第20話 3-2 航空母艦の建造は?
「その雷爆兼用の攻撃機開発に要する時間は?」
「要求される性能にもよりますが、半年程度の時間を頂ければ、取り敢えずの開発は可能と存じます。」
「なんと、半年で・・・。
因みに、爆撃機として大量の爆弾を搭載できるものなら、どんなものが考えられますかな?
蒼電の場合は、実地検証により、フル装備で増槽タンクをつけた状態では、4000キロほど飛べると聞いておりますし、蒼電改では同じくフル装備の増槽タンクをつけてのフライトなれば2800キロの航続距離があるとか。
仮に4000キロを飛び、爆弾2トンを搭載できる高速の爆撃機は製造できますかな?」
ウーン、狙いは何処?
現下の情勢では中国ではなくって、対ソ連かそれとも対米か?
確か四菱で96中攻を作っていたはず。
うちのエンジンを狙ってのことかな?
四菱が造ったのは確か千馬力未満のエンジンだったはずだな。
大きさは違うけれど房二型エンジンは2400馬力あるから、エンジン換装だけで速力が5割は増す。
但し、燃料消費量は増えるから、航続距離は半分程度になるかも・・・。
いや、そもそも96中攻にしろ、十二試の一式陸攻にしろ、爆弾搭載量は1トン未満だよね。
2トンはその倍を狙ってのことか・・・。
1939年に米国が造ったB25程度の爆撃機ということになるのかな?
あれだとエンジンは確か42リットル前後なんだけれど、航続距離は2400キロ程度。
まぁ、過給機をつければ2400馬力は行けるだろうから、ルー101改と同程度の速力は出せるな。
機体の大きさも96中攻よりも少し大きくはなるけれど、・・・。
後は航続距離の問題か・・・。
「当該爆撃機の性能から見て、艦載機ではないと思いますが、単発の航空機では難しいと存じます。
しかしながら双発であれば製造は可能かと存じます。」
航空本部長がなおも食いついて来る。
「未だできてはいないものの話は難しいかもしれないが、どれぐらいの価格でできるものなのか教えてもらえますかな?」
「全長20m、全幅26m程度の双発機と仮定して、装備なしでおよそ7万円前後、装備込みで10万円前後になるでしょうか?」
「因みにもっと大きな爆撃機は可能でしょうかな?」
「どの程度のものをお考えでしょうか?」
「そうですなぁ。
例えば日本からハルビンまで往復できるような爆撃機ですと航続距離が5千キロ近くでしょうか・・・。
それに爆弾も50番を8個ほどは持って行きたい。」
「2400馬力以上のエンジンを四基搭載した大型機なら可能かもしれません。
その場合、全長は32m以上、全幅は47m以上になりますが、爆弾は4トンほど搭載できるでしょう。」
「今から開発に取り掛かってどれぐらいでできますかな?」
「最低でも1年はかかるとみていただいたほうがよろしいかと。」
「なるほど、それでも一年余りでできるということですか?
二年あれば間違いなくできましょうか?」
「二年あれば間違いなくできるものと存じます。」
「後、さらに面倒なことをお聞きしたい。
御社の定款では航空機に関わるものならば何でも製造できるようになっていると伺っています。
そうして金谷工場の橋野工場長さんのお話では、海軍から要望があれば航空母艦を造る造船所を新たに造る意図もあるやに人伝にお伺いしておりますが、これは事実でしょうか?」
「以前、内輪の飲み会の折に大言壮語したことを工場長が覚えていたようですね。
私がそう言ったかどうかではなくて、空母を実際に造れるかどうかというお尋ねかと存じますが、それでよろしいでしょうか?」
「その通りです。
航空機の分野で欧米先進国の技術を凌駕する性能の機体を造られたその技術力を私は高く評価しています。
同じように建艦能力もあるか否かを是非にお聞きしたいと思っております。」
「現時点において、造船所すらございませんので、確約はできませんが、必要とあれば造船所を造り、航空母艦を含む機動部隊を造ることは可能だと思います。」
「空母ではなく、機動部隊とはどういう意味でしょうか?」
「航空母艦1隻を中心に4隻の護衛軽巡、8隻の護衛潜水艦で構成する機動部隊です。」
航空本部長が重ねて聞いて来る。
「航空母艦と軽巡が一緒に行動するのは性能次第と思うが、ドンガメはいくらなんでも一緒には行動できないと思うのだが?」
「仮に造るとなれば、航空母艦は40ノット以上の最大速力を有するものを想定しています。
当然に護衛軽巡と潜水艦もそれに追随できる能力を持ったものを建艦します。」
そこに居並ぶ者が呆気にとられたが、恐らく艦政本部の技術将校であろう菅野中佐が口を挟んだ。
「潜水艦で40ノットは、如何に水上速力でも無理でしょう。
現状で潜水艦の最高速力は、海上航行で20ノットを下回る。」
「軍機に関わるご説明をありがとう存じます。
私から他言は致しません。
ですが、私が仮に潜水艦を造る場合、海上航行能力は精々18ノット程度になると存じますが、海中航行能力は40ノット以上となります。」
「馬鹿な。
そんな出力を出せる電池があるはずもない。」
「あ、潜水艦には普通の内燃機関を使う予定はございません。
潜航中に使えないエンジンは非効率です。
潜航中であっても使用できる特殊な機関を用いることになるでしょう。」
ここで艦政本部長が口を挟んだ。
「特殊な機関というのは、どんな機関なのか教えてくれるかな?」
「水素反応炉と言います。
単純に申しあげれば、水の中に含まれる酸素分子と水素分子を反応させるのです。
酸素と水素が反応しますと水が生成されますけれど、その際に発生する熱量は、エネルギーとして利用可能なわけです。
その熱エネルギーを運動エネルギーに変えることができれば、プロペラ軸を動かすことも、発電も可能です。」
「それを実現したと?」
「実験室では成功していますが、実機で検証するには色々と面倒な手続きがございまして手をこまねいています。」
「うん、どういうことかな?」
「船を建造するためには、
この手続きが非常に面倒でして、既存事業者との利害関係もあって簡単には許可が下りないのです。
同じく、船舶を所有するためにはいろいろな規則に乗っ取った手続きと設備が必要です。
少なくとも商売になるかどうかわからない状況では手を出せません。」
艦政本部長が言った。
「ン?
