第9話 単独インタビュー動画収録

副長の控室はブリッジを挟んで正反対の位置にある。


内装や設備はほぼ同じだったが、水槽は無く同じ場所に空間が空いている。


何でも置いて飾れるように、との配慮かも知れない。


「・・いずれも性能諸元に詳細が明記されていますので、お読みください・・それでは、次のデッキはバトルブリッジです・・」


「・・デッキ2・・」


「・・ここがバトルブリッジです・・深刻な被害を被ってメインブリッジが使用不能になった場合とか・・戦闘目的のためにのみ使用するブリッジです・・一応、メインスタッフ全員の席はありますが、サブスタッフの席はありませんし・・パネルも、よりコンパクトにまとめられています・・ブリッジスケールも60%程ですね・・控室もありません・・機能的には制限されていますが、戦闘集中制御には特化しています・・」


ブリッジとしては狭くて殺風景だが、強さは感じさせる。


「・・撮影セットとしては、デッキ2まで・・ここまでです・・この下にデッキ1がありますが・・そこはスタッフオンリーです・・口頭で説明しますが、全セットに配置されているリモートコントロールカメラの集中遠隔管理制御システムと・・スタッフの仮眠室と休憩室があります・・雑駁なものでしたが、セットの見学と説明については以上です・・繰り返しですみませんが、ルールと性能諸元・・使用と操作方法の詳細については、マニュアルを精読して下さい・・何か、ご質問は・・?・・」


「・・今のところは・・ありません・・」


「・・ありがとうございます・・それでは、1階に上がりましょう・・」


1階にまで戻って来ると、少なからず興奮してワクワクしている自分を感じた。


ラウンジの大きめのテーブルの周りに椅子を並べて全員で座り、歩み寄って来た受付嬢に飲み物を頼む。


「・・どうもお疲れ様でした・・いかがですか? 撮影セットを初めてご覧になって・?」


と、マルセル・ラッチェンスが訊く。


「・・いや、今はもう興奮してワクワクしています・・早くブリッジでキャプテンシートに座って指揮したいですね・・また、撮影セットがあれほど本格的に造り込まれているとは思っていませんでしたので・・驚きました・・マニュアルをよく読み込んで、検討したいです・・セットの見学は、もう一度できますか・・?・・」


「・・お褒めを頂きまして、ありがとうございます・・先ず、気に入って頂けたようで、良かったです・・ゲームの開幕にはまだありますので、こちらに来て頂けるのなら見学は容易ですね・・撮影セットもまだ最終決定と言う訳ではありませんので・・微妙に修整する可能性はありますが、基本的には今ご覧になって頂いた状態でやります・・来て頂ければ、また最大限に協力させて頂きますよ・・」


「・・ゲーム大会の開幕日時は、まだ決まらないのですか・・?・・」


と、リサ・ミルズが訊いた。


「・・大変に申し訳ないと思っておりますが、いまだ最終決定ではありません・・様々な準備に掛かる時間の配分に不分明な部分がありまして、現在調整中です・・それでも開幕までには30日プラスマイナス5日間の範囲内であろうと考えています・・改めまして、艦長であるアドル・エルクさんに於かれましては、ご迷惑及びご心配をお掛けしまして大変に申し訳ありません・・」


「・・ゲーム大会の開催自体に間違いは無いですよね・・?・・」と、私が訊く。


「・・それは誓って・・」


「・・私はこれまでに5回、このようなゲーム大会に応募して落選しました・・このゲーム大会はリアリティ番組との共催もありますが、その開催規模・注目度・関心度・話題性、どれを取っても桁違いに盛り上がっています・・ハードシステムの面でもソフトシステムの面でもマンシステムの面でも、その準備と整備に掛かる時間とお金は相当なものになるでしょうから、それらを稼ぐためにもゲーム大会が開幕するまでの間に、様々なイベントを企画して世間の耳目もお金も集めたいと言うのも分かりますが、大丈夫なんですか・・?・・」


