終わりますし・・そろそろ行きませんか・・?・・」


「・・そうだね・・今ここでお腹を一杯にしちゃったら、向こうでの動きが鈍くなるだろうし・・用事が早く終われば、ランチもゆっくり楽しめるでしょう・・それじゃあ皆さん!・朝食はここで切り上げましょう・・ハルさん・・マスターを呼んで下さい・・シエナさん・・皆さんと協力してこのピクニックランチを均等にパッケージし直して下さい・・ハンナさん・・マスターが来たらこれから言う2つの事で許可を求めて下さい・・一つ目は、このピクニックランチを暫くの間、冷蔵庫の中に入れさせて欲しいと言う事と、2つ目は、人数が多いので車は使わずに徒歩で『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』に向かいますので戻るまでの間、車を駐車させて欲しいと言う事です・・エマさん・・マスターがこの2つを諒承して下さったらひとつ、お願いをしてみて下さい・・ランチタイムに私達からマスターにご連絡を差し上げますので・・このピクニックランチを配達して頂けますでしょうかと・・それなりの謝礼も差し上げられますので、との口添えもお願いします・・リサさん・・私達がこのお店を出る直前に向こうに通話を入れて、プロデューサーかディレクターの誰かに誰誰がこれから徒歩で向かいますと、具体的に通知して下さい・・ハルさん・・リサさんの通話が終わりましたらハルさんからも直ぐに通話を入れて、先程に私がお願いした面談オファーの用件の詳細を具体的に通知して下さい・・宜しいですか・・?・・では、宜しくお願いします・・私はちょっと外で一服して来ます・・」


そう言うと私は立ち上がり、コートを片手にして店の外に出た。


店の出入り口のドアの脇にはベンチが置いてあり、すぐそばに灰皿が設置されている。


ベンチに座って一服点ける。少し深めに喫って吐く。


シエナ・ミュラーの発言を反芻してみる。彼女と話す必要があるだろうか・?・。


彼女の発言は確かに私に対して注文を付けるものだが、まだ私の行動を操作しようとするほどの意志や意図は感じられない・・これがあと2.3続くようなら話をする必要が出て来るだろう・・そう想いながら2服目・3服目を喫って吐く。


・・ほぼ同時刻、店内・・


ハンナ・ウエアーがマスターと話をしている隣で、全員でピクニックランチをパッケージし直している。


エマ・ラトナーが手を止めてシエナ・ミュラーに声を掛ける。


「・・ねえ、シエナ・・あなた、アドルさんに注文を付け過ぎなんじゃないの・・?・・アドルさんはまだウザがっていないと思うけど・・あと2.3続いたら、言うと思うわよ・・」


「・・そうね・・自分でも分るわ・・ありがとう・・もう控えるようにするから・・」


そう応えるシエナの声に後悔が滲んでいるのを聴き取ったのか、エマもそれ以上は言わない。


「・・それにしても、どうしてアドルさんは私達のグループの事を知っていたのかしら・・?・・」


パティ・シャノンが不思議そうに、誰に言うでもなく独り言ちる・・。


「・・偶然よ・・アドルさんもご自身で言われていたけど、私達のグループの事は、どこをどう観たって読み取れるものじゃない・・アドルさんが貰ったリストに私達が載っていたのは偶然だった・・でもアドルさんは、私達に何かを感じて選んでくれた・・そこがアドルさんの凄い所で・・」


「・・何故か惹かれる所でもあるのよね・・」


パッケージ作業の手を止めずに応えたシエナ・ミュラーの返事の後を、エマ・ラトナーが引き取る。


「・・エマ!・アドルさんのいる所でそんな事言わないでよ・!・」


リーア・ミスタンテが眼を剥いて釘を刺す。


「・・言う訳ないでしょ!・こんな恥かしい事・・」


そこでハンナがエマを呼ぶ。


エマが見るとハンナがピースサインに続いてOKサインを見せる。


エマは作業を止めて服装を整え、身繕いしてマスターに歩み寄る。


マスターが呼んだカフェのスタッフが3人来て、ピクニックランチのパッケージを1回で厨房に運び込んだ。


リサ・ミルズとハル・ハートリーは2.3言葉を交わしてから、お互いに携帯端末を取り出して起動させ、通話を繋ぐ。


マスターと話しているエマの表情に笑顔が弾ける。


マスターも笑顔で話しに応じている。丁度その頃合いで私が店内に戻った。


私を認めたマスターが笑顔でサムズアップをキメて観せてくれたので、私も冗談めかして敬礼で応じる。通話中の2人を除いて、皆が私の周りに集まる。


「・・大丈夫・・?・・」と訊く。


「・・はい!・大丈夫です!・」


ハンナ・ウエアーとエマ・ラトナーが完璧なハーモニーで応える。


「・・あ、あのアドルさん・・まだ時間も早いですし、私どもとしましてもこのままではお名残り惜しいですので、デザートとお茶をご用意させて頂けませんか・・?・・」


私がシエナ・ミュラーを見遣ると、彼女は落ち着いた笑顔で頷いた。


「・・分かりました、マスター・・こちらのお店とはこれからも懇意にさせて頂きますし、折角のマスター心尽くしのもてなしを辞退する事はできません・・喜んで頂きます・・」


「・・ありがとうございます!・では早速、お持ちします!・・」


そう応え、マスターはスタッフと共に厨房に退がる。


「・・アドルさん、連絡を終えました・・ブリーフィングとレクチャーの準備をして待っているそうです・・」


「・・こちらも終えました・・先程アドルさんが発表された面談希望者については、その全員に於いて面談のオファーを伝えました・・」


そう私に報告して2人とも携帯端末をしまう。


「・・ありがとうございます・・助かります・・じゃあ皆さん、お茶とデザートを頂きましょう・・」


またそれぞれ、先程自分が座っていた席に座る・・それから2分程でマスターと3人のスタッフがデザートのプリンと紅茶のポットを運び込み、それぞれの眼の前でミルクティーを淹れ、プリンを置く。


