第3話:初陣、③

喉元に迫る槍を上体を左に逸らして躱す、そして引き戻されようとする槍を掴み、引き寄せると自身の持つクレイモアで首に突き刺す。

赤色のあぶくを首から出すと、力無く地に沈む。

「ハァ、ハァ、増援まであと15分!耐えればこちらの勝ち!」

アメリナは息をあげながらもそう呟く。

「一先ずの勝負」ではあるが、それはあながちこのレイジェナード攻防戦において勝敗を分けると言っても差しつかえない。

レイジェナード郊外のこの砦には帝国側の増援1万6千が向かっていた。

現在の砦内の戦力が1万6千弱。

対して王国側は1万9千までに消耗していた。

増援がつけば実に1万3千もの兵力差ができる。

そうなればもはや敗走は免れない。

そして、その事実に気づいているのは何もこちらだけではない。

(ギフトを使うにはまだ、早い!)


〜〜〜


「やはり堅牢だね。」

そう黒い鎧を見に纏う女は砦で争う様を遠くから見ながら呟く。

「おや、投石器はどうしたんだい?」

真横に設置されている投石器を見た。

どうやら投石する際に引きくための紐が切れてしまったようだ。

「紐がどうやら引っ張る際の負荷に耐え切れないようです。」

女の横に近づいた男は状況を説明する。

「ふむふむ、早く打ちを永続的にするにはもっと紐の強度をあげないといけないね。

これは改良の余地がたくさん見つかりそうだね。」

そう不敵に笑みを浮かべ呟いた。

「さて、そろそろ増援が来る頃合いかな。

試運転にしては、だいぶいいんじゃないかな。

そろそろ撤退した方が良さそうだ。」

そういうと男とその近くにいた兵士たちは斧を手に持ち投石器を切り壊し始めた。

そこへ1人の兵士が走ってやって来た。

「メネ様!目撃されたようです、お探しの人物が!」

「なんだって?!」


〜〜〜


医務室を出たデイビッドは城壁下へ走りでた。

乱戦状態で断末魔や死体が見られた。

1人の敵兵がこちらを向く。

デイビッドは敵兵の構えた槍を剣で右下に払う、頭を掴み眼球にロングソードを突き立てる。

「あああああああがががっごガッ」

悲鳴を上げたのが、五月蝿いものだから突き立てたままのそれを「ぐりっ」と回すと気の抜けたように槍を落とし、動かなくなった。

後続の敵兵が槍をこちらに突き出す。

(ダメだ、かわしきれない!)

デイビッドは迫り来る槍に先程の兵士を盾のように前に突き出す。

槍は物言わぬ敵兵の右兵脇に突き刺さる。

デイビッドは身を低くし、左から飛び出ると

鎧の無い股関節を狙って剣を振り上げる。

だが槍の石突で受けられてしまう。

「嘘ぉッ」

デイビッドは身を翻し後ろに飛ぶ。

敵兵は腰に刺したロングソードを取り出す。

敵兵はデイビッドの膝をねらって剣を振る。デイビッドは足を上げて鎧のついたすねで剣を受けた、想像以上に痛く、デイビッドは顔を苦痛の表情に歪める。

「オラァッ」

すかさず相手の剣を持つ右手首、鎧と鎧の隙間を狙って剣を下ろす。

「うぐぁ」

切断はしなかったものの、刃は深くまで入り込んだ剣を引き抜く。

敵兵は右手に持っていたロングソードを落とす。

だらんと垂れた手首を左手でささえながら

二歩、三歩と後退りする。

すると後退りした敵兵の方に黒い手甲の鎧が

ポンと置かれた。

「君は休んでいいよ。」

そう手を置いた者は言った。

その人は黒い甲冑に身を包み、ミラノ式の

アーマーの兜には、王国の指揮官の印である赤い毛冠が風に靡いていた。

「…!大将首、なんで前線に?!」

そうデイビッドは呟く。

本来、戦馬での指揮官というのは、後方から

戦況を把握し指揮を取る地位。

十人長や小隊長のように前線での指揮は一切

しない地位のはず。

それがなぜか前線にいる。

その事を理解した上で、堂々と前線にいる。

この事実全てがが異常事態だった。

「懐かしいね。」

「…何を言っているんだ?」

懐かしい、そんな突拍子もない事を指揮官はしゃべる。

指揮官はデイビッドのその問いかけに鼻で

「ふふっ」と笑った。

「覚えていてくれたかい?」

「なっ!」

指揮官は兜を取る。

デイビッドは驚く、何もデイビッドは取った事に驚いてはいない、取る事自体は何も問題は無かった。

問題はその取った後の顔だ。

「私の事」

「メ…ネ…、なんで…」

なぜ、メネが。

炎騎士に攫われて、てっきりもう___________









_____________死んでしまったんじゃないか

そう思ってしまったじゃないか。

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