第53話 4ー10 ウェーク島沖の戦い
私は、
現在、空港や港湾整備など要塞化を順次進めているウェーク島の海軍航空隊に配属されてまだ一月も経っていないのだが、どうもハワイの敵機動艦隊に動きがあるようだ。
正規空母と軽空母を中核とした三つの機動部隊が、ウェーク島に向かっているようだ。
飛行船型哨戒機からの情報によれば、はるか後方に控えるサンディエゴからの輸送船等を含めると総数で100隻を超える大艦隊だそうだ。
今回、トラック島にある連合艦隊司令部から来た指令は、少し毛色が変わっていたな。
空母及び駆逐艦以上の戦闘艦を中心に、一つの機動部隊当たり12隻までを撃沈せよというものだった。
普通ならば「敵艦隊の撃滅に当たれ」なんだろうが、何でわざわざ敵勢力を残すんだ?
俺が隊員を代表して基地長に食ってかかったら、基地長曰く、今の戦力をもってすれば全艦撃滅も可能だが、勝ち過ぎてはいかんのだそうだ。
まぁ、海軍のお偉方がそう考えているならば仕方がないんだが・・・。
今の帝国の情報収集能力と戦闘力から言えば、間違いなく米国の機動艦隊に勝てる。
だが、それがいつまでも続くとは限らない。
足元を
それには、欧州での戦局に米国の戦力が不可欠なんだそうだ。
一時は帝国がドイツとの同盟寸前にまで行っていたはずなのに、何故今になって米国の戦闘力を奪わずにドイツを弱める方向に動くのか?
この世界大戦終了後の見通しがいくつか記載してあったが、その一つがドイツが欧州を制覇した場合に、ドイツそのものが帝国の敵に回ると書いてあるのだ。
まぁ、同盟にまで行かなかったのだから、いずれ敵対もあり得るかもしれない。
だが欧州と極東は遠い、
そんなに簡単には攻めて来られないだろうと俺は思った。
一方で、当該書簡には、欧州から米国西岸を直接攻撃できるような長距離砲やロケット弾がドイツで開発される可能性があるとも書いてある。
しかも、理屈はよくわからんが数十万人規模の人口を有する都市であれば、一発で消し去れるほどの特殊爆弾もドイツと米国でそれぞれ開発中らしいのだ。
おっとろしいことに、その特殊爆弾を積んだロケット弾が成層圏を飛んでドイツ本国から米国西岸を狙い撃ちできるようになるとも書いてある。
まさかとは思うが、馬鹿にはできん。
吉崎重工と吉崎航空機製作所は、俺が子供のころに読んだ「海底軍艦」を
こと科学に関しては、日進月歩と言うのがよくわかる。
どうもこの文書では、ドイツも米軍も共に戦わせて、帝国が漁夫の利を得るようなことを考えているのじゃないかと思う。
何というか、俺の性格からいうとそんなまどろこしいことは好きじゃないんだが、海軍首脳や政府のお偉方も色々考えた末の結論で有れば、海軍軍人として従わざるを得ん。
そうして、ついに俺の指揮する第401航空戦隊第二飛行大隊に出撃命令が出た。
ウェーク島占領後3日目には、99式戦闘機「蒼電」36機と早期警戒機「連梟」4機が正式配備されていたが、その二週間後には、更に複座型単発攻撃機の「炎征」が36機追加派遣されていた。
その追加派遣部隊の「炎征」36機が、俺の率いる第401航空戦隊第二飛行大隊だ。
ここのところ、蒼電の出撃が毎日のようにある。
蒼電の出撃は、分隊どまりの三機程度が出て行くだけなんだが、二時間もしないうちに戻ってくるんだ。
話を聞くと敵の偵察機の迎撃らしい。
少なくともウェーク島の周囲百海里以内に近づく奴は皆無のようだ。
空は
だから米軍はウェーク島の現状戦力を知らないでいるわけだ。
まぁ、焦れて艦隊を繰り出したんだろうが、愚かだよな。
俺もこれまで戦果を挙げてはいないから確かなことはわからない。
だが、炎征からのメガネ爆弾一発で空母にしろ戦艦にしろ撃沈できるはずなんだ。
訓練通りにやればいいだけの話だ。
第401航空戦隊第二飛行大隊は、12機ずつ三つに分かれて出撃だ。
出撃直前の打ち合わせでそれぞれの編隊が標的とする艦隊は仕分けされており、それぞれの機動部隊で大きい艦から順次沈めることにしている。
相手の現在位置は、
今回は、「炎征」が超空からの攻撃だけで終わらせることになっている。
従って、護衛戦闘機も不要なんだ。
― 米軍視点 ―
大型空母エンタープライズとホーネット、それに戦艦2隻等は、万が一の場合のハワイ防衛のために残しているが、現時点では暗号解読班でも日本軍の連合艦隊に動きは無いと判断している。
今回の作戦に編成されたW21任務部隊がレキシントンと軽空母ボーグ、W22任務部隊がサラトガと軽空母カード、W23任務部隊がヨークタウンと軽空母コパヒーで、各部隊の戦闘機数は104機、爆撃機・雷撃機を含めた航空機の総数は452機に上る。
これでウェーク島程度を攻略できなければ、太陽が西から昇ることになるだろうと思われていた。
真珠湾からウェーク島までおよそ2300海里、輸送船や軽空母の巡航速力に合わせて15ノットの速力ながら、6日余りの行程であった。
翌日正午にはウェーク島から200海里の圏内に入るところまで各任務部隊はウェーク島に接近していた。
勿論、前日の早朝から全方位に渡って厳重な索敵を行っているところであるが、何の異変も感じられなかった。
