第2話:初陣、②
砦の中、アメリナは展望台から戦の城壁などの様子を見渡していた。
「…ふむ、あと30分ほどか」
彼女はあまりにも兵力差がついているため、城壁への侵入の抑制は、はなから諦めていた。
彼女が中央に集めた兵士はその侵入してた王国兵士を排除するの兵力の予備戦力としておくためであった。
下手をすれば一瞬で瓦解してもおかしく無いほど危機一髪な水際防衛戦だ。
(想定通り、想定以上の酷い戦況だな。
先程の二度目の掃射で守りが薄くなった北北東側に回るか。)
それは彼女は展望台を離れ、城壁に繋がる通路までやって来た時だ。
突然、揺れた。
私は走りだして東側の城壁へ出た。
目の前に広がるのは崩れた北北東の壁と、飛び散る両軍の肉片や欠損した死体、砦の物とは違う別の小さな石や岩達。
城壁の下にもそれらは見えた。
「投石器か!くっ…」
思わず横の壁を殴りそうになるが、堪える。
(くそ!傾斜の死角を利用した奇襲に近い強襲突撃。
移動の邪魔になる装備は置いて来たと思わせ、意識を手間に持って来た上での味方ごと投石器で破壊…)
「くっ…」と罵倒を堪える様にしながら壁を殴る。
(だがあの程度の損傷であれば2時間は持つ、必要最低限の犠牲だ!)
彼女の考えは兵士としては80点、人間としては20点前後であるだろう。
アメリナはそのことを自負していた。
騎士の家に生まれた者としての役目を果たさなければならない。
そう教わり、戦ってきた。
それでいいのだ、そう腹は決めたのだ。
アメリナは声を上げる。
「生き残りの者は今すぐ陣形を整えろ!
増援まであと15分だ!」
投石で飛ばされなかった兵士たちは一斉に自身を鼓舞するための雄叫びをあげた。
〜〜〜
頭が痛い、腕が痛い、肋が痛い、足が痛い。
とにかく痛い、痛い痛い痛い。
デイビッドは気がつくと城壁の下に倒れていた。
左手を地面について起きあがろうとした時、激痛が体に走った。
デイビッドは寝たまま左手を見ると、左手首が横に折れ曲がっていた。
「…くそぉ、グブッ」
声を上げようとした時、喉の奥から血の匂いと肺が焼けるような感覚が。
それと同時に右の肋から激痛が走る。
すこし吐きそうになるが、寸前のところでそれを飲み込んだ。
(もしかして、肋も折れてるのか?)
今度は右手をついて起き上がった。
左手と右足以外は無事なようだった。
兜はどこかに飛んで行ってしまったようで、髪が風でなびく。
何より息が荒い。
あたりを見渡すと、友軍か敵かもわからない肉塊や体の一部、折れ曲がった武器たち、岩が散乱している。
幸いにもライカードの連中は城内にはいないようで、思わず安堵した。
立ち上がるとハルバードを取ろうと…
ハルバードを……
あれ?さっきまで左手に持っていたハルバードが、無い!
無い!無い!無い!、ヤバい!
(ひとまず、代わりになる何かを探さないと…)
今度は周囲を見ると、倒れているハイミルナンがいた。
「おい、ハイミルナン!生きてるか?!
おい!」
倒れた彼女の横にひざまついて呼びかけた。
「うぅ…」
ハイミルナンから呻き声が聞こえた。
ひとまず生きている様で安心した。
ハイミルナンは目立った外傷はなく、強いてあげるとすれば顔についた切り傷や擦り傷程度。
デイビッドは深呼吸をして荒かった息を整えた、冷静になった。
周りには誰のものかもわからないがロングソードが落ちていた。手に取る剣は土埃などで汚れているがうっすらと自分の顔に返り血か定かでは無いか頬についた血が映る。
血…赤…火…こじつけたように次々と頭の中で過去の事がフラッシュバックした。
炎の騎士…青い炎…血。
体がガクガクと震える、怖い、熱い、暗い。
メネ、メネはどこだ、ああ、そうだ、攫われて、えっと、それで、それで____
「おい、そこの男、何をしている」
そう右肩を掴まれた。
その正体は、淡い黄色の髪の長い、変な装飾のカチューシャ、クレイモアを持っている女
我らがドラゴ兵団の団長だった。
「あ、いえ、すみません…」
「そうか、そいつは?」
「この人は気を失っているだけ見たいです。」
「そうか、なら____ あっ」
「うおっ」
また地面が揺れ、崩れたような音が聞こえ、土埃が上がる。
団長は手に持っていた
「門が…奴ら、入ってくる!
