第8話 ハイスペック仏壇
【部屋着】
「そういえば、鉄平さん。
スーツでずっといるの、疲れませんか?」
依は、鉄平の着ている服、高いであろうスリーピースのスーツを、繁々と見て言った。
体のラインが綺麗に見えるので、オーダーメイドだと思う...。
つるし上げと違って、余計な布地部分がないから、余計に気が休まらなそう。
“そうですね...。
スーツだと仕事って感じがするので、リラックスには向かないですねぇ。”
「そうでしょう。
うーん、何か鉄平さんに合う大きさの服ってあるかな??
リカちゃん人形のパパの服とか買ってきたらいいのかな。
でも、あれ着心地悪そうよね....。」
背中にマジックテープついてるし...痛そう。
むしろ、作っちゃう?この大きさなら、数分で作れるかも。
真剣に鉄平の部屋着をどうするかを考えこむ。
目の前の鉄平をしばらく放置してしまうほどだ。
鉄平は、ちょっと寂しかった。
そこで、鉄平が依の気を引くために声をかけた。
“依さん、依さん。”
ペシペシと、机に置かれた依の指先を両手で叩いて呼んだ。
全力で叩いたとしても、現在の鉄平のサイズでは、ちっとも痛くはない。ちょっと、何か当たったかなくらいだ。
「ん?なぁに、鉄平さん。」
気づいた依が、鉄平の可愛さに悶えながら反応した。
“依さんの大きめな服ってあります?”
「私の??あるには、あるけど。
どうするの?」
こんなに小さな鉄平には、依の服は合わないだろう。
しかも、さらに大きいサイズ?と、依は理解ができず目をぱちぱちまばたきをする。
黙って話の続きを促すと、鉄平は説明し出した。
“えっと、僕の生前の身長なんですが185センチで、全体的に細身なんです。
それで多分、依さんの大きめのTシャツとか、ヒモ付きハーフパンツなどがちょうどいいんじゃないかと。
それを、仏壇にお供えしてみたらどうでしょうか?”
「そっか!お供えしたら、ちょうどいい感じになるんですもんね!
あったま良いですね!!さすが鉄平さん。」
ちょっと待っててくださいね〜と言いながらタンスを漁る。
依の持ってるTシャツのなかでもユニセックスのLサイズのものを取り出す。
ハーフパンツは、ジャージがあった。
「じゃあ、お供えしますね!」
Lサイズでも、鉄平の身長には若干小さいだろうが、そこは不思議現象。
ぽんっと現れたTシャツを体に合わせてみると、ちょうどいい感じであった。
これなら大丈夫そう。
依は、大きめの本を鉄平の前に衝立代わりに置いた。
これで、着替えてる姿が見えなくなった。
「念のため、置いときます。
それでも、後ろを向いてるんで安心して着替えてください。
着替え終わったら教えてくださいね〜。」
しばらくたつと、着替えが終わったようで声をかけられた。
”依さん、終わりました。”
本をどけると、部屋着を着ている鉄平がいた。
一気に庶民的な王子にかわり、思わずふふっと笑いがこぼれた。
”変ですか?”
オロオロと不安そうにしている鉄平が可愛い。
「先ほどまでの鉄平さんと違って、親しみがわきます。いいですね!」
依は、ニコっと笑いかけ、脱いだスーツに手を伸ばす。
鉄平から小さなスーツを、手渡しされる。
すると、ぽんっと手の中から消えた。
「”あっ”」
消えたスーツの行方は?
二人は、仏壇のほうを見る。
そこには、綺麗にたたまれたスーツが置いてあった。
「すごい…。スーツが、大きくなって出てきた…。」
“畳まれてもいますね...。”
小さな鉄平が来ていたスーツが、本来の大きさに戻って出てきた。
簡易仏壇のスペックがすごい。
「うーん。クリーニングに出したいところですが、この辺あまり栄えてないから、クリーニング屋さんもお盆休みなんですよね...。
ファブ〇ーズして、ハンガーに吊るしとくだけで良いですか?
ワイシャツは洗濯してアイロンかけときますね。」
”すいません。依さん、お手数かけます。
ワイシャツはそのままでいいですよ?”
「そういうわけにはいきません。
天国がどんなところか、わかりませんが、綺麗にしといてこしたことは無いですよ。ね?」
ふわっと、花が咲いたような笑顔で依が言う。
ちっとも、手間だとか迷惑だとか思っていなさそうだ。
鉄平は恐縮していたが、依の気持ちもなんとなくわかるので、お願いすることにした。
依は、スーツをハンガーにかけると、ふわりと香るにおいに気づいた。
爽やかな男性のコロンの匂いだ。
鉄平さんの雰囲気にぴったりの匂いだな。と、笑みがこぼれる。
それに、比べて課長は…。
課長のムーディーな男らしい匂いを想像し、赤面する。
ところどころで、やはり課長のことを思い出す自分に、いっぱいいっぱいだ。
笑ったり、恥ずかしがったりと感情が忙しい。
そんな姿を、鉄平はじっと見ていた。
実は、先ほどのふわりと笑う依の笑顔にドキッとしていた。
今まで女性の笑顔を見ても感情が動くことはなかった自分が、依の笑顔に反応し胸が跳ねた。
この変化に驚き、なんだろう?と思っていた。
そして今、スーツをかけながら何かを思い出したかのように赤面する依の姿を見て、モヤっとした。
多分だが、誰か自分じゃない男を思い出したんだろう。
依が、好意を寄せている男性のことでも思い出したんだろうか?
そんなことを思っていたら、胸がなんだか苦しくなり、どうしたんだ、僕?と再度困惑したのだった。
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