「・・アドル・エルクさんからは、そこまでのご心配とご懸念を頂きまして、本当に申し訳ないと言う想いと、本当に有難いと言う想いがあります・・が、大丈夫です・・このビジネスプロジェクトの全体としても、それぞれ個別のプロジェクトプランの運営と運用に於いても現状で毎日2回、マネジメント・セキュリティチェックを掛けておりますので、最後まで安全に無理の無い形で運営と運用を続けられるものと考えております・・ゲーム大会開幕5日前からは、このマネジメント・セキュリティチェックを1日に3回掛ける事も既に予定されておりますので、本当に安全に安心してお楽しみ頂けるものと確信しております・・ご心配は有難く頂きますけれども、是非ともご安心の上、お楽しみ下さい・・・」


「・・分かりました・・そこまで仰って頂けるのでしたら、私としても安心して参加できると思います・・無理はなさらずに頑張って下さい・・」


「・・有難うございます・・安全には最大限に配慮を続けながら、最後まで無事に運営して終えられるようにします・・」


マルセル・ラッチェンスがそう言い終るまでの間に、貰ったコーヒーはもう飲み終わった。


「・・アドルさん・・朝早くからおいで頂きまして、ありがとうございました・・今日の時点で貴方にお話ししたかった事、お渡ししたかった物、お見せしたかった物、についての予定としては達成できました・・疑問、ご質問がありましたら、また今後それらが浮かび上がりましたらいつでも、今日お渡ししました誰の連絡先でも構いませんので、メッセージでお寄せ下さい・・可及的速やかに対応させて頂きます・・」


と、アランシス・カーサーが言う。


「・・分かりました・・ありがとうございます・・」


「・・それで、アドル・エルクさん・・いかがでしょう・・?・・シエナ・ミュラーさんとのアポイントメントは、昼食を挟んで13:00と言う事にさせて頂いております・・ハル・ハートリーさんとのアポイントメントは、その1時間後の14:00とさせて頂きました・・お昼までにはまだ時間もありますので・・宜しければインタビュー動画の撮影にご協力を頂けないでしょうか・・?・・今回のゲーム大会とリアリティ・ゲームショウに共通の宣伝プロモーションビデオの1部として、インタビュー動画を活用させて頂きたいのです・・ご存じないかも知れませんが・・20人の艦長の中でもアドル・エルクさんは非常に人気度が高く、トップクラスの注目度でもありますので・・ご協力を頂けると本当に有難いのですけれども、いかがでしょうか・・?・・」


と、ミンディ・カーツ女史がお伺いを立ててくる。


それには、リサ・ミルズが素早く反応した。


「・・今日お預かりしましたこのpadの中に、アドル・エルク氏とそちらとの契約条項文書は、入っているのですか・・?・・」


「・・勿論、入っておりますよ、リサ・ミルズさん・・」


「・・そちらが制作する様々なソフトメディア作品に、アドル・エルク氏が様々な形態で出演したり作品の制作に協力した場合の、そちらからアドル・エルク氏に対する処遇に関する条項もありますか・・?・・」


「・・それも勿論、入っております・・」


「・・では、正式な契約締結が未了ですのに、アドル・エルク氏に対してインタビュー動画への出演を要請するのは、違法性が高いのではありませんか・・?・・」


「・・要請や依頼自体に違法性は無いと言えるでしょう・・正式契約の締結前である事は事実ですので・・個別の業務提携案件として、個別に契約条項をお互いに確認・了承して締結すれば、問題は無いと考えます・・」


「・・それでは、先程要請されたインタビュー動画への出演は、個別の業務提携案件として、こちらで契約条項の案を作成してそちらに提出しますので、検討して頂けますでしょうか・・?・・」


「・・分かりました・・こちらとして、異存はありません・・」


「・・それでは今から作成に入りますので、このpadに入っている契約条項文書をプリントして頂けますでしょうか・・?・・」


「・・それは承知致しました・・では、暫く時間を置きましょうか・・?・・」


「・・案は数分で作成しまして、皆さんのワークアドレス宛てに送信致しますので、ご検討をお願いします・・」


「・・承知致しました・・それでは、暫時休憩としましょう・・私どもも一旦失礼させて頂きまして、一度オフィスに戻ります・・このままここでお休み下さい・・長くても十数分程度で戻ります・・お申し付けのプリントは直ぐにお届け致します・・お飲み物はいかがですか・・?・・」


