第14話 2-6 試作機の装備

ー 吉崎視点 ー

 1937年10月には、海軍航空本部の大尉が、私の仕掛けた頼りない誘いに乗って、金谷工場の見学に来た。

 その際には、工房の一部と「ルー101」、それに「ラー1」のみを見せてその他は隠しておいた。


 今の