その日一番西側のコースで北からウェーク島に接近中のW21任務部隊は、南から接近する航空機の編隊をレーダーで確認した。
機数は僅かに12機程度ではあるものの、油断はできないのですぐに戦闘機を迎撃に上げた。
しかしながら迎撃機が接敵する前に、敵機は艦隊上空に達していたのだった。
単発、小型と思われる航空機は、高度12000m上空を飛行していたのだった。
最新鋭のF6Fでも10000m以上の高度での運用はきつい。
それでも敵機が見えるぐらいまで上昇はしたものの、あっさりと速度で置いてけぼりを食らったのである。
ミートボールを翼面下部と胴体に掲げている航空機は、胴体に爆弾状の物をぶら下げていた。
魚雷ではないので或いは急降下爆撃機かと思われたのだが、艦隊上空に達すると、その爆弾をそのままの高度で順次投下し始めたのである。
1万2千mもの高々度から水平爆撃で動く船を狙うなど聞いたことも無いが、それでも念のため機動部隊には無線を送って知らせた。
敵機は爆弾と思われるモノを落としたと・・・・。
その50秒後、空母レキシントンの飛行甲板が盛大に火花を上げて爆発した。
その数秒後には軽空母のボーグが爆発四散した。
次いで輪形陣を組んでいる戦艦アリゾナ、ネバダ、巡洋艦フェニックスと駆逐艦デューイなど8隻が次々に火を噴いたのである。
アリゾナとネバダはほぼ中央部を破壊されて折れ曲がるように
空母レキシントンは中央部が吹き飛ばされた上で横転、これまた数秒もしないうちに波間に消えた。
これより小さな巡洋艦や駆逐艦は爆発後に艦影すら残っていなかった。
一瞬にしてW21任務部隊の主戦力が消えたのだった。
それよりもわずかに5分ほど遅れてW22任務部隊とW23任務部隊も同じ惨劇を見ることになった。
出撃した迎撃戦闘機は三つの任務部隊を合わせて90機ほどにもなるが、いずれも帰るべき母艦を失っていた。
各部隊の指揮官機から指示がなされ、三機の戦闘機を除いて、全機不時着水し、残った駆逐艦等に救助された。
指揮官クラスが搭乗した三機のF6Fは、ウェーク島に向けて侵攻したが、島陰がかろうじて見える位置まで接近したものの敢え無く撃墜されてしまった。
ウェーク島の現状を知らせる生存者はおらず、残存する攻略艦隊は、真珠湾に向けて撤退したのだった。
攻略艦隊で撃沈された艦は、空母6隻、戦艦6隻、巡洋艦6隻、駆逐艦18隻の合わせて36隻が海の藻屑と消えた。
生存者は極めて少なく、不時着水した戦闘機パイロット87名のほかは、戦艦及び空母などから僅かに百名を超える将兵が救助されただけであった。
死者及び行方不明者は、4万8千名を超えていた。
フィリピンとサイパン陥落でも多大の犠牲者と捕虜が生じたが、一度の海戦でこれほど大きな被害を受けたのは米軍でも初めてのことである。
この凶報はハワイの太平洋艦隊司令部を通じて直ちにワシントンまで報告された。
太平洋艦隊の主力36隻がわずかに1時間ほどの間に消え去ったのである。
真珠湾に残る兵力は空母2隻、戦艦2隻にさほど多くはない巡洋艦、駆逐艦群のみである。
ハワイの航空部隊は健在だが、小型空母を含めて空母10隻以上を擁する日本海軍に比べて如何にも弱小である。
如何なる兵器かは知らぬが、高々度から高速艦船を狙い撃ちし、一発で葬り去られるならば、太平洋艦隊はまともに動けなくなる。
動けば標的にしかならないのである。
迎撃に上がった要撃機は、いずれも敵攻撃機が飛行する高度まで上昇できず、迎撃に失敗していた。
驚くべきことに観測された日本軍の攻撃機は全部で36機だけであった。
つまりは攻撃機一機で空母と戦艦などの軍艦各一隻を沈めたことになり、敵攻撃機一機が戦闘艦に勝ることになるのである。
1万2千mもの高々度を飛行する航空機を艦砲で撃墜するのは不可能ではないのだが非常に難しい。
MK5高射砲で射程高度は何とか取れても命中精度は期待できない。
おそらくは百発撃って一発当たればいい方だろう。
その間に爆弾を落とされれば相手に何の損害も与えられない。
ワシントンの海軍省は大騒ぎになっていた。
太平洋側に大きな戦力不足が生じたからである。
この12月にエセックス級航空母艦の一番艦が就航し、その4か月後に二隻目の新空母が就航するものの、その間の防備が無くなるのである。
大西洋側からワスプとボーグ級空母2隻の計3隻を太平洋に回航するとともに、来年から竣工予定のインディペンデンス級空母を順次送り込む計画が急遽立てられた。
生憎と戦艦・巡洋艦群も数が不足しているのだが、大西洋側から何とか二隻若しくは三隻を送り込む算段をしなければならなかった。
これらのドタバタと相まって、太平洋艦隊司令長官の首のすげ替えが為された。
キンメル大将の後任はニミッツ大将であった。
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7月30日、修正済みと思っていたものが修正されていなかったところ、読者様からのご指摘により「4-9」との齟齬が判明しましたので一部修正しました。
悪しからずご了承ください。
By @Sakura-shougen
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