第19話 戦い終わって
「やったあああ! りんご、よく頑張ったああああああああ!」
「ありがとう、凛ちゃん!」
凛ちゃんとお互いに抱きしめ合う。うううう、よかったあああああ、勝てたよおおおおおお!
「氷で足止めしたアイディア、よかったよ!」
「いや、あれは達のアイディアなんだよ。小声で教えてもらってね」
おおおお! さすがは達くん!
「頑張ったのはタイヤだ。うまくハマってよかったよ」
そんなときだった。私のスマホが軽快な音を立てた。
おや、なんだろう?
私はスマホを手に取った。赤い甲羅を背負った亀が映っていた。
『爆岩亀が仲間に成りたそうな様子だ! 仲間にしますか?』
お? おおおおおおお!?
「なんか、亀さんが仲間になりたいみたいなんだけど!?」
「「え?」」
他の2人が覗き見ている。
「へえ、こんなふうになるんだ」
「どうしよう、達くん?」
「仲間にしよう。亀の回収が仕事だから、それで終わりだ」
「わかったけど……私がもらっていいの?」
みんなで勝ち取ったものなんだけど……。
「その辺の話はあとにしよう。僕は別にジョブズでもいいと思うけど。ともかく、回収で。なるべく早くここから出たい」
まあ、そうだねえ……。
私は亀さんを仲間にした! ドラゴンくんと仲良くしてね!
「よし、終わったのならここから出よう」
私たちは大急ぎで裏口から外に出た。
てっきり、もう夜明けになっていた! なんてこともなく、まだまだ真っ暗だった。すごく長い時間が経ったような気がしたけど、そんなこともなかった。濃い時間だったんだね。
3人揃って、疲れた足取りでトボトボと帰っていく。
ふぅ……終わった終わった。
帰り道、達くんが 公衆電話を見つけると「少しだけ待っていてくれ」といって電話をかけにいった。戻ってきた達くんに、
「どうしたの?」
と聞くと、こう答えてくれた。
「警察に電話をしたんだよ」
「警察?」
「あのビルディングで騒ぎがあったから調べてくれって。何事かがあったのは明らかだから、警察は色々と調査できるだろう? そうすれば、ローレライスの悪事を突き止められるかもしれない」
「あ! 確かに!」
このアプリが現実世界とリンクしている部分があるとするのなら――緊急クエストの依頼主は警察官だった。そして、こう言っていた。『本当は警察が動きたいんだが、今の時点だとまだ動けない。君たちが頼みだ!』と。ひょっとすると、ローレライスを調べたいと思っているけど、証拠がなくてできなかったのかもしれない。今回のことは渡りに船となるだろう。
「スマホで連絡じゃダメだったの?」
「スマホだったら、僕のスマホだってわかるからね。こういうのは匿名のほうがいいんだよ」
達くんが振り返って、道にぽつんと立っている公衆電話に目を向ける。
「なくなると困るから、少しは生き残っていて欲しいね」
あとは警察がなんとかしてくれる。
私たちのするべきことは、この瞬間に終わったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それから数日が過ぎた。
あれだけ非日常的なことが起こったのに、意外と簡単に普通の日常に戻っていけた。
ちなみに、変身は緊急クエストに解除ボタンを押すと解けてしまった。それから、ばたりと寝て――その日は睡眠不足で大変だった……。
でも、その晩ぐっすりと眠ったら、もう体調もすっかり回復。
そんな感じでアプリをポチポチしながら暮らしていると、とんでもないニュースが目に入った。
『ローレライスで不法行為 社長を逮捕』
ベッドで寝転びながらニュースを見ていた私は考えるよりも早くニュースタイトルをタップした。
達くんの言っていた通り、『ビルに何かがあった』ので警察が捜索を行い、その結果、ローレライスで大規模な密輸犯罪の証拠が次々と見つかって、社長である釘田が逮捕されたそうだ。当の本人である釘田は入院中だそうだけど……。
はい、私が思いっきりぶん殴ったからですね。
でも、悪いやつだからOKということで……私たちも殺されたかけたしね。
私はLINEを立ち上げて、そのニュースを凛ちゃんたちに送った。
"ローレライスの社長、逮捕されたんだって"
ああ、よかったよかった。
警察に逮捕されるくらい悪い人なんだから、神様が見せてくれた未来の映像も、きっと本当なのだろう。それを私たちの手で止めることができた。この世から悪いやつが消えて、悲しいことが減った。それが本当に幸せなことで……こんなに嬉しいんだねえ……。
その晩は、楽しい気分で目を閉ざして――
「あれ?」
気がつくと、また真っ白な神様空間に立っていた。
凛ちゃんや達くんも隣に立っている。
――お疲れ様でした、3人とも。
そんな声とともに、ぺかーっと光が現れて、そこに神様が現れた。
「よく頑張ってくれましたね。釘田はモンスターの密輸をして大きな富を得ていました。それは決して許されないこと。あなたたちのおかげで、悪を倒すことができました。ありがとうございます」
「悪い人を倒せたのはいいんですけど、巻き込まれた人たちは少しかわいそうですね。警備員さんとか」
釘田と一緒に現れた警備員は、なんとなく悪事の片棒を担いでそうなので問題ないけど、防災センターとかにいた普通の警備員さんたちはなんとなく普通の人っぽかった。私たちの侵入を許したんだから、怒られたりしないかな……。
「あなたはとても優しい人ですね。大丈夫ですよ。善人は善人なりに処遇いたします。私の神様パワーで」
神様はにっこり笑ってくれた。
神様パワー、すごいなあ……。でも、その解決策すごくふわっとしてるなあ……。大丈夫?
