さようならあんた

@shinazu

第1話好きよ

まったくやぁね。昼間からあたしのお気に入りの場所を占領してるなんて。まぁいいわ。あたしは寛大な心の持ち主なんだからね。別にどうでもいいし。

ちょっと軽々しく触らないでちょうだい。あたしみたいないい女は、身だしなみも完璧でないといけないのよ。あんたには分からないでしょうけど。今日は天気もいいから、外にでも行こうかしら。思えば久しぶりね。金木犀が散りはじめているわ。せっかく美しいのに。あたしもいつかああなるのかしら。駄目ね、無駄なことを考えないで。さっさと行くのよ。あら、あそこにいるのはみえちゃんじゃない。

「どうも。」

「あれ、ゆきちゃん。外にいるなんて珍しいこと。」

「そうでもないわよ」

「いいや、珍しいね。」

「違うったら。」

「あはは、うそうそ、許して。」

どうしてこの子はいつも元気が有り余っているのかしら。

「機嫌でも損ねちまったかな?」

「別に。」

「相変わらずクールビューティーですな。」

「その口調こそ相変わらずね。いい年なんだからもう   少し落ち着きなさったら。」

「あはは、いつかね。」

無理そうだわ。

「そうはいっても、私だって変わったよ?」

「うふふ、一体どこがかしら。」

「疲れやすくなったし、すぐに眠くなったりね。」

あたしもかも。

「ゆきちゃんは考えてることすぐにわかるなぁ。

今だって内心どきっとしたね。」

「分かるかしら。」

「うん。」

あいつは気づかないわよ?

「あっ、今あの人のこと考えたでしょ。」

「違うわ。」

たぶんみえちゃんだけよ。あたしはそんなに分かりやすくはないわ。でないとあいつはなんなのよ。

「あら、もうすぐ雨が降りそうだ。」

「そうね。」

「じゃ、解散!」

「また会えたらいいわね。」

「そんな今世紀のお別れみたいに言わないでよ。」

「あら、そんなつもりないわ。」

「だといいですわね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る