タバコは狼煙のように

鈴木魚(幌宵さかな)

タバコは狼煙のように

 俺がベランダで煙草を吸っていると、澪が部屋から出てきて俺の横に並んだ。

「大輝、タバコ1本ちょうだい」

 澪は無邪気に笑って、俺のタバコを指差した。

「また無くなったのかよ」

 俺はため息交じりにタバコの箱を澪に差し出す

「へへへ、ありがと」

 澪はタバコを口に咥えると、自分のジッポライターで火をつけた。

 「うっま」

 澪は口から白い煙を吐き出した。

 仄かにメンソールの香りがする。

「大輝はどうするのさ?」

 澪が俺を見た

「何がさ」

「就活」

「就活かぁー」

 耳に痛い話だった。

 俺は吸ってたタバコをもみ消した。

「なんか実感わかないんだよな、就活」

「私も」

 澪はベランダの欄干に肘をついた。

「ずっとサークルのメンバーと馬鹿できてたらいいのに」

「ほんとな」

「もういっそ、結婚しちゃおうかなー」

「バレー部の彼氏と?」

「そう。そしたらモラトリアム延長!みたいな?」

「延長なんかしないだろ」

「やだなー、学生じゃなくなるの」

 ベランダから見下ろす深夜の街は誰もいないかのように静かに佇んでいる。

 後数ヶ月経てば俺たちの大半は何もわからない大人の世界へと投げ込まれる。

 真っ暗な世界で、必死に明日を探さないといけない。

 そこに光はあるのか?

 隣からまたメンソールに香りがした。

「ねぇ、大輝。仕事始めてからもこうやって自宅飲みしたいね」

「そうだな」

 夜風が吹いて、澪の髪が揺れた。

「ずっとこうやって」

 ただ君の隣に。

「何か言った?」

「何も」

 俺は新しいタバコに火をつけた。

 タバコの煙だけが俺たちの存在を知らせる“のろし”のように真っ暗な世界に漂っていた。

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タバコは狼煙のように 鈴木魚(幌宵さかな) @horoyoisakana

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