なんかもうダメになったときのためのいい言葉全集

残機弐号

腹が立ったらそのぶん自分にあたればいい(村上春樹)

誰かに故のない(と少なくとも僕には思える)非難を受けたとき、あるいは当然受け入れてもらえると期待していた誰かに受け入れてもらえなかったようなとき、僕はいつもより少しだけ長い距離を走ることにしている。いつもより長い距離を走ることによって、その分自分を肉体的に消耗させる。そして自分が能力に限りのある、弱い人間だということをあらためて認識する。(…中略…)腹が立ったらそのぶん自分にあたればいい。悔しい思いをしたらそのぶん自分を磨けばいい。そう考えていきてきた。黙って呑み込めるものは、そっくりそのまま自分の中に呑み込み、それを(できるだけ姿かたちを大きく変えて)小説という容器いれものの中に、物語の一部として放出するようにつとめてきた。


村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』より



コメント:

「腹が立ったら友だちに愚痴を聞いてもらえばいい」とかじゃなくて、自分にあたればいいと村上春樹は言う。とてもストイックだし、なかなか真似できないけれど、いい感じに前向きになれる言葉だ。


「いい感じに」というのは、逆に「悪い感じに」前向きになれる言葉も世の中にはあるから。それが行き過ぎるといわゆる意識高い系に成り果てる。


「自分を磨けばいい」というのは、自分を磨いてあいつらを見返してやればいい、ということではなくて、あくまで自分自身と向き合えということだと思う。孤独の中で自分と向き合うことで、世界とのつながりを回復していく、というのは村上作品全般に共通するテーマのようにも思える。

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