一章【非日常の扉が開く時】

プロローグ

大切な家族や友達がいて、時には笑い、喧嘩して、涙を流し、また手と手を取り合って笑う───


これは、そんなどこにでもある平凡で幸せな毎日を過ごすふたりの青年の物語。

そんなありふれた風景は、ある日突然、音を立てて崩れていく。


否、彼らが知らないところで既に崩れていった───



◆◆◆



日本の関東甲信越地方のどこかにある街、白櫻市はくおうし。古きものと新しいもの、そして豊かな自然が多く残りつつも最先端技術が調和しているこの街。この物語は白櫻市の公園のひとつ、白櫻中央公園から始まる。



重く蒸し暑い夏の夜。


いくつかの街灯を照らすだけの薄暗い森沿いの道を、ひとりの男性が左手に自撮り棒を装着したスマホを持った状態で歩いていた。

「はいはい、最近ここの公園に不審な光が落ちてきたらしいので見に行きたいなと思います〜!」

どうもスマホでは動画サイトでライブ配信しているらしい。とにかくその画面見つめては、流れてゆくチャットに反応しながら話していた。

「はい、スパチャありがとうございますっ!」


ガサッ……


画面に流れてきたスパチャに反応している彼に、「何か」は確実に接近しつつあった。僅かに茂みを揺らし、音を立てながら。彼は気づいてはいない。こうしてスマホに夢中にならなければ、気づけたかもしれない。

「ん、俺の後ろから音がした?」

視聴者に言われ、後ろを振り向く。


ガサァ!


「え……」

男性はスマホを地面に落とし、そのまま消えてしまった。




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