2、あまりに酷い王族御一行
「えっ、それ本当?」
早朝に出勤したわたし––––サク・ブルーノアは、部下の聖女から突然の話を聞いた。
「本当です先輩っ、なんでもぉ……今日のお昼にいきなりいらっしゃるらしいですよ。あのグラウス・エッフェルト王子が」
茶髪の可愛い後輩が、大袈裟な身振り手振りで話してくる。
確かに王族が重要施設の訪問を行うのは、昨今珍しくない。
まぁ今の技術試験局が重要かは知らないけど、王子様の方がずいぶんと乗り気らしい。
わたしからすれば、お昼休憩のど真ん中に来られる時点で既にマイナスイメージ……。
どうせ、簡単な錬金術を見て1時間程度で帰るのだろう。
王族のお仕事してますムーヴで、あの方に捧げる宝具の納期が遅れる。
何とも嫌な日だと、わたしは今日もタイムカードを切った。
◆
訪問者たちはお昼休憩の時間ジャストに到着した。
ちょっとくらいこっちに配慮してくれても良いじゃないかと思ったけど、そんなことを言えばいかに聖女と言えど死刑確定。
接待スマイルで、わたしはゾロゾロとやって来た王族一向を迎えた。
「ようこそ王国技術試験局へ、わたしは室長のサク・ブルーノアです」
ペコリと頭を下げたわたしは、眼前に立つ男を見た。
整った金髪に、端正な顔、全身を王位服で固めた彼こそ––––王国第一王子グラウス・エッフェルト様。
王室のランクでもトップの、まさにレジェンド級の人間。
確かに……纏う雰囲気が違った。
「君がブルーノア君か……」
王子は挨拶も無しに、ジッとわたしを見つめていた。
あまりにも長い時間見つめるものだから、つい口が突いて出る。
「あの、すみません……わたし何か粗相でも?」
「いや、何でもない。中へ案内してくれ」
手を前に出される。
何なのよこの人。
意味がわからないけど、とりあえず一向を試験局内へ迎え入れた。
通路を歩く中、切れかけの照明がちらつく。
「戦争後に唯一残った聖女の施設にしては、ずいぶんとボロいな」
「戦争特需を過ぎればこんなもんだろう、今や聖女なんてちょっとおかしい職人にすぎないし」
列の後方で、護衛の近衛たちが笑いながら不愉快な言動を放っている。
もうやだ、既に帰りたい……。
お昼ご飯抜いて相手するのがこんな連中とか、ホント最悪……。
「着きました、こちらがメインとなる錬金部屋です」
100人は入れそうなスペースのおよそ3分の2が、雑然とした素材の山と作業台で構成された空間。
もし1週間前に教えてくれたなら片付けもできたのだけど、こんな急では無理もムリ。
一応午前の時間をいっぱいに使って、できるだけ綺麗にはしたつもりなんだけど……。
「ほぅ……、普段は”こんなところ“で作業を?」
王子が言った言葉は、午前に捧げた労力が無駄になったことを示していた。
まぁ当然かぁ……。散らかってるもんなぁ。
もうテンションが急降下しっぱなしのわたしへ、さらに追い打ちが掛けられる。
「こりゃ酷い、まるで物置だ」
「ゴブリンの巣だってもう少し綺麗だぞ、これじゃゴミ山だ」
近衛の面々の心無い言葉が、わたしの胸を貫いていった。
ここまでハッキリ言われると、もはや泣きたくなる。
それでオチとして、試験局の有効性見出せずとか言って予算縮小を喰らうのだ。
ハッキリ言ってやってられない。
もういい、せめて一言くらい反撃してやる。
お前ら王城のお偉方にわたしのことなんか––––
「ほぅ、これはスチール素材か……。珍しい、よく手に入ったものだ。王国にこれを作る熱処理技術は無かったはずだが」
「えっ?」
半泣きで激情を解き放とうとしたわたしへ、1人の男の声が届いた。
「こっちは真鍮にアルミ……、こんな貴重なものが大量に。これをゴミ山とは頂けませんなぁ」
列から外れて素材を見ていたのは、決して会うことのない––––会えるはずもない方だった。
「近衛の方々は、ずいぶんと工業に興味が無いと見える」
生意気な近衛を一瞬で強張らせたのは、少し長い黒髪と碧眼が特徴的な男性。
全身を真っ黒な軍服で包んでおり、明らかにオーラが違う方。
彼こそ王国を勝利に導いた伝説の軍人にして、”わたしの最推し“。
大英雄––––ラインハルト・フォン・シュツットガルトだった。
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