アタシはあの娘とあの子が好き!

北浦十五

第1話 アタシ達は仲良しトリオだよ



 アタシとゆきちゃんと優希ゆうきくんは、とーっても仲良しなの。保育園ほいくえんころから、ずーっと一緒いっしょなの。そしてね。アタシ達は小学校に入ってからも、ずーっと同じクラスなんだよ。こんなの信じられる ? これはもう運命だよね。アタシ達がかよってる小学校は1学年で2クラスしか無いから偶然ぐうぜんだ、って言う人もいるけどね。


 えっと、アタシの自己紹介じこしょうかいってしたっけ ? まだだよね。アタシはおっちょこちょいだから、先生やお母さんに「もう少し落ち着きなさい」ってよく言われるんだぁ。お父さんは何も言わないでニコニコしてるけどね。


 アタシの名前は勇気ゆうきって言うんだよ。4年1組。学校の成績表は・・・まぁ、フツーよフツー。でも体育には自信あるんだぁ。足はクラスで1番速いし。水泳だってプールの1番、はしからはしまで足を立てないで泳げるのはアタシと優希くんだけなんだからね。お昼休みは男子に負けないくらい真っ黒に日焼ひやけして校庭こうていを走り回ってるよ。


 えっ、女の子で勇気って名前はめずらしい ? それ、いろんな人に言われるんだよねぇ。アタシの名前だけ見た人は、アタシの事を男の子だと思うみたい。なんでだろうね。アタシの名前を付けたのはお父さん。「自分に勇気をって、ほかの人にも勇気をあたえられる人になりなさい」ってお父さんには言われてるよ。「他の人に勇気を与える」って、どうすれば良いのかアタシにはまだわからないけど。でも、アタシは勇気って名前は大好きなの。だって、カッコイイじゃん。


 あ、雪ちゃんと優希くんの紹介しょうかいもしなきゃね。まずは雪ちゃんから。雪ちゃんはホントに雪のように真っ白なはだで、とてもキレイななの。それで学校の成績表もクラスで1番なんだよ。スゴイでしょ。でも、雪ちゃんは自慢じまんとかは全然ぜんぜんしないの。アタシが「雪ちゃんスゴイねぇ」って言っても、ずかしそうにポッとほほめるだけなんだよ。雪ちゃんの白い肌があかまると、ホントに雪の中に紅い花がいたみたいにすっごくキレイなの。アタシはそれが見たくて何回も「スゴイねぇ、スゴイねぇ」って言うと「もぉー、勇気ちゃん。やめてよぉ」ってプクッと頬をふくらませるの。そんな雪ちゃんは、とってもカワイイんだよ。


 でも、雪ちゃんは身体からだがあんまり丈夫じょうぶじゃ無いんだぁ。「ビョージャク」って言うらしいけど。それでクラスでは1人で本を読んでる事が多いんだよね。それでも雪ちゃんはとってもやさしい良い娘だってクラスのみんなは知ってるから、イジメとかは無いんだよ。これは1年生の時に雪ちゃんにイタズラをしよう、とした男子たちをアタシがコテンパンにした「ブユウデン」が影響えいきょうしてるのかも知れないけど。アタシがコテンパンにした後で優希くんが「雪をイジメるヤツはおれと勇気がゆるさない」と宣言せんげんしたのもいてるのかもね。


 アタシは4さいの時にはじめて雪ちゃんと出会であった時の事を今でもハッキリとおぼえているんだよ。4歳のある春の日。アタシは初めての保育園ではしゃいでいたっけ。だって、あれだけ沢山たくさん同年代どうねんだい子供達こどもたちを初めて見たんだもん。アタシは「シャコーセイ」があるから知らない子でも平気へいきでおしゃべりできるの。そんな時だった。教室きょうしつ片隅かたすみで絵本を読んでいる雪ちゃんを見つけたの。アタシは衝撃しょうげきを受けた。だって、その時の雪ちゃんはアタシが絵本で見た天使てんしさまか妖精ようせいさんみたいだったから。アタシはきつけられるように雪ちゃんに近づいて行った。アタシが近づいて来るのが判った雪ちゃんはビクッと身体をこわばらせたみたい。でも、アタシはかまわずに近づいて行ったの。雪ちゃんの目の前まで行ったアタシはその場にしゃがんだ。そして、こわがらせないように笑顔えがおで言ったの。「アタシは勇気って言うんだけどアナタのお名前はなんて言うの ?」ってね。雪ちゃんはしばらく絵本をったままかたまってたけどフウッて深呼吸しんこきゅうしてから答えてくれた。「ゆ、雪って言うの・・・」 アタシは雪ちゃんが答えてくれたのがうれしくてニカァってわらって右手をし出した。「雪ちゃんかぁ。アタシ、雪ちゃんとお友達になりたい!」ってね。雪ちゃんはビックリしたような顔をしてたけど、おずおずとアタシの右手をにぎってくれた。「お友達になってくれるの!」「・・・う、うん。・・・あたしで良ければ」「やったぁ!」アタシは思わず雪ちゃんに抱き着いてしまったの。「キャア!」 雪ちゃんのかぼそ悲鳴ひめい。アタシはあわてて雪ちゃんからはなれた。「ゴ、ゴメン。痛かった ?」アタシは心配しんぱいになって聞いたの。そしたら雪ちゃんは「ううん。ちょっとビックリしただけ」って笑ってくれたんだよ。その笑顔はアタシには、やっぱり天使さまか妖精さんにしか見えなかったなぁ。