「・・では、ジンジャーエールをお願いします・・」


「・・私はお水で・・」


「・・分かりました・・ではごゆっくり・・暫く失礼致します・・」


そう言うと、プロデューサーもディレクターも席を立ち、私達に一礼して退がって行った。


リサ・ミルズは自分の携帯端末を取り出す。


私は預かったpadを起動して、カメラで右目の網膜をスキャンして中のデータにアクセスすると、契約条項文書をモニターに呼び出し、その状態のままで端末を彼女の前に置く。


彼女は文書を読みスクロールさせながら、自分の端末で契約文書案の作成を始める。


物凄いスピードだが滑らかに文字を打ち込んでいる。


ジンジャーエールと冷水が届けられたので、一口飲む。


三口目を飲んだぐらいで、プリントされた契約条項文書が届けられる。


私は文書を受け取ると、ジンジャーエールはその場に残して立ち上がり、灰皿が置いてあるテーブルまで歩いて行って座り、一服点けて喫い始め、喫いながら文書を読み進める。


彼女を見遣ると一分に一回位で冷水のグラスに口を付けている。


七割ほどを読み終えたぐらいで一服喫い終ったので、元居た席に戻って座り、ジンジャーエールを二口飲んだ。


文書の残り三割を、ジンジャーエールを飲み干すぐらい迄で読み終えて、私は文書をテーブルの上に置く。


それから3分程で彼女は入力を終えて送信する。


端末を置いて笑顔を見せた彼女と顔を見合わせた時、私は今日彼女と一緒に来て本当に良かったと思った。


「・・ご苦労様・・すごいね・・」


「・・いえ・・ありがとうございます・・」


彼女に文書を渡したら読み始めて、読み終えてバッグにしまうまでで5分程が経過したようだ。


丁度その頃、先程退がった5人が戻って来た。


「・・お待たせ致しました・・アドル・エルクさん、リサ・ミルズさん・・契約書の案は全員が受け取りまして先刻皆で話し合いましたが、いや、驚きました・・リサ・ミルズさんはお若いのに凄い方ですね・・これだけの短時間であれほどの契約文書を作成されるとは・・それだけでも優秀さを充分に示すものだと思います・・ああ、前置きが長くなってしまって申し訳ありません・・契約条項をこちらでも協議しましたが、全項目に於きまして了承させて頂く事と致しました・・何の異論もございません・・そのまま了承させて頂きます・・」


マルセル・ラッチェンスがそう告げて歩み寄って来たので私とリサ・ミルズも立ち上がり、握手を交わす。


「・・了承して頂きまして、ありがとうございます・・速い契約の締結に感謝致します・・それでは宜しければ・・当方から送信致しました契約文書のテキストに・・承認の法人スタンプを貼付して頂きまして・・こちらに返信して頂きますでしょうか・・?・・それを以ちまして・・正式な契約の締結とさせて頂きたいと思います・・」


リサ・ミルズが彼と握手を交わしながらそう応じる。


「・・了解致しました・・直ちにそのようにさせて頂きます・・こちらとしても、速い契約の締結に感謝を申し上げます・・」


そう言いながら手を離したマルセル・ラッチェンスは、ミンディ・カーツ女史に左手で合図をする。


カーツ女史は自分の携帯端末を操作して、リサの端末に送信したようだ。


リサの端末が受信音を発したので、取り上げて内容を開き観て確認した。


「・・返信をありがとうございます・・内容は確認致しました・・これを以ちまして本個別案件での契約は締結されたと確認致しました・・」


「・・ご丁寧に、ありがとうございます・・」


「・・尚、お預かりしましたこちらの中の契約条項文書に於きましては・・後日こちらから返信させて頂くと言う事で、宜しいでしょうか・・?・・この場で私の一存に於いては、返信致しかねる部分もございますので・・?・・」