先にミルクティーを一口飲んだが・・美味い・・自分でこの味は出せそうにない・・。


「・・このミルクティー、美味いね・・」と、リサ・ミルズに言う。


「・・使っている茶葉が最高ランクに近いものですね・・普通このランクの茶葉は、ミルクティーに用いません・・」


「・・そうか・・なるほどね・・」


プリンもピュア・スタンダートな味わいで、非常に好感の持てる逸品だ・・。


「・・ちょっと、そのままで聴いて下さい・・今日私と初めてお会いした方は、向こうに着きましたら生体認証用に生体データを採取した後で、それぞれに就いて貰う役職についてのレクチャーとブリーフィングが行われます・・そのブリーフィングの中で、このゲームの中でだけで使用できる個人用の携帯端末とpadとpidメディアカードが貸与されます・・メディアカードには生体データを登録したチップが封入されますので、帰るまでには貸与される筈です・・次いで皆さんには個別に承認アクセスコードが付与されますので、これは暗唱するようにして下さい・・皆さんそれぞれに割り当てられるアクセス権限に於いて、プログラム設定に改変を加えた場合に、コンピューターから口頭でのアクセスコード入力が求められます・・ゲームに参加する場合には、今日貸与される3つのアイテムを必ず持参して下さい・・一つ忘れただけでも乗艦は認められませんので、これは徹底して下さい・・取り敢えず私からは以上です・・」


そう締め括ってミルクティーを半分まで飲む。


(・・う・ん・これは普通の紅茶で飲んだ方が好いな・・・)


プリンは食べ進めるほどに懐かしさが蘇る・・たまには食べないと、思い出せなくなりそうな味わいだ。


「・・ねえ、リサさんとアドルさんは一緒に働いているの・・?・・」


エマ・ラトナーがプリンを一口食べて訊く。


「・・そうですよ・・同僚です・・」


「・・アドルさんて、職場の中ではどんな方なんですか・・?・・」


パティ・シャノンがティーカップを置いて訊く。


「・・営業課の係長さんで課内でも人望がありますし、多くの社員から頼られていますし実際、凄く頼りにもなる方です・・」


リサ・ミルズも淀み無く応える。


「・・お仕事は、お忙しいんですか・・?・・」


リーア・ミスタンテも興味深そうに訊いてくる。


「・・おかげ様で・・今はこのネームヴァリューのおかげで、私を指名して新しい取引を申し込まれて来る顧客の方々が毎日増えていましてね・・沢山の人に手伝って貰って何とか対応していますよ・・」


「・・ねえ、リサさん・・アドルさんは女性社員の皆さんの中では、人気があるの・?・・」


このカリーナ・ソリンスキーの質問には、シエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーが反応して彼女の顔を強めに視たが、口に出しては何も言わなかった。


「・・あると思いますね・・私がアドルさんの秘書に選ばれた際にも、風当たりが強かったですから・・」


リサ・ミルズの返答が、僅かな驚きの波を拡げる。


「・・でも不思議ですよね、アドルさんて・・見た目はそんなに・・」


エマ・ラトナーがそこまで言った時に・・。


「・!エマ!!・」


シエナ・ミュラーが口を開くより先にハンナ・ウエアーが鋭く声を掛ける。


「・・すみません・・ちょっと言い過ぎました・・ごめんなさい・・」


左手で口を押さえて申し訳なさそうに言う。


「・・言い過ぎじゃなくて、失礼でしょ!?・」


「・・ごめんなさい・・」


「・・大丈夫ですよ・・僕も不思議ですから・(笑)・」


笑って貰うつもりで言ったのだが、誰も笑わなかった・・(マズったか?)


リサ・ミルズとシエナ・ミュラーとハンナ・ウエアーがお互いに目配せし合い、プリンを完食してスプーンを置いてからミルクティーを飲み干してカップを置き、ナプキンで口を拭う。


「・・ご馳走様でした・・ありがとうございました・・それではアドルさん・・参りましょうか・・?・・」


シエナ・ミュラーが私の顔を観て微笑む。


私はもう食べ終わっていたので、ナプキンで口を拭って立ち上がる。


「・・分りました・・それでは皆さん・・朝食会はこれで終了して、行きましょう・・リサさん・・貸し切り料金にランチパックを配達して貰える謝礼も含めて、マスターに支払いをお願いします・・」


「・・アドルさん・・貸し切りは私から申し込みましたので、私が支払います・・」


「・・いえ、ハンナさん・・リサさんが同席している場合には、皆さんに経済的な負担をして頂く、と言う事はありません・・任せて下さい・・」


「・・分かりました・・お世話になります・・」


「・・どう致しまして・・」


リサ・ミルズがマスターに支払いをしている様子を観て、カリーナ・ソリンスキーがエマ・ラトナーに近寄って言う。


「・・ねえ、あれってもしかしてビット・カード・・?・・私、初めて観た・・」


「・・ええ、私も国内で観たのは初めてよ・・リサさんをアドルさんの秘書に就けたのは会社の役員会だって話よね・・?・・お金のサポートも万全って訳ね・・」


支払いを終えてマスターに改めて礼を言い、全員で外に出る。


時間は経過しているが、変わらず寒い・・早朝より気温が下がったようにも感じる・・。


私とリサ・ミルズで先頭に立って歩き始める・・歩道が広いので余裕を以って歩ける。

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