恋愛経験のない僕はあの子が好きだが別に恋愛的な意味はない。

ちぇむ

第1話 僕は変わった

 彼、俊英高校に通う二年生、加藤傑かとう すぐるには、誰にも話したことのない過去がある。


 彼の親は昔から教育が厳しく、友達と遊ぶことは愚か、彼の好きな漫画を読むこと、さらには学校でつくる友達のまで制限されていた。


 彼の通っていた小学校は、彼の父親の友人が校長をしている私立学校で、その伝手を使って学校に通っている子供の家の情報などを聞いていたらしい。加えて、テストの点数の改変までされていた。


 彼は、学年の中でも成績トップクラス、まさに優等生と呼ばれるものであった。だがそれは父の財力によるものであった。実際の所は、良くて中の上と言ったところだろう。彼自身も、自分が優秀だと思っていた。自分は周りよりも上で、周りは自分よりも下だと思っていた。だが、それらが全て、自分の思い違いだということが分かったのは、小学五年生になって二か月ほど経った頃だった。


 彼の親と校長が話しをするときは決まって彼の家だった。


 ある日、父親と校長がいつものように書斎で話をしていた。その声が気になった傑は、声の元である書斎を好奇心で覗いてしまった。


 その時から、彼は変わってしまった……。


 それから傑は家でも学校でも、一人で過ごすようになった。彼はもともと友達が制限されていたが、そもそもあまりその人達とも関わることはなく、休み時間などにも次の授業の予習などをしていて、誰かと話すとしても先生に質問をする時くらいだった。


 だから別に、それは苦しいことではなかった。それまで『友達』と呼んでいた彼らは、強制的に付き合わされていただけの他人。仲がいいわけでもなく、ただ親に言われたから付き合っていただけの、ただのクラスメイト、他人だ。


 校長たちの話を聞いてから変わったことはそれだけではない。あまり人と関わっていなかったといっても、心に傷は負っており、人間不信のようになってしまった。それからは隠れて好きな漫画を読んだり、おなかが痛いと言って勉強をさぼったり……


 傑は変わらなかった。『彼女』に会うまでは……。


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