③
「行くぞ〜!」
「やっぱ、プールと違って海は広くて気持ちいいな!」
「おい、森。いいのかよ……ここ立ち入り禁止区域らしいぜ。後で先生に怒られるよ……それにさっきのじいさんの話……嘘言ってる雰囲気じゃなかったしさ……」
「今更ビビってんかよ卜部! あぁいうのは皆大人達が子供に危険な目に遭わせないための作り話って! それにそんな化け物いるわけないだろ! 俺が言うから間違いない!!」
「確かにそういうのあるけどさぁ……(僕、森のこういうところが苦手なんだなぁ……普段は悪い奴じゃないんだけどさ……)」
「じゃあ、次は俺だ!」
「よ、森!」
「写真撮るからバッチリ決めてくれよ〜!」
「おう! 任せとけ!」
卜部と呼ばれた男子生徒以外の四人は飛び込みをするために海から上がると岩場へと移動し出すと、森が岩場から飛び降りた。
「うおりゃあ!!」
ドボンッ!!
大きな水飛沫を上げ、岩場から飛び降りた森は海に着水した。が、次の瞬間。
「う、うわぁあああああああ!!」
森は悲鳴を上げながら海の中で暴れ出した。
「森! どうしたんだよ!」
「早く上がれよ!」
「嫌だ……嫌だぁ! 何かが足を……っ!!」
「何かって何?」
「何かって……なんだよ!?」
「あ、足! 俺の足に何かが……っ」
森がそう叫ぶと、海からバシャンッと何かが出てきた。それは人の手のような形をしたものが森の足を掴み、海へと引きずり込もうとしていた。
「ひ、ひぃいい!」
「たす、助け……て……っ!!」
「うわぁあ!」
「嫌だぁあ!!」
他の四人は恐怖で足がすくんでしまい、その場から動くことが出来なかった。
「な、なんだよ! あれ……っ」
「ば、化け物……っ!」
森を引きずり込もうとする手のようなものの本体は上半身が人間で下半身が魚のような姿をした化け物だった。その化け物の口は大きく裂け、鋭い牙を剥き出しにして四人を威嚇していた。
「こいつだよ、さっきの話の化け物だよ!」
「やだ! 怖いよ!!」
「に、逃げよう!」
「森……!」
「やめろ、おまえまで引きずり込まれるぞ!!」
森を助けようとする卜部を三人が抑えると、化け物は森を海へと引きずり込み始めた。
「嫌だぁ!! 助けて! 死にたくない!!」
森は恐怖で涙を流しながら必死にもがくが、化け物の力は強くどんどん海へと引きずり込まれていく。
「あ……あぁ……」
「森……」
「どうしよう……」
他の三人は恐怖で足がすくんでしまい、逃げることが出来なかった。そして、とうとう森が海へと引きずり込まれてしまった。
「「「うわぁああああ!!!」」」
「あ、皆待ってよ!!」
それを見た四人が恐怖に耐えられず、その場から逃げ出してしまった。
◆◆◆
一方その頃、静夜は突然具合悪くなり、海の家で横になって休んでいた。
「はい、スポドリ」
「うん、ありがと……アス……」
静夜は体を起こすと、明日磨が買ってきてくれたスポーツドリンクを一口飲み、ふぅと息を吐いた。
「それにしても、急に具合悪くなるなんて……もしかしてさっきおじいさんが話していた人魚伝説が原因?」
「そうかもしれない……さっきからあの海、嫌な感じがする……」
静夜は空になったペットボトルを握りながら、海を見つめた。
「嫌な感じ?」
「うん……この海に何かがいるような……そんな気がする……」
「何かって?」
「分からないけど……でも、この海のどこかにいる」
「それって、さっき話していた人魚のこと?」
「分からない……でも、なんだか嫌な予感がするんだ」
「……そっか。でも、今は無理しないで休んでて」
「うん……ありがとう」
明日磨の気遣いに静夜は笑顔で答えると、再び横になり体を休めた。
「でも、この海で本当に人魚なんているのかな?」
「いるよ。僕はそう思う」
明日磨の問いに、静夜がそう答えると、「そっか」と明日磨は静夜の隣に座りながら海を眺めたその時。
「ここも先生いない!?」
「早くしないと森が死んじゃう!!」
「先生どこだよ!」
海の家の方から、慌てた様子で四人の男子生徒が走ってきた。そのただならぬ雰囲気に明日磨は立ち上がり、四人に声をかける。
「一体何があったの?」
「あ、海影!」
「森が! 森が人魚の化け物に引きずり込まれたんだよ!!」
「な、なんだって……!?」
明日磨はその言葉を聞いて固まった。静夜はその様子を見て、嫌な予感が的中したと感じていたその時。
『来い、岩場に来い……』
「行かなくちゃ……」
「シズ! どこ行くの?」
突然静夜は何かに取り憑かれたかのように立ち上がると、岩場へと走り出した。明日磨も慌てて立ち上がり、静夜を追いかける。
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