軍艦はそんな規制は無いんじゃないのか?」
艦政本部の菅野中佐が返答する。
「はい、軍艦若しくは軍に属する艦艇の場合は、種々の法的規制から外されています。
従って、新造艦も特段の規制なく建造できるわけです。」
艦政本部長が再度言った。
「フム、ならば、海軍のひも付きにすれば、御社でも建造できるわけだな?
菅野中佐、軍艦の建造には確か海軍省の認可造船所である必要があったな。
その場合の基準で特例は無いのか?
例えば、新規の技術を保有している会社に対しては、特許を与えて建艦を許すことができるとか・・・。」
「は、確か、規則に特例として、艦政本部長が特に認めた場合と言う規定がございます。
その場合は、海軍省で定める基準に寄らずして建造造船所を指定できます。」
「フム、ならば、簡単だ。
吉崎さん、あんたが造るであろう造船所に三年間の仮認定を与える。
その間に、海軍が認める軍艦を作り上げたなら、正式に認定をやろう。
新たな空母の建造を図面から造り始めた日には、流石に三年じゃ難しかろうが、既に実績のある図面などを利用するなら軽巡程度は三年あればできるのじゃないか?」
「造船所ができてからならば、二年以内に空母を含む一個機動部隊を作り上げることができます。
確か、ワシントン条約は既に効力を失っているはずでございますね?」
「オウ、よく知っておるなぁ。
昭和11年12月一杯で失効したから、現状では何の規制もなく軍艦は作り放題だ。
但し、帝国予算は左程にないから色々とケチらねばならんがな。
参考までに聞きたいんじゃが、どの程度の大きさの空母で、いくらでできる?」
「航空母艦は、空母赤城よりも全長で長く、横幅はかなり大きいものになります。
排水トン数で8万トンぐらいになるかもしれません。
航空機は概ね100機前後を搭載できるようになるでしょう。
引き渡し価格は武装を含めて二千万前後だろうと思います。
護衛型軽巡洋艦は、既存の川内型軽巡洋艦よりも少し大きめの7千トン前後になるでしょうが、新造の巡洋艦に比べれば二回りほど小さいものになります。
価格は装備込みでおそらく1隻当たり500万円ほどかと思います。
潜水艦はイ号潜水艦に比べると全長で短く、幅が広い形になり涙滴型の形状を持つことになるでしょう。
水中排水量は約4千トンほどになります。
こちらも価格は1隻当たり500万ぐらいになるとお考え下さい。」
誰かがボソッとつぶやいた。
「新型潜水艦の倍近くも排水量があるのに、40ノット以上の水中速力が出るだと・・・。」
「なるほど、一個機動艦隊は〆て八千万円前後になるということか・・・。
吉崎さんの考えでは空母一隻の護衛はそれで十分だと考えているわけだな?」
「はい、軽巡及び潜水艦には相応の武装が装備されますので、航空勢力と潜水艦については十分に排除可能と思います。
水上艦艇については、一応潜水艦と搭載航空機で対応可能です。
対応できない場合は、回避若しくは撤退すべきです。
逃げ足は非常に速いですから・・・。」
「ふむ、海軍を含めて軍人には敵を前にして逃げるという発想は結構難しいのだぞ。
それと、新型空母の大きさだが8万トンと言ったか?
もしかして、・・・・。
300mを超える大きさになるのか?」
「垂線間長は300mを超えますね。
そうして、飛行甲板の形状が赤城や加賀などと比べると随分異なります。
艦の最大幅が飛行甲板の最大幅になりますが、おそらく70mを超えることになります。搭載機の発艦は、原則的にカタパルトで行うことになります。
火薬式のカタパルトではなく、蒸気圧若しくはそれに代わる動力によるカタパルトです。
飛行甲板が特殊な形状をしていますので発艦をしながら同時に着艦も可能になります。
言葉ではわかりにくいでしょうから、後日、艦政本部長と航空本部長には別途イメージ図と大枠の要目表をお送りしましょう。
機密漏洩防止のために、当社の者が直接お渡しするようにいたします。
不在若しくは都合が悪い場合は出直しますので、代理受け取りはご遠慮下さるようお願いします。」
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