「・・了解致しました・・それは後日の返信と言う事で、こちらとしても結構です・・」


「・・ありがとうございます・・寛大な対応に感謝申し上げます・・」


そこで他の4人も歩み寄って来て、交互に握手を交わす。


「・・それであの・・宜しければ、このまま撮影の準備に入らせて頂きたいと思うのですが、いかがでしょうか・・?・・」


「・・はい・・結構です・・大丈夫ですよ・・準備ですか?・メイクとかしますか?・・」


と、デザレー・ラベル女史が私と握手を交わしながら訊いて来たので、リサを見遣ると彼女も私の顔を見て頷いたので、そう応じた。


「・・はい、簡単ですが撮影用にメイクアップさせて頂きます・・衣装も換わられた方が宜しいですか・・?・・」


「・・いえ、衣装はこのままで良いと思います・・ただ、ネクタイは外しましょう・・」


リサ・ミルズがそう応じて歩み寄ると、ネクタイを弛めて外した。


「・では、アドル・エルクさん・メイクルームにご案内致しますので、こちらへどうぞ・」


そう言ってミンディ・カーツ女史が先に立って歩き始めたので、後に従って歩き出す。


リサ・ミルズも後ろに続いている。メイクルームは2階に上がって直ぐの部屋だ。


コートをメイクスタッフに預けると、大きくて綺麗な鏡の前に座らされてメイクを受ける。


リサ・ミルズは、左後ろで椅子に座っている。


終ると髪がナチュラルに格好良く観えるように整えられ、ヘアスプレーを掛けられる。


「・・終りました、アドル・エルクさん・・いかがでしょうか・・?・・」


メイクアップアーティストの方がそう言って、手開き鏡を私の後ろで開いて見せてくれる。


「・・あ、・・はい・・ありがとうございます・・」


そう応えて立ち上がると、リサ・ミルズも立ち上がる。


「・・それでは、アドル・エルクさん・・今から収録スタジオの方にご案内致しますので、こちらへどうぞ・・」


メイクスタッフから預けて置いたコートを受け取ると、デザレー・ラベル女史がメイクルームに入って来てそう言い、私達を促して外に出た。


「・・収録スタジオは5階にありますので、お願いします・・」


そう言われて、その5階のスタジオまで引率されて入る。


そこには1人座り用のちょっと豪華なオレンジ色のソファーが置いてあり、ライトが当てられてカメラが向けられていた。


そこで待っていたハイラム・ケラウェイが私達を出迎えて言う。


「・・どうも、アドル・エルクさん・・ご協力に感謝します・・ここでインタビュー動画の収録を行います・・その席に座って頂きまして私が質問するのですが、アドルさんのお答えの部分を撮影して収録させて頂きます・・勿論、お答えは任意で頂きますので、答えたくない場合や答えられない場合に於きましても、遠慮なくその旨を仰って頂いて結構です・・何かご質問はありますか・・?・・」


「・・希望される収録時間は、どのくらいでしょうか・・?・・」


と、リサ・ミルズが訊く。


「・・そうですね・・厳密に決めている訳ではありませんが・・20分は頂きたいところでしょうかね・・」


「・・分かりました・・」


「・・それでは、アドル・エルクさん・・お座り下さい・・」


そう言われてソファーに腰を下ろす・・凄く柔らかい・・バランス良く座って観えるように調整する。


「・・えっと、深くお座り下さい・・それで背凭れに背中を付けないようにして頂きまして・・お尻を背凭れと座面の間に入れるようにして頂ければ、安定して座っているように観えますので・・そうですね・・その姿勢です・・すみませんがその姿勢を維持して頂くようにお願いします・・」


私にそう指示するとハイラム・ケラウェイは、右手を挙げて合図しスタイリストを呼び寄せる。


女性のスタイリストが飛んで来て、私の周りを素早く動き回りながら、細かい身嗜みとか髪形のバランス等を整える。終わるとすぐに退がった。


「・・はい、ライト!? 」


「・・ライト、OK! 」


「・・カメラ!? 」


「・・カメラ、OK! 」


「・・サウンド!? 」


「・・サウンド、OK! 」


「・・それではアドルさん・・参ります・・深呼吸して、リラックスしましょう・・そうです・・あと3回、深呼吸して落ち着きましょう・・はい、良いですね・・もう少し背筋を伸ばして・・はい・・顎を引きましょう・・はい・・その微笑を絶やさないようにお願いします・・はい・・良い表情です・・それではいきます・・最初の質問です・・」


