その2-黒原さんside
重いコピー機を開けるとランジェリーであった。
あと、その下着を写したA4の紙が1枚置かれてあった。
いずれも意味がわからん…困ったなぁ…今日の部活に備えて、楽譜をコピーしたいのに…
見た目で言うと、少しセクシーというか、、透けてはいないけど、結構ラインは攻めている。女子高生の持ち物ではないでしょ。誰…?こんなの忘れたの。ていうか、そもそも下着をコピーしようとした人は。
学校って落とし物センターってあるんだっけ…?下着が落ちていたらどうすればいいんだろう?職員室?校内放送?いや、そもそもこの下着をどう持ち出せばいいんだ?
「やぁ」
「はっっ…!」
私は重いコピー機をとっさに閉じる。
いや、別に私が隠すものでもないのだけど。
「なんだ…弓木さんか…どうしたの…?」
弓木さん、クラスメイトではあるけど、すっごく仲が良いという訳では無い。
どっちかっていうと、不思議ちゃん…?テニス部のエースにして、弓木さんは行動が読めない時がある。
「げんき?」
「あ…うん…元気…だよ」
「それはいいことだねぇ」
「それはそうとさ、たまにさ、意味わからない名前のバス停ってあるよね」
「う…うん…」
私の体調より、バス停あるあるの方が優先度が高いのか…。
「『フードセンター前』とかさ、何なん?って思わない?誰の、何のフードなんだろう…?って」
「あぁ…ちょっとわかるかも…」
適当に同意するしかない。
「そんなローカルな話題、知るかよー!って、特に遠出すると思うよね。あぁ…遠くに来たんだなぁ…」
「そこで旅を感じるんだね…」
弓木さんは満足げな顔をしている。やっぱり、その辺の生徒と少し違う感じがする。
「そうだ、黒原さんは今何してるの?」
「えっ、あぁ、特に、何も…」
「コピー機の前で何してるの?」
やば。この子、いきなり核心を突いてくるんだけど…まぁ当然の質問ではあるんだけど。
「将来の結婚式のセトリを印刷しているの?」
「いや…気が早すぎでしょ…」
「やっぱり〇ケモンのチャンピオンロードのBGMは必須だよね」
「どうしてそこだけピンポイントで決定しているの…?」
この子は、実は10年後からやって来た宇宙人なのかもしれない。
「黒原さん結婚するときは、私は友人代表のスピーチをするね」
「え…それは…」
『いや、そんなの意味わかんないじゃん、何それ!』という言葉をかけようとしたけど、おかしい、というか、人の好意というのは、明確に断る理由がないのです。
もちろん「ではどうぞどうぞスピーチしてください」という訳でもないけど。
「いいじゃん、いいね、そういうの」
という曖昧なポジティブを戻す。こうやって、偶に色んな人につけこまされるけど。
「じゃ最後に感動的なスピーチをする役どころね」
「いや…それは親だから…」
「まぁ…私って…黒原さんの親みたいなもんじゃん…?ね…?」
「そうなんだ…そうなの…?」
こういうのは、ある程度ちゃんと否定する。
「友人代表スピーチでしょ」
「あーそうだ、ごめん。ちゃんとやるね。えー、何だっけ、最初は『弔辞』っていうんだよね」
「いや私を殺さないで…」
「『黒原さん、こう呼びかけても、あなたは振り返ってくれることも、笑いかけてくれることも、なくなってしまったのですね』」
「いや、普通に振り向くから」
「まぁでも結婚って死を表すようなものだからね」
「何それ深い」
「この前世界史の先生が言ってたよ。『結婚すると自分の時間が半分になる、子どもが生まれるとさらに半分になる、2人目が生まれるとさらに半分に・・』って」
「結婚すんなよ…」
「まぁあの先生研究好きだからね。研究っていうか、自分が好きっていうか」
「弓木さん今日キレキレじゃないですか…」
整った顔から溢れ出る毒は、ちょっと癖になってしまう…。いや…いけない。
「『萌子、結婚おめでとう。』
「あ、本当に続けるんだ…」
不意に、下の名前を呼ばれました。
「『私たちが最初に会ったのは、高校の時、コピー機の前でしたね』」
「あ、ここが最初に出会う場所扱いになるんだ…」
教室でも見かけるのに。もちろん、まともに会話したのはこれが初めてかもしれないけれど。
「『そこからすぐに仲良くなり、一緒にお風呂に入ったことが昨日のことのようです』」
「いきなり距離縮めたのね…」
どこのお風呂に連れていかれるんだ…。
「『学校を卒業した後も、同窓会で再会したりしましたね。萌子、結婚おめでとう』」
「いや卒業後の付き合いうっすいな…」
「萌子」
「どうしたの…下の名前で呼んだりして…」
少しゾクっとする。
「萌子は明日から夏休みだけど、なんか用事あるの?お風呂?」
「どんだけ私を風呂に入らせたいのよ…特にないよ。両親の実家もこの辺だから、遠出することもないしね」
「じゃあ今からお風呂に入りに行こう」
「なんで…今日は部活だっての…」
「ていうか何印刷してたの」
「あーっ!何でもない!何でもないから!行こう!行きましょう!行きます」
核心を突かれるのは困る。何を守りたいのかわからないけれど・
「いや…全然行くんだけど…なんでお風呂なの…?」
「えー秘密」
「えぇ…」
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