第30話 古の光は呼ぶ
扉の前に立っていたのは、陸羽の兄、陸鳳だった。
「ほう・・・消えてなくなったと聞いていたあの山神か」
菱王は、低く唸った。
「縁のない者は、入れない事になっているがな・・・」
菱王は、社の中をぐるっと、見回す。
「誰が・・・呼んだのか?」
桂華の胸元に、緑色に光る石を見つけると、革紐ごと、引きちぎった。
「これか?」
片手に握りながら、陸鳳の鼻先へと突きつける。
「どうして、これを?」
社に駆けつけたものの、陸鳳は、理由がわからない様だった。桂華を見ても、心当たりがないようで、どうして、ここにきたのか?わからない様子だった。
「どうして、ここにきたのか、わからないようだな?」
陸鳳の姿は、狼から、二本足への人の形へと変わりつつある。
「お前・・・あいつを呼んだのか?」
桂華へ呼びかけるが、彼女自身も誰がきたのか、理由がわからないようだった。
「見た事があるような・・・ないような」
遠い日に遭った事がある様な気もする。ただ、それは、何かのインターネットを見た記憶なのか、図書館で見た資料なのか、記憶は定かではなかった。
「あなたって、実は、訳ありだったのね」
小さく笑いながら、エルタカーゼは言った。
「皇子の相手には、十分すぎる相手よ」
菱王の隙をついて、扉を潜り抜けようとするが、勘付かれ、強かに打ちのめされ、社の床に、飛ばされる。
「くそっ!」
「逃げるな!」
菱王は、剣を桂華に突きつけるのを、陸鳳が遮る。
「何が始まろうとしている?」
「待て!話があって、呼んだ。でなければ、時量師に逆らってまで、小僧を助けたりしない」
「小僧?」
陸鳳が、菱王の指した方向を見ると淡い光に包まれた栗鼠が背伸びをするのが見えた。仰け反るように、背伸びをし、四肢を広げる。淡い光が弾け飛び、現れたのは、人間でいうと5歳位の男の子だった。
「皇子!」
エルタカーゼは、顔をくしゃくしゃにして、駆け寄る。
「良かった。無事で。よくぞ、皇子を助けてくれた!」
菱王に、頭を下げて喜びを表現すると
「じゃ!これで」
何事もなかったかの様に、立ち去ろうとするのを、菱王は、立ち塞がった。
「言っただろう。縁がある者が呼ばれると」
「こんな所に我らは、用がない」
エルタカーゼは、皇子を連れてさっさと戻りたい様だった。
「私には、十分に用がある。その皇子が見つからないと、陣を破壊すると言っていたな?」
「確かに」
エルタカーゼは、皇子を菱王から守るように、立ち塞いでいる。
「時量師を倒すのを手伝って欲しい。今の陣では、新たな世界に対応できない」
菱王は、陸鳳にも、剣先を向けた。。
「身をもって経験した筈だ。山神、陸鳳。呪獣の呪いを受けたな」
「呪獣?」
陸鳳は、頭を軽く振った。
「山は、死んだんだよ。思い出せないか?陸鳳・・・。弟にも、話せない位、ショックだったんだな」
菱王は、緑の石の紐を剣先で、切り付けると、石そのものを、自分の懐にしまった。
「君ら兄弟にも力を貸してもらう」
社の扉を開けると、一面に、鴉の群れが降り立っていた。
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