「・・お名前と年齢とお仕事と家族構成について、お願いします・・」


「・・アドル・エルクです・・38才です・・クレイトン国際総合商社の、営業係長職です・・妻と娘がいます・・」


「・・当選した事が判った時の、感想をお願いします・・」


「・・何が起きた?って感じでしたね・・それから時間を置かずにセカンドディレクターの方から通話があったので、マジ?!って感じになりました・・」


「・・それからアドルさんの身辺で、何か変わりましたか・・?・・」


「・・いや、もうそれは・・急速に変わりましたね・・実感できたのは職場での関係でしたが・・」


「・・ことにアドルさんが勤められている会社の対応は、素早いものでしたね・・?・・」


「・・そうですね・・それに手厚いサポートも早い段階から頂けましたので、その点では非常に感謝しています・・」


「・・職場の同僚の方以外でのご関係では、変わったところはありましたか・・?・・」


「・・家族はまあ、驚いていましたね・・初めての事でしたので・・職場の同僚とか取引関係の友人以外での人付き合いで言うなら・・学生時代からの友人とかSNSでの友人関係と言う事になるのかも知れませんが・・随分と心配してくれて、沢山メッセージとか頂きましたね・・」


「・・次に、このゲーム大会に於いて希望される艦種と、何故その艦種を選ばれたのかについて、改めてお願いします・・」


「・・私は軽巡宙戦闘艦を選びました・・その理由についてですが先ず、設定されるフィールドスペースが岩塊やデプリが数多く浮遊する空間であると言う事ですので、急発進・急加速・急減速・急停止ができて、小回りの効く艦種が有効であろうと判断しました・・また、私が指揮する人数をできるだけ少なく抑えたかったので、軽巡宙艦にしたと言う事もあります・・軽巡宙艦でしたら艦内ポストを多めに設定しても、70名は超えないだろうと見積もりましたので・・」


「・・軽巡宙艦でどのように戦っていこうと考えておられますか・・?・・」


「・・脚を活かしたヒットアンドアウェイですね・・隙を突いた一撃離脱で、こちらにダメージを溜めずに相手にダメージを強いる戦法でいこうと思います・・」


「・・戦果によって経験値が付与されます・・それを用いて艦の機能を強化できるのですが、どの機能を優先的に強化したいですか・・?・・」


「・・それはその都度に、メインスタッフで話し合って決めようと思っています・・」


「・・医療室と厨房を除けば、他のクルーは女性と言う事になります・・どのように指揮していこうと思っていますか・・?・・特に平時での人間関係は、どのように構築しようと思われていますか・・?・・」


「・・戦闘時・非常時での指揮は、スピーディーにやりたいですね・・それでも必要以上に語気は強めないで、言葉遣いも荒くしないでやりたいですね・・平時には、あれこれ口出ししたくないので基本的には任せようと思っています・・」


「・・アドル・エルクさんのお好きな女性芸能人の方をスタッフに迎えると言う事は、考えましたか・・?・・」


「・・私は元々芸能界とか女優さんとか女性のアーティストの方に、好きな人と言うのは特にいないんですね・・最初に女性芸能人530 人のリストが送られまして・・その中から選んで欲しいとの事でしたので、リスト中の人達を色々と調べて適性や適材適所を考えながら選びましたので、好きな人を入れると言うのは考えませんでした・・」