「質問があるんだが」
そこで達くんが口を開いた。
「釘田も僕たちと同じアプリを持っていたんだ。そして、緊急クエストまでもらっていた――僕たちの侵入を告げる内容のをね。どういうことなんだ?」
神様はにっこりと微笑む。微笑みを強くする。
「ですけど、楽しかったでしょう?」
「ごまかさないでくれ!」
「あなたたちは選ばれたのです。世界の均衡を守るための戦いに――」
え、それはどういうこと!?
「それはつまり――」
それはつまり!
そこで私たちの視界がぐらりと揺れた。あれ、これって? ああああああああ……と思っている間に神様空間が遠くになっていく。
神様が何かをつぶやいたけど、私たちの耳には何も届かなかった。
はっと目を覚ます。
窓から差し込んだ明かりが目に差し込んでくる。ちゅんちゅんという雀の鳴き声が聞こえた。
「ううん……また誤魔化されたなあ……」
なんか、ちゃんと教えてくれる気があるの!?
スマホを眺めると、凛ちゃんたちからのメッセージが着信していた。
"凛ちゃん:なんだよ……まーた打ち切りだぞ"
"達くん:肝心なことを教えてくれないな"
"凛ちゃん:怪しさ爆発だなぁ……。やめるか!? 苦情がわりだ!"
うーん……お怒りだなあ……。
私は『最強のモンスターを育てよう!』を立ち上げた。
そこにはドラゴンくんと亀くんがのんびりしている牧歌的な空間が広がっていた。彼らの間には微妙な距離がある。物理的な距離は、そのまま心理的な距離だ。なんだろう、適切な距離を置いて付き合いましょう……そんな感じの暗黙の了解感がある。
飼い主としては仲良くして欲しいんだけどなあ……。
お互いに、新入りが! うるせえ、先輩風吹かすな! みたいな感じだったり? いやあ……何も言ってくれないから、よくわかんない推測なんですけど。
おーい、仲良くしてくれー。
2匹にキャベツを与えると、もしゃもしゃと食べ始める。
ドラゴンくんは相変わらずクールな様子で、亀くんはまったりした様子で。亀くんの甲羅をトントンと指で叩いてやる。面白いのは、叩く場所で少し反応が違うことだ。どうやら気持ちいい部分があるらしく、私はそこを叩いてやっている。キャベツを食べる亀くん、実に幸せそうである。
すると、視線が。
おや? ドラゴンくんがチラッチラッとこっちを見ているぞ?
この反応は亀くんが来てからのものだ。主に、私が亀くんを構っているときのもの。視線は口ほどにものをいう。おいおい、お前、俺のことを忘れてないか? 俺がお前の一番だろ? そんな感じ。
このクールな甘えん坊さんめええええ!
私はドラゴンくんの体を撫で撫でしてあげる。
ドラゴンくんは、ふん、興味はないが、お前がしたいというのなら、あえて撫で撫でされてやろう、お前がしたいというのならな。
そんな感じの気高さを纏いつつ、キャベツを食べながら、私に撫で撫でされている。ついでに、尻尾をちょっと嬉しそうに動かしながら。
ふふふ、うーん、かわいいなー。
まるでそこに生きているかのように――いや、どうなんだろ? なんか、生きてるんじゃない? 本当に? そんな感じのモンスターたちが私はたまらなく愛しく感じていた。
この子たちとサヨナラ?
難しいなあ……。
そんなわけで、私はスマホにメッセージを打ち込んだ。
"私はもう少し続けてみようと思うよ"
--- END ---
お付き合いいただき、ありがとうございました。
最強のモンスターを育てよう! 三船十矢 @mtoya
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