 あとになって、その時の事を雪ちゃんに話したら「あたしも初めての保育園で、とても心細こころぼそかったの。だから勇気ちゃんが話しかけてくれて、とても嬉しかったよ」って言ってたなぁ。そして、その笑顔は今でもアタシにとっては、天使さまか妖精さんなんだよ。


 さて、最後に優希くんだね。優希くんと仲良くなったのはアタシと雪ちゃんがお友達になってから2年後ねんご。つまり年長ねんちょうさんになってからだよ。優希くんは今でもそうだけど皆より頭一あたまひとが高くて身体も大きかった。そして、ちょっと短気たんきだったかな。まぁ、年長さんと言っても園児えんじだもんね。ちょっとした事でケンカもしてたなぁ。アタシもしてたけどね。だって、やたらと雪ちゃんにチョッカイ出してくるんだもん。男子ってお子ちゃまだから、気になる女の子にはチョッカイ出したいみたい。そして、雪ちゃんは保育園では1番の美少女びしょうじょだったから。つまりアタシは雪ちゃんをまもためたたかってた、って言うワケ。アタシはチビだったけど、すばしこかったからね。男子の攻撃こうげきけてけて、相手がつかれたのを見計みはからってパンチやキックをお見舞みまいいしてたの。なんて書くとおおげさだけど園児のやる事だから、ケガなんかはしなかったよ。おたがいにね。


 それがさぁ、あと少しで卒園そつえんっていう頃に「決着けっちゃくけようぜ」なんてお子ちゃま男子グループが言ってきたワケよ。どーせアニメかなんかで見たセリフなんだろうけどさ。優希くんは「女の子1人を相手になんて、めろよ」なんて言ってたけど短気だからね。アタシが男子たちを次々つぎつぎとなぎたおして行くのを見て頭に血がのぼっちゃったみたい。「おれがラスボスだぁ」とかワケのわかんないゲームみたいなセリフをいたのよ。園児だからね。ハラハラしながらもずっと見ていた雪ちゃんが「勇気ちゃん、もう止めようよ。勇気ちゃん、つかれてるし」って言ってくれたけどアタシもあとにはけなかった。「勇気の名にかけて!」なんておバカなセリフを言っちゃったワケ。園児だしね。優希くんには負けた事が無かったから (勝った事も無い) 勝負したんだけどアタシのスタミナれはあきらかで、すぐにたおんじゃったの。トドメを刺すつもりなのかゆっくりと近づいてくる優希くん。そんな優希くんの前に立ちふさがる1つの人影ひとかげ。それは、なんと雪ちゃんだった。雪ちゃんは両手を広げてさけんだ。「なによ!1ひとりを相手に大勢おおぜいで。しかも勇気ちゃんは女の子なのよ!そんな優希くんなんてだいっきらい!」アタシと優希くんは、しばし呆気あっけに取られていた。「美人びじんおこるとこわい」ってお父さんからよく聞いてたけど、この時の雪ちゃんは女神めがみさまのようにキレイだった。園児だけど。そしたら優希くんが両膝りょうひざをついて土下座どげざしたの。「ゴメン! 勇気、雪。最初から俺が止めるべきだった。ホントにゴメン!」って。それを見た雪ちゃんは「どうする、勇気ちゃん ?」って聞いてくるから「良いよ。アタシもおバカだったから」って答えたの。ことわっておくけどホントに園児だからね。こうして、アタシと雪ちゃんと優希くんは大の仲良しになったってワケ。







「さっきから何をブツブツひとごとを言ってるの ?」


 不意ふいに雪ちゃんの声がする。


「ひゃあ!」


 ビックリしたアタシは椅子いすからころげ落ちそうになる。そんなアタシを雪ちゃんは不思議ふしぎそうなで見てる。キョロキョロとアタシはまわりを見渡みわたす。見慣みなれた4年1組の教室だよ。


「あぁ、雪ちゃんは4年生になってますますキレイになったね」


 それを聞いた雪ちゃんはクスクスと笑う。


へんな勇気ちゃん。次は音楽だから音楽室おんがくしつに移動よ」


「ほっとけ、雪。コイツはのうみそ筋肉きんにくなんだから」


 かぶせるように優希の声がする。


「うっさい!急にイケメンになったからって威張いばるな」


 怒鳴どなるアタシに「何を言ってるんだ ?」と言う眼を向ける優希。あ、今のアタシは優希の事はてにしてるんでヨロシク。


 何だかんだ言ってもアタシ達3人は「仲良しトリオ」と呼ばれているんだからね。



 そう。



 

 あの授業が始まるまでは。












つづく






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