第28話 黒羽の菱王
鳥居に集まった烏の数は、次第に増していった。西黄色に染まる夕空に、一面に広がっていく烏の影が不気味だった。
「どんどん、増えていくわ」
桂華は、息を呑んだ。
「六芒星の陣が守ってくれると人は言うけど、それが、守護神の場合、どうなのかしら」
冥界の魔物と一緒の場合、自分にも、危険が及ぶ場合もある。その時は、自分から助けを求めるべきなのか?
「一緒にいたからって、私が襲われる危険が全くないわけではないわよね」
「どちらにしろ、お前は、逃げられん。皇子を危険な目に合わせたのだから」
「私だって、連れて来たくて、連れて来たんじゃないもん!」
勝手に、国外について来たのは、そっちでしょう!と言いたかったが、言い争っている時間がないのは、一目で、わかった。鴉達が、狙っているのは、明らかに、桂華達だエルタカーゼは、魔物だから、逃れられるだろう。が、自分は?
「待ってよ・・」
思い出せ。何かがあったはず。自分に問いかける。何度も助けてくれた片目の狼。人狼なのか、狼から人の形になっていた。自分に遠からず、縁のある獣人なら、今すぐ、現れるか?
「違う・・・」
何か、遠い日にあった。
「思い出せ!」
山岳信仰なのよね・・・突然、母親の言葉が頭の中に響いた。昔、そう、中学生の頃だった。行方不明の叔父が、亡くなったと知らせがあった。渋々、葬儀の為に向かった事があったっけ。どこの地方だったろう。やたら、山奥で、自分は、確か、廃校に行った。そこで・・・
「何なの?」
思い出せない。目の前に浮かぶ、緑色のネックレス。深い緑は、見つめていると、惹きつけられてしまい・・。
「これは」
ハッとして、右手で掴んだ掌の中に、硬い塊があった。
「何だ?それは?」
エルタカーゼは、顔を顰めた。
「これは・・・」
深い緑の光が掌から、こぼれ落ちた瞬間、一斉に烏達が、飛び降りてきた。
「来た!」
烏達は、黒い波となって、二人に襲いかかってきた。エルタカーゼは、その持つ力で、次から次へと烏達と焼き切っていくが、桂華は、両手で、体を庇いながら、逃げ回るしかなかった。光の輪が、桂華を守っている様に、見えるが、攻撃が止むことはなかった。
「一体、これは、何なの?」
緑の光は、ゆらゆらと動くだけ。烏達の攻撃が止むことはない。強い翼で、叩きつけられたり、鋭い嘴や足先で、傷つけられそうになるが、エルタカーゼが、桂華を庇いながら、烏達の攻撃が及ばない家屋へと、逃げ惑うのみだった。
「本当に、この辺に皇子の匂いがしたの?」
「間違いない」
「だとしても、この様子では、烏達に襲われているんじゃ・・・」
「なら・・・この陣ごと、吹き飛ばすまで」
「いや・・・待って!」
やっと見つけた社に、エルタカーゼと桂華は、転がり込んだ。
「これで、空からの攻撃は、できないわね」
扉を押さえて、振り返る桂華の前に、エルタカーゼが両手を挙げて立ち尽くす姿が目に入った。
「どうしたの?」
桂華は、状況が読めず、エルタカーゼに声をかけた。
「どうも、こうも・・・」
両手を挙げて、ゆっくりと振り向く、その先に全身を黒い羽のマントに包んだ一人の男性が立っていた。
「まさか・・・自分から、ここに来てくれるとは、思わなかった」
「あなたは?」
「六芒星の1人、菱王」
桂華は、エルタカーゼと顔を見合わせていた。
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