「・・クルーの誰かに、好意を持ってしまう可能性については如何でしょう・・?・・」


「・結婚していますので、恋愛的な好意を持ってしまうと言う事にはならないでしょう・」


「・・クルーの誰かに、恋愛的な好意を持たれてしまったら、どうしますか・・?・・」


「・・告白されたら、断る方向でお話をします・・」


「・・クルーの誰かを、食事に誘うと言う事は、あり得ますか・・?・・」


「・・2人で話す必要がある場合に、そうした方が効果的であると思えたら、そうするかも知れません・・」


「・・クルーの誰かから、食事に誘われたらどうしますか・・?・・」


「・・基本的には応じます・・2人きりになる訳じゃありませんから・・」


「・・クルーを名前で呼びますか・?・ポストで呼びますか・?・」


「・平時に於いてはポストで呼ぶと思いますが、急ぎの場合にはファーストネームで呼ぶこともあるでしょう・・」


「・・出航したら、先ず何をしますか・・?・・」


「・・訓練ですね・・高速航行訓練・・高速での近接操艦・・砲撃訓練・射撃訓練・・色々ですね・・」


「・・ゲームへの参加は、週末ですか・・?・・」


「・・基本的にはそうなりますね・・毎週と言う訳にはいかないかも知れませんが・・」


「・・他艦に遭遇したら、どうしますか・・?・・」


「・・同じ軽巡宙艦だったら、気付かれずに接近して攻撃できるかどうかを考えます・・」


「・・重巡宙艦だったら、どうしますか・・?・・」


「・・すっ飛んで離脱します・・勝負になりませんから・・」


「・・戦果に応じて賞金も支給されますが、それはどうしますか・・?・・」


「・・それについては、考え中です・・」


「・・取り敢えずの目標をお願いします・・」


「・・出来るだけ早い段階で1隻、大破に持ち込みたいですね・・」


「・・撃沈ではないのですか・・?・・」


「・・撃沈する事に固執はしません・・大破に持ち込んでほぼ無力化させられれば、相手からの反撃を考慮に入れる必要がなくなるので、それで充分だろうと思っています・・」


「・・撃沈した方が付与される経験値は大きいですし、支給される賞金も高額になりますが、それでも・・?・・」


「・・大破にまで持ち込んでも、そこから撃沈まで押し切るには、結構時間もエネルギーも掛るものなんですよ・・他艦の存在の有無が周辺の宙域で確認できていない状況でそこまで押し切ろうとするのは、非常に危険です・・」


「・・周囲に他艦がいないと確認できていれば、押し切りますか・・?・・」


「・・そうですね・・押し切っても良いんですが、対艦戦闘を展開すると大きいエネルギー反応がかなりの遠距離からでも検知できるので・・それに釣られた他艦が接近してくる可能性もありますから・・その場合には敢えて近くにまで引寄せて叩く、と言う戦法も採れると思いますね・・」


「・・今日、撮影セットを見学して頂きましたが、ご感想をお願いします・・」


「・・先ず、撮影セットと言いましても、物凄く本格的に細部にまで拘って造り込まれていた点に於いては、驚きましたし感激しました・・使い易いスケールで造られていて、まるで本物の艦の中にいるような感覚もありました・・」


「・・ありがとうございます・・一番のお気に入りと言ったら、どちらでしたか・・?・・」


「・・やはりブリッジですね・・あのデザインも、効率的・効果的で操作性の高そうなレイアウトも気に入りました・・勿論、ラウンジも、艦長の個室も気に入りましたよ・・」


「・・アドル・エルクさんは、同じ艦長に当選されたハイラム・サングスターさんと最近、お会いになりましたよね・・?・・」


「・・はい、偶然でしたがお目に掛かりました・・」


「・・アドル・エルクさんが感じられた、ハイラム・サングスター氏の印象をお願いします・・」


「・・そうですね・・お会いしたのはごく短時間だったのですが、さすがに現職の艦長さんですし・・彼の経歴や実績は多くの人の知るところですから、威圧感は強く感じましたね・・ただ話してみると非常に柔らかい物腰で、紳士的な対応をされる方でしたね・・」


「・・どんな会話をされたんですか・・?・・」


「・・いや、ただ簡単な挨拶をお互いに交わしただけですよ・・」


「・・ハイラム・サングスター氏が指揮する艦と、ゲームフィールドで遭遇したらどうしますか・・?・・」


「・・実際にそうなってみないと分かりませんが、そうなる以前からの経緯と状況の変化や推移を踏まえて、どうするかを決める事になるでしょうね・・」


「・・はい!! カット!! OK! アドルさん・・ここでひとまず区切りましょう・・ありがとうございました・・お疲れ様でした・・収録時間としては、まだ短いのですけれども・・少し時間を置く事にします・・PVの完成はまだ先ですので、またインタビュー動画の収録を行おう、と言う事にもなるかも知れませんが・・その際にはまた、ご協力をお願い致します・・」


