第8話事件はお風呂場で…

「……マジ?」


 僕は絶望の淵に立たされていた…。お風呂に入る時を確かめ無かった僕が全て悪いのだ。事の発端はお風呂に入った後の事…。用意されていたバスタオルで体の水気を拭き取り着替えの下着に手を伸ばし手にした所で事件が起きた…。小さなリボンが付いた可愛い白い女性モノの下着…。他の着替えも念の為確かめる。女性モノのピンクの寝間着…。まぁ、……これなら着れない事もない…。問題は下着だな…。


 少し考えれば分かる事だ…。男性が居ない家に男性モノの服が置いてある筈無いじゃないか…。置いてあったとしてもそれは防犯用の筈。男性が少ない世の中ではそんな事をする意味も無い…。逆にこの家には男性が居ますとアピールする様なものだ…。


「弱ったなぁ…流石にお風呂に入る前迄履いていた下着を着るのは嫌だしなぁ…それに洗濯機の中に入れちゃったし…取り出す訳にはいかないし…」

(女性モノの何かが洗濯機に入ってたらマズイからね…)


 その時こちらに向かって走ってくる足音…えっ…もしかしてここに来る?まさかね……

……あれっ…マズい!?こっちに真っ直ぐ向かって来てる!?ええーい!コレを履くしかないか!!!


「もぅー!お母さんったら!!!いくら豊和君の着替えが無いからってどうして私の下着を…。まだお風呂の中だよね?今のうちに下着の回収を…」


…この声柚希ちゃん?これって柚希ちゃんの下着だったのかぁぁー!ますますマズい!もう履いてしまってるし…


─ガチャ…

「ま、待って柚希ちゃん!もうお風呂上がっ…「…………ぁっ………」…」


 一瞬…時が止まる……少なくとも僕と柚希ちゃんはそう感じた筈さ…。かたや柚希ちゃんの下着だけ履いた僕…かたやその下着を秘密裏に回収に来た柚希ちゃん…。時を止めるには充分な要素だ…。


 女性モノの下着一枚履いた男性なんて変態にしか映らないだろう…。少なくとも僕はそう思う…。まさか一緒に暮らす事になった初日に変態の称号を獲得する事になるとは…くっ…こんなことなら履いていた自分の下着を履けば良かった…。


─暫くして我に返ったのだろう柚希ちゃんの顔が真っ赤に染まっていき…そして…


「…すぅぅぅ……あわわ…ととと、豊和君が…わわわわわ、私のショーツを…履いて……あばばばばっ、鼻血が…鼻血が止まらない!?……ここが私の………桃源郷…桃源郷なの!?……………あふぅ~……………」


 倒れる柚希ちゃんを間一髪抱き抱え床に優しく寝かせた俺はいそいそと寝間着を着て柚希ちゃんをお姫様抱っこ…リビングへと向かった…。リビングへ入ると梓希ちゃんが凝視&驚いてる?……。円香さんは居ないみたいだ…。



「梓希ちゃん?…柚希ちゃんが倒れたから…そこのソファーに寝かせても?」


「う、うん…ありがとうお兄ちゃん…。そ、それにしても…何故またお姉ちゃん鼻血出して気絶しているの?」


ソファーに優しく柚希ちゃんを下ろし、


「……聞かないで欲しい…かな」

(柚希ちゃんの下着着た僕を見て気絶したなんて言えないよ…)


「えっ…あっ…うん……って、無理無理無理…やっぱり無理だよ!?何があったか聞かないなんて無理だよお兄ちゃん!?それに何でお姉ちゃんの寝間着をお兄ちゃんが!?言ってくれたら私の寝間着貸すのに!というよりお兄ちゃん似合い過ぎ!似合い過ぎるよー!それにお姫様抱っこなんてなんて羨ま!ホント羨ましい!お兄ちゃん私も私もお姫様抱っこ!抱っこ!抱っこ!」


「…じゃ、じゃあ…理由を聞かないでくれるならお姫様抱っこしようか?」

「えっ…嘘!?ホントに!?」

「うん」

「じゃ、じゃあ…抱っこして下ちゃい…」

「うん…それじゃあ…よっと…」

「これ…が…」

(お姫様抱っこ…)



 梓希ちゃんをお姫様抱っこした瞬間…幸せ

そうな表情で梓希ちゃんは気絶してしまった…。もう一つのソファーに梓希ちゃんを寝かせた所で円香さんがリビングへと戻って来た…。


「うんうん…良く似合ってるわよ豊和君♡」


「あっ…え~と、お風呂先にありがとうございました…」


「いいのいいの!これから一緒に暮らして行くんだから気は使わないでね?それじゃあ2人共眠ってるみたいだし、柚希の番だったんだけど先にお風呂に入って来るわね♡豊和君はゆっくりくつろいで居てね!ふんふんふ~ん…」


 円香さんは鼻歌を口ずさみながらお風呂へと向かった…。柚希ちゃんと梓希ちゃんに何があったのかは触れなかったけど良いのかな?後で聞くつもりなのだろうか…?僕は取り敢えず2人の様子を見守る事にした。









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