アラカシの祝福

松下真奈

第1話 ぴかぴかのどんぐり

「まあ、きれいなどんぐり」


 ふっくらした手のひらは、土で汚れていた。短く揃えてやったばかりの爪の間にも砂が入り込んで、黒くなっている。そんな小さな手の真ん中に、ぴかぴか光る、丸い木の実がのっていた。


「一番きれいなやつ、持ってきたんだよ。母ちゃんにお土産!」

「まあまあ、そうなの。素敵なお土産ね。ありがとう。ケンちゃんはきれいなものを見つける名人だものね」


 大好きな母親に褒められた少年は、誇らしそうに胸を張った。

 母はどんなに些細なことでも、大きく褒めてくれる。子供心に大げさだなぁと思うほどに。けれど全く悪い気はしないのだ。それどころか、どんどん饒舌になってしまう。


「これよりも大きいのも沢山あったんだよ。枝付きのとか、帽子がついたのとか――でもこれが一番光ってたんだ。ぴかぴかって。宝石みたいだと思ったんだよ」

「あら、さすがね。ケンちゃんは良い審美眼をお持ちね」

「シンビガン?」


 母は子供相手でも、時々こういう難しい言い回しをする。


「こんなに素晴らしいどんぐりを、お母ちゃんがもらってしまって本当にいいの?」


 返答に詰まった幼い息子に、母親は可笑しそうに笑った。


「一緒にお庭に埋めてみようか。これだけツヤツヤの元気などんぐりだから、きっと丈夫な芽が出るよ」

「大きな木になる?」

「きっとね」


 素晴らしい提案に、少年はすぐに食い付いた。鍬を手にした母親の前掛けの端を掴むと、反対の手で小さなどんぐりを大切そうに包みこみ、守るようにして歩いた。

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