第43話 狡猾な獣神 蒼羽。

大獅子の放った炎龍は、幾つもに分かれ、陸鳳の両腕に絡みついた。耳まで裂けたお大獅子の口からは、蒼白い炎が吹き出している。

「前みたいに、逃げるなよ」

大獅子の蒼羽は、笑う。

「いつまでも、同じ手が通じると思うなよ」

陸鳳は、両腕に絡みついた炎龍を引きちぎる。姿は、いつの間にか、真実の姿に変わっている。銀と灰色の毛色を持つ、美しい狼の姿が、そこにあった。

「お前には、呆れるよ」

そう言うと、軽く地面を蹴って、大獅子に向かっていく。

「構うな。古傷を忘れたか?」

陸鳳の首筋には、紅い痣が残っている。

「お前が、何者かって事を思い出したよ!」

大獅子の胸元に飛び掛かる陸鳳。後ろに倒れた大獅子が、姿を現したのは、陸鳳が、首筋に牙を立てようとした瞬間だった。

「待ってくれ!」

陸鳳の体の下で、大獅子は、体を捩っていた。そこに現れたのは、先ほどまでの、雄雄しい姿ではなく、3つの尻尾を持つ狐が姿を現していた。

「ほらな・・」

陸鳳は、低く唸った。

「人を騙すのは、得意なだ」

「少し、離れてくれないか?」

蒼羽は、陸鳳の牙を押し返し、陸鳳は、そっと、胸から飛び降りた。

「ふざけた子供騙しを使いおって」

陸鳳は、ブルっと体を震わせた。過去の記憶の一部を無くしたと言っても、やはり、山神だ。蒼羽は、思った。この迫力には、敵わない。偽の炎龍も、黒い煤となり、地に落ちていった。

「炎龍にしては、迫力がなかったな。まぁ、頑張ったか」

「ちっ!」

全てが、誇張された姿であった事が、バレて、蒼羽は、ばつが悪くなった。

「どうして、六芒星の陣の中にいる?」

蒼羽は、陸鳳に聞いた。全く、六芒星とは、関係のない地にいた山神である。六芒星の陣がある事で、他の地神とは、近郊が保たれていた。だが、陣が崩れ始めた影響で、他の地神が、崩壊し始まった。消滅を回避するには、陣を立て直すか、破壊するしかない。その為に、陸鳳は、六芒星の陣の中に潜入したと聞いていたが、ある日を境にパタっと音信が途絶えていた。昔の古傷が蘇ったのか、何か、最悪の事態が起こったのか、その噂は、地の果てまで、響いていた。

「陣の底から、炎龍が、吹き出しているってよ」

「お前の炎龍とは、全く、違うよな」

「あちこち記憶がないのに、馬鹿にするのか?」

蒼羽の尻尾が跳ね上がる。

「まぁまぁ、記憶が必要って事もない」

陸鳳の姿は、元の獣神に戻っていた。

「六芒星の陣の障害は、そんなに酷いのか?」

「俺が、教えると思うか?いつまでも、偉そうにしてるなよ」

陸鳳は、少し、笑う。

「いつでも、お前に私の座を渡すのは、簡単だ。いつでも、倒せ」

「ふん。とりあえず、休戦だ。陣の問題が解決するまではなかっ。さっき、居たのは、陣の仲間だろう?」

「どういう訳か、仲間割れが起きているようだな」

「それが、陣が狂っている原因か?いずれにしろ、他の地域にも、影響が出ているぞ」

蒼羽あ、狐神だ。狂った陣が、他の地にも、影響が出ている。陸鳳の事は、勝手に好敵手と思い込んでいる。失踪した陸鳳の気を読んで、現れたのだった。

「鳥類の王。菱王が、何か、知っていそうだな」

陸鳳は、菱王が、飛び去った西の空に、向かって呟く。

「蒼羽。少し、頼まれてくれないか?」

「嫌だね。お前とは、手を組みたくない」

「お前には、山をやろう。故郷の山には、人間が入り込んでいないぞ」

「やります」

蒼羽は、陸鳳の縄張りが、欲しかった。

「人を騙すのは、得意だよな」

「人ではないけどね」

蒼羽は、先ほどの大獅子の姿に変わっていった。

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