未定(後日決める予定)
四鈴 イト
第1話
「状況を端的に説明いたします。」
慌ただしく報告や指令が飛び交う司令部で参謀ルリィ・クーパーの副官であるクラム・モーディは冷静に話し始めた。
「今より約2時間前にASF同盟国であるレニアが侵攻を受けました。以前より侵攻の予兆があったため駐留部隊数を増やしてはいましたが先ほど受けた報告より戦況はこのように推測されます。」
空中に投影された戦況図は侵攻部隊を示す色で覆われており、事前予測で想定された部隊数を大きく凌いでいた。またASF及びレニアが侵攻を受けた際に構築予定であった防衛線はすでに複数で突破されており、戦況は敗戦の様相を示していた。
「敵はポータルを用いて戦力を投入し続けているため、現状拮抗している戦線もいずれ崩壊すると予測されます。」
位置座標透過魔法 ポータル
ASFでも使用されるこの魔法は離れた場所を繋ぎ、入り口と出口の間に存在するあらゆるものを透過させることによってそもそもそのような空間や距離さえも無かったものとして位置座標を再定義することで莫大な距離があろうと一瞬で移動を可能としている。欠点としてポータル開通に距離が長ければ長い程時間がかかることや位置座標が固定されているため、ポータルを閉じるためには出入口両方で閉じる必要がある。片方だけ閉じても完全に閉じることは出来ず、もう片方を閉じるor時間経過によって位置座標がズレることによる魔法破綻しか閉じられない。
つまるところ敵に利用されるリスクを負っても大きすぎるメリットがありアレンジ版や派生型を含めてあらゆる魔法国家に普及している。そして今回のレニアではリスクの部分が、あまりにも大きすぎる代償が表面化した。
「敵は少しずつレニアに工作員を潜伏させており、侵攻当日にASFが開通させていたポータルを襲撃。少数でありながらも精鋭部隊だったこともあり、時間はかかったものの襲撃部隊の殲滅には成功。こちらの被害は軽微なものでした。」
クラムの説明に合わせ戦況図は侵攻初期の状態となっていた。ASFがレニアに開通させていたポータルは2つであり、侵攻を受けたという情報は即座にもう一方を守備していたASF部隊と参謀本部にも伝達され、追加増援とポータル周辺の警戒が強化された。この時点で襲撃開始から30分が経過していた。そして増援部隊がポータルを通って到着したのと同時刻、襲撃を受けていなかったもう一つのポータルに2個総軍、総勢20万を超える軍勢がポータル守備隊に殺到した。
「我が守備隊は頑強に抵抗するも個の実力を上回る物量で押し切られ、ポータルからの撤退に至りました。」
戦況図には突如として現れた敵集団にポータルを包囲する様子が投影された。
「幸いなことにポータルはレニア・ASF間で閉じることに成功したため、こちらにまで進行してくる可能性は低いです。」
クラムの発言によって慌ただしい司令部は僅かに安堵の空気が齎された。そして次の発言でその空気は一変した。
「ただ最初に襲撃を受けたポータルは敵に奪取され、現在書き換えが進められていると考えれます。」
ある者は茫然とし、ある者は手にしていた資料やらを地面に落としていた。
その場にいた全員が破壊の音色が近づいていることに怯えを隠せずにいた。無理もなく司令部にいる者達はASF所属の軍人とはいえ実戦経験が乏しい若手達で、ましてや直近の戦いにおいて勝利し続けていたことからどこかで負けることはないと信じていたことが、より彼らの狩られる側に回ったという事実に追い打ちをかけた。
しかしASFが過去何度も敗戦しているという事実を知っている者や体験している者は動じること無かった。むしろ・・・
「ポータルの書き換えってことは
「恐らくレニアを中継地点としてこちらを落とす算段なのでしょう。ポータルの軍事価値は輸送性以外にも奇襲性が挙げられますから。そうして来ないというのはそもそもこちらは現状作戦目標ではないと考えるべきでしょうね」
「私もそう考えます。今回敵の目的はレニアの制圧であり、ここを奪取されると今後我々の安全が脅かされる可能性が高いです。」
状況分析し、冷静に敵の狙いをオンレ、ルリィ、クラムの3人は推察した。
「敵の狙いを予測できましても現状こちらが劣勢というのは揺ぎようがない事実。そこで」
ルリィはチラッとオンレに視線を送った。
「オンレ。あなたにレニア反攻作戦
さらっと過労働を命じるルリィに司令部は「はっ?」という表情が文字として浮かぶほどに唖然とした。
「我がASFとレニア軍は遅滞戦術を駆使しつつ、第一都市レニーズまで撤退を行い防衛線を築いています。」
間髪入れずにクラムは作戦概要を話し始めた。
「レニーズにて防衛を行いつつこちらも新たにポータルを開通させ、戦況の打開を図ります。オンレ様にはポータル開通までの間、レニーズ防衛と敵ポータルの破壊をお願いします。」
「はいはい質問です~」
淡々と続ける理不尽にオンレが横やりを投げつけた。
「聞いた限りだと防衛・偵察・強襲を一人で行わせようとしてる風に聞こえるんですけど~」
ジト目のオンレに、
「むしろ適所過ぎる適材だと思いますよ?」
嫌味がなさ過ぎて逆に嫌味にしか捉えられない笑みで返された。
「それに最近鬱憤が貯まっていると仰っていたでしょう?あなたにとって雑兵と言えど数が多ければそこそこ楽しめると思いますよ。それに良い知らせがありますし。」
ルリィの言葉にオンレはバツの悪い顔を浮かべた。しかしクラムの言葉に表情が一変する。
「恐らく今回の敵はアンディール・ネクロ隷下のパーミッドスマッダであり、損害次第では少しは満足できる相手が出てくる可能性があります。そしてこちらにも少なからずの損害が出ていることや同盟国の被害を拡大させないため、今回オンレ様の判断でご自由に戦っていただいて構いません。」
その言葉に司令部は何度目かの戦慄が走った。当人であるオンレは微かに瞳を開いた。もともと眠気眼で気だるそうな瞳に微かに何かが宿った。そんな機微を感じ取ったルリィは本心の笑みを零した。
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