第6話梓希はというと…

 ボールが綺麗な弧を描きながらゴールリングへと吸い込まれていく…。パスッ……


 この試合、自身5本目となるスリーポイントシュートが決まった…。外からのシュートだけではない。彼女はパスを貰うと直ぐ様シュート…ディフェンスはそれに反応、シュートコースを塞ぐ為にジャンプ…しかしシュートはフェイクで彼女はドリブルであっという間にゴール下へと切り込みレイアップシュート…。パスッ…。またもやゴールリングに吸い込まれたボールがゴールネットを揺らしている…。彼女を…梓希を止められる者はコートには存在しなかった…。練習試合は大差で梓希のチームが勝利。終了後チームメイトは皆梓希を褒め称えていた…。


「今日の梓希凄過ぎるんだけど!?」

「マジそれ!」

「どうしちゃったの?」

「覚醒!?覚醒でもしたの梓希!?」

「…今日の私は無敵だよ?私を止められる人は居ないんじゃないかな?」

「くぅ~…一度は言ってみたいよ、そのセリフ!!!」

「スリーポイントなんていつ練習してたのよ?ねぇ?ねぇ?」

「だよねぇ!梓希はいつも切り込んでからのシュートばかりだよね?」

「しかもフォームが凄く様になってたし…」

「ホントお疲れ梓希…」

「ありがとう皆…」


 そんな私の元にタオルと水筒を持って近付いて来る1人の女の子。私の一番の親友久留間優奈くるまゆうなちゃんだ。私も優奈ちゃんの元へ。


「ホント凄かったね梓希ちゃん?」

「優奈ちゃんのパスが良かったからだよ?」

「またまたぁ~、私には分かるんだからね?梓希ちゃん何か良い事あったでしょ?」

「えっ…別にそんな事無いよ/////?」

「長年の付き合いがある私にそんな嘘が通じるとでも?」

「…敵わないなぁ~優奈ちゃんには…。内緒だよ?いい、絶対だよ?ホントのホントに約束だからね?」


 私はお兄ちゃんの事を聞いて欲しくて欲しくて堪らなかった。


「実はね…お兄ちゃんが出来たの…」

「…………えっ…?…?…?もしかして、あ、頭でも打ったの梓希ちゃん?」

「頭おかしくなった訳じゃないからね?」

「………柚希さんが結婚した…とか?」

「お兄ちゃんと結婚するのは私だよ?何言ってるの優奈ちゃん?」


「え~と、え~と、最初から私に分かる様に説明してくれる?」

「ん~と、昨日お姉ちゃんが男性を拾って来たんだけど…「え───っ!?柚希さん男性を拾って来たのぉぉ───────!?」…ちょっ、優奈ちゃん声がデカイよっ!?」


「男性!?」

「今男性って言ったよね?」

「どういう事?どういう事!?」

「男性なら先生にも紹介してくれっ!」

「どこで拾って来たの!?」

「そもそも落ちてたっけ男性って…???」

「梓希って子の家には男が居るの?」

「もしかしてワンチャン襲える?」



 凄い勢いでチームメイト、敵チームの人々に私が男性と関わりがある事が広まっていく…。こ、これ…私…もしかして大変な事しちゃった?しでかした!?マズいマズいマズいマズいマズいマズいマズいマズい…お姉ちゃんに殺される?お母さんにも…。それに襲うって今言った?言ったよね?お兄ちゃんを危険に晒してしまった?ぐすっ…どうしよう…どうしよう…。


「良いですかー!皆さん落ち着いて下さーい。男性なんか居る訳ありませんよね?常識を考えて下さーい!梓希ちゃんは今、と言ったんですよ?男性ではありません。反省ですよ?勘違いしたら駄目ですよーー?」


「な~んだ…」

「そりゃあそうだよね…」

「聞き間違いした奴は表に出やがれ!」

「男性がいる訳ないよね…」

「残念…」

「はぁ~男性に会いたいな…」



 皆が勘違いだったと散って行く…。優奈ちゃんのお陰だ…。


「ぐすっ…ありがとう優奈ちゃん…」

「ううん…私が大声出しちゃったから…。ホントにゴメンね?だから…泣かないで…」


 少しだけ泣いてしまった…。これからは気を付けよう…。お兄ちゃんの身が危なくならない様に…。そして誰も居ない所で、お兄ちゃんが作ってくれたお弁当を食べながら優奈ちゃんにだけはお兄ちゃんの事を打ち明けたの…。





******



「じゃあ…柚希さんが男性を連れて来て、でも男性は記憶喪失で、そのうえでその男性は天使家の息子になって、梓希ちゃんはその男性を慕ってお兄ちゃんと呼んでいて、その男性はカッコよくて料理も出来て優しいって言ってるのよね?」


「そうだよ!このお弁当もお兄ちゃんが作ってくれてたの!卵焼き1個食べてみる?」

「う、うん。1個貰ってもいい?」

「はい!あ~ん?」

「あ~ん…もぐもぐ……ゴクン…おいしい」

「でしょっ?今朝は手作りのサンドイッチ食べたし!」

「すごっ…知り合いから聞いた話ではそんな男性なんて夢物語だと言ってたのに…」

「だよね?いまだに私、夢かと思ってしまう時あるもん…」

「そうだよね…そう思うよね…」

「そうだ!優奈ちゃん。うちに今日来る?」

「えっ…私が行って大丈夫なの?男性って女性が苦手な人多いと聞くよ?」

「お兄ちゃんは大丈夫…ただ…」

「ただ…何?その先聞くの怖いんだけど?」

「鼻血が出る危険がある…。あっ…そうそう…後、気絶したりとか?」

「えっ…鼻血って何?気絶って何?滅茶苦茶不穏だよ!?」

「ほら、男性に耐性ないから…。昨日なんてお兄ちゃんの芸術的な裸体を見て鼻血出し過ぎて死ぬかと思ったもん…ヤバッ…思い出したら鼻血が…」

「だだだ、男性の裸体……あぅ…想像しちゃったら私も鼻血が…あうあう…」


 鼻血が止まるまで暫く2人寝そべって過ごした。優奈ちゃんがお兄ちゃんを見たらビックリするだろうな…。私と同じ様に気絶しちゃうかも…。優奈ちゃんがお兄ちゃんを見て惚れても私が正妻だからね?一夫多妻制だからお姉ちゃんやお母さん、そして優奈ちゃん、私の大切な人でお兄ちゃんを囲ったら幸せだよね♡そんな事を私は考えていた…。

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