第15話 モンスター封印ロックをゲットしよう!
豪華な玄関に比べれば、裏口は平凡な作りだった。
少し大きめのシンプルなドアがあるだけ。
達くんは凛ちゃんから受け取ったカードをドアの横にある四角い機械にかざす。ウィーンという機械的な音がしてドアの鍵が開いた。
「……じゃあ、行くか」
凛ちゃんがドアを開けて入っていく。
最初のターゲットである防災センターはこの裏口のすぐそこにある。来客を相手にするためか、通路に面した壁はくり抜かれてカウンターになっている。部屋の中を覗くと、中には3人の警備員さんたちがいた。
……みんな奥にあるモニターを眺めながら雑談していて、こちらに視線を向けていない。
こんな夜中に来客とか思わないよね。物音がしても、さっきの警備員さんが戻ってきたとか思うだろうし。
凛ちゃんが自分を指した後、部屋の中をさす。
達くんはスマホに文字を打ち込んで、それを凛ちゃんに見せる。凛ちゃんは小さく頷いた。ううう……私の位置だからと見えないけど!
そんな私の百面相に気づいた達くんと凛ちゃんが口に人差し指を立てて、しーっと言ってくる。
うごごごご……すみません、役立たずで……。
部屋に入るドアは閉まっているけど、問題はなかった。
凛ちゃんがあっという間にカウンターを乗り越えて、防災センターの中へと入る。気づかれてもおかしくないほどの大きな動きだったけど、警備員さんたちは気づいていない。
忍び足スキル様様だ。
身をかがめた凛ちゃんはそっとデスクの間を素早く移動していく。
……だけど、3人いるんだよね。2人はしゃべっているけど、もう1人はカタカタとパソコンを操作している。距離が離れているので1人じゃ大変じゃないかな?
なんて思っていると、達くんが動き始めた。カウンターの端からそっと伸ばした右手を、2人組のほうに向ける。
直後、キラキラと輝く緩やかな風が流れた。
その風に当てられると、警備員さんたちの目つきがとろんとしたものになり、体がグラグラと揺れたと思ったら、デスクに突っ伏した。
物音に気づいた残りの1人が振り返る。
「おい、どうし――」
最後まで話すことはできなかった。
いつの間にか近づいていた凛ちゃんが当て身を喰らわせたからだ。3人目の警備員さんも崩れ落ちる。
ああ……ごめんなさい……神様が悪いんです、神様が……やれやれと言いますので……。
「達くん、さっきのは?」
「眠りの風」
確かに、おじさんたちはぐーぐーすやすやと気持ちよさそうに眠っている。
すごいなー便利だな!
「今度は私も頑張るよ!」
「いや、ジョブズは何もしなくていい」
「よし、何もしないよ! ――って、なぜに!?」
「正直、影響範囲がわからないから……」
……ごめんなさい……。
「だけど、いつでも絶望の咆哮を打てる準備はしておいて」
あの、みんなをびっくりさせて動きを止めるやつ?
「どうして?」
「僕たちの侵入がバレたときに使えるからさ。ジョブズ、お前は切り札だ。どうしようもないとき、ドラゴンの強さが光る。頼んだぞ」
よーし、頑張るぞ!
ひょい、と凛ちゃんがカウンターを飛び越えてこちらに戻ってくる。スマホを眺めて、
「次の指示が出てるぞ」
『いよいよ、社長室に向かうぞ! エレベーターに乗って、地図の赤い光のある場所に向かえ!』
私たちは従業員用の通路を歩き、ドアを開けてエントランスホールに出た。人の往来で賑やかだった空間は、まるで海底のように沈んでいる。
「こっちだ」
エレベーターホールに移動し、エレベーターに乗り込む。
すーっと25階まで上がって外に出た。
あと、もう少し……。
凛ちゃんが口を開いた。
「ここまで来たら楽勝じゃね?」
「まだまだだよ。外に出るまでは油断できない。急ごう」
達くんがスマホを見ながらスタスタと廊下を歩いていく。赤い点が輝く部屋――スマホ上の表示によると社長室の前までやってきた。
「この中か」
凛ちゃんがドアを押し開けようとするが、ガチャガチャと鍵がかかっている。
「あ、鍵!?」
「……こっちかな」
そんなことを言いながら、凛ちゃんが鍵を取り出す。それをドアの上と下にある鍵穴に差し込んで順に捻っていく。カチャ、カチャと連続して外れた。
「その鍵は?」
「マスターキー。このビルの鍵ならなんだって開く。さっきの防災センターで見つけて持ってきたんだ」
冴えてる!