少し唐突な感じもしたが、インタビュー動画の撮影・収録は中断された。


自分で振り返っても、面白味の薄い受け答えだったかも知れない。


私のキャラを掘り下げようとして色々と質問していたが、当たり障りの無いような答え方をしていたし、はぐらかすような答え方もしていたから無理もない。


プライバシーに近いと思う部分については初めから答えるつもりも無かったから仕方ない。


単独のインタビューだと、こんなものなのかも知れない。


数人の艦長を連座させて同時にインタビューしたり、艦長同士を対談させてその模様を収録するなら、もっと話もバラエティー豊かなものになるかも知れない。


立ち上がってハイラム・ケラウェイと握手を交わす。


その時に気付いたが見学者が大勢いたようで、収録が終わったと観るや連れ立ってスタジオに入って来るのが見えた。


40数人の男女と1人ずつ挨拶と握手を交わし、激励や期待やお褒めの言葉も頂きながら、メディアカードを交換する。


驚いたが社長・副社長から専務・常務などの役員メンバーを初めに、制作本部のトップスタッフ全員と初めて顔を合わせて会話を交わした。


リサ・ミルズが後ろで摘便にサポートして、私の粗相を防いでくれたのがありがたい。


聞けばセットの見学に来たのは私が最初で、明日は3人来る予定になっているそうだ。


リサ・ミルズが朝私に言ったように、手持ちのメディアカードが残り少なくなってきた。


彼女から50枚ほど貰って、カード入れに補充する。


そろそろ昼食時間にも近いと言う事で、ご一緒に如何ですかと制作本部長からお誘いを頂く。


眼の端でリサ・ミルズを見遣ると頷いているので快諾する。


ここのラウンジでデリバリーされた昼食を20数人で頂く事になるようだ。


昼食会では、ランチパーティのように明るく楽しく様々に歓談した。


私が単独インタビューの撮影収録の後で連想した、数人の艦長を連座させて同時にインタビューしたり、艦長同士を対談させてその模様を収録するなら、もっと話の内容もバラエティー豊かなものになるかも知れないとの感想を伝えたところ、制作本部の次長が少なからず感銘を受けたようで、鋭意検討しましょうと応じていた。


お返しにと言う訳でもないと思うが内々の話として、20人の艦長が指揮する艦は総て軽巡宙艦として統一しようか、と言う案を検討していると聴く。


それについても感想を訊かれたので、より公平性も公正性も高まって艦長とクルー達の凌ぎを削る、よりエキサイティングなゲーム展開が高く期待できるでしょうと応じた。


これはおそらくそのまま承認されるだろうとの見通しで、制作発表の席上で本部長が公表する事になるでしょうとも聴いたので、余計な発言だったかも知れなかったが、艦の装備が3パターン程からのチョイスで、マイナーチェンジが出来るようになれば嬉しいですし面白くもなりそうですねと言い添えたところ、良いアイディアですね。鋭意検討しましょうとの返答が寄せられた。


私の感想や発言を10人ほどの人達が相槌を打ちながら聴いてくれていたが、恐縮に感じて自然に居住まいが正される。


やがて昼食会も終わりに近づき、食器も総て退げられてお茶やコーヒーを楽しみながら歓談している時にマルセル・ラッチェンスがラウンジに入って来て制作本部長に耳打ちする。


鷹揚に頷いてゆっくりとコーヒーを飲み干し、ナプキンで口を拭って立ち上がる。


「・・皆さん、今日はアドル・エルクさんをお迎えしてのランチでありましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか・・?・・ご参加下さいました皆さんには、御礼申し上げます・・様々に有益なお話を共有できた事と思います・・ですがそろそろ午後の業務の開始時間が近付いて参りましたので、名残りは惜しいですけれどもここで散会とさせて頂きたいと思います・・改めまして、ありがとうございました・・それでは、お気を付けて・・」


その言葉で昼食会は終わった・・皆、口を拭って席を立つ・・近くの人達と軽く挨拶を交わす・・リサ・ミルズと一緒にラウンジを後にした。


「・・アドル・エルクさん・・シエナ・ミュラーさんがお見えになっていますが、直ぐお会いになりますか・・?・・」


アランシス・カーサーが歩み寄って来てそう告げる。


「・・すみません・・15分程お時間を頂きまして、控室を使わせて頂けますか・・?・・」


リサ・ミルズが先にそう応え、案内された控室のドアの前で、外で待っているから中で上着の上下を脱いでドア越しに私に渡して欲しいと言う。


「・・どうして・・?・・」


「・・ちょっと綺麗にして、形を整えます・・」


「・・アイロンはどうするの・・?・・」


「・・昼食会の前に頼んでおきました・・」


「・・さすがだね・・」


「・・ネクタイは、締めておいて下さいね・・」

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