その怪我だと戦えないだろう____ 」
デイビッドは左向きに剣を咥え、右手でハイミルナンを担ぐように支える。
「医務室は一階の入り口から5つ横だ! 行け!」
「はい!」
そう返事すると僕は彼女を連れてゆっくりと歩き始めた。
〜〜〜
「あーんもうぅ!」
石をせっせと落とし続けている。
デイビッドが、ハイミルナンが場所を変えても、ずっと。
そして、小一時間、ずっと、1人で、淡々と、落とし続けている。
(デイビッドとハイミルナンの野郎どこなんだよ!デイビッドは援護するとか言ってあっち行っちまったし、ハイミルナンも援護するとか言ってぇさ!)
2人が来たら一発、一発でいいから殴ってやろう、そう考えていたその時。
地面が大きく揺れた。
「!、デイビッド!ハイミルナン!」
少し目を離した内にあっという間に敵が2人、登って来てしまった。
〜〜〜
息が、また荒い、肋が、左手首が痛む。
なんとか医務室まで辿り着いた。
デイビッドは思わずほっと息を吐いた。
木製のドアを開ける。
医務室は9平方メートルほどの部屋で、地面には負傷した友兵や事切れた者たちが居た。
看護服を着た男女が2人に駆け寄る。
「あなた達は?」
そう女の方はデイビッドに問う。
デイビッドと同じくらいの身長の男がハイミルナンをデイビッドの代わりに支える。
デイビッドは口に咥えたロングソードを右手に持つ。
「城壁で投石器にやられました、コイツは頭を強く打って、僕は左手首と右の肋が…」
「ロナウド、その人には水を飲ませて濡れ雑巾で頭を冷やして。」
ロナウドと呼ばれたハイミルナンを支えた男は指示を聞くと、デイビッドは頷き歩いて行く。
「あなたは歩ける見たいだからついて来て。」
女は振り返って歩き始めた。
デイビッドはそれに追随するようについて行く。
椅子に座らせ、左手、胴の防具を外す。
女が左手や肋に触れて傷の具合を確かめる。
「挫けてるだけね、肋は2本逝ってる。
あなたはあそこの男の人の所に行って、私じゃ手に負えない。」
そう言い指をさした方向には、白衣を着た茶髪の男がよこたわる兵士の横に座っていた。
「…わかりました」
(人が変わっても、やることは変わらないのに何になるんだろう。)
デイビッドそんな邪念を抱きながら近づく。
横たわる兵士は起き上がり、男に感謝して去っていった。
「…?あれ、次は君かい?」
低い声でそう問う。
「ええ、はい。」
「じゃあ、そこに寝て。」
指示された通りに剣を横に、自身は横たわると男は頭に触れた。
すると曲がった手首や肋の痛みが元通りに、ほんの少しずつだが治って行く。
「…!、なんで、すごい…!」
「あれ、君は初めてかい?」
曰く、デイビッドを治したのは"ギフト"と呼ばれる力なのだという。
何かを強く念じた時に、過去の事を思い出した時に…きっかけは十人十色だが、発現する事があるのだと言う。
デイビッドはそこまで聞くと、あの炎の騎士を思い出した。
「もしかして、体が燃えたりするギフトもあるんですか?」
「あるんじゃないかな、見たことがないから予想になるけど」
「…炎の騎士を知っていますか?」
「んー、わかんない。炎のギフトとなんか関係があるのかい?」
「…いえ、忘れて下さい。」
間違いない、アレはギフトなんだ。
そうデイビッドは確信する。
この手がかりは決して無駄にしない、絶対に炎の騎士を見つけてみせる。
「さ、そろそろ行っておいで。」
「はい、ありがとうございました!」
あの大怪我も、ものの40秒で完治した。
凄まじ治療力だとデイビッドは思う。
感謝するとデイビッドは外した手甲と胴をつけると、ロングソードを掴んで医務室を出た。
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