今度こそ、ガチャリと社長室のドアが開いた。
社長だけで使うにはずいぶんと広い部屋だった。大きくて重そうなデスクに、大きくて重そうなビジネスチェア。壁際には重厚な本棚がズラーリと並んで、インテリ感が伝わってくる。なんだ、インテリ感って?
手前には大きなソファがでーんと向かい合っていて、その間に高そうなローテーブルがある。
あと、高そうな絨毯が敷かれていて、足元がふかふか。
全体的に見て、とてもお高そうな感じだ!
「さぁて、探し物はどこかな……」
そんなことを言いつつ、私はスマホに視線を落とす。
赤い点を指でタップすると、無骨な形をした真っ赤な石の写真が出てきた。アイテム名『モンスター封印ロック』――名前がそのまま!
詳細によると『内部にモンスターを封印している岩。現実世界で持ち運ぶ際はこの石に入れておくと安全だぞ!』らしい。
なんか、もう本当に現実世界と繋がっているなあ……怪しいアプリ……。
で、この岩を探さなきゃ、という感じなのだけど――
便利なことに、スマホの画面を拡大すると、部屋のどこにあるのかもわかる。社長のデスクから少し離れたところ、壁際にあるキャビネットがピカピカと光っていた。
達くんがキャビネットを開こうとすると、ガチャガチャという音がして開かない。
「ここはマスターキーで開くの?」
「ビル内部のドアだけだって……一応、やっとくか」
ダメもとは、凛ちゃんの言った通りダメだった。
「タイヤ、壊せるか?」
「う〜ん……」
凛ちゃんは引き出しを開けようとしたり、キャビネットをペシペシと叩いてから首を振った。
「私のウサギもそんなに力はないからな。無理だろ」
「僕のフクロウもだ。となると――」
じー。
2人の視線が私に注がれた。
……ええと……?
「ジョブズ、やってくれないか? ドラゴンの力が必要だ」
私なんですね!
「……う、うう、わ、わかった!」
女子的に期待されている方角が少し悲しいが、ドラゴンくんの飼い主である以上、仕方がない。
私は片膝をつき、3段あるキャビネットの引き出しのうち、最下段に手をかけた。どうしてどこかって? 一番大きいから、何かが入っているならここじゃないかな!
「うううううう……!」
私は右手に力を込める。そう簡単には開かないけど、ギリギリ、メシメシ――なんて音が聞こえてくる。頑張れ、頑張れ、私、ドラゴンくん!
「ぬぬぬぬぬぬ……!」
ばきっ、めしっ! と何かの砕ける音がして。
ばあん! と大きな音ともに引き出しが開いた。勢い余って私は尻餅をついちゃったけど……やれやれ、よかったよかった。
「よくやった、ジョブズ!」
「こいつじゃねえか!?」
凛ちゃんが開いた引き出しに手を突っ込むと、石らしきものを取り出した。スマホの輝きを向けると、確かに赤っぽく輝いている。
「やった! 狙ってた石だ!」
「よし、終わりだ。早く撤収するぞ!」
沸き立つ2人と同じくらい、私もほっとした。神様が見せてくれた映像が脳裏に浮かんだ。あの悲劇はもう起こらない。勇気を振り絞ってここにきてよかった……。
――だけど、そんな柔らかい空気を壊すかのような、冷たい声が部屋に響き渡った。
「終わり? ここからがショーの始まりだよ」
同時、パッと部屋の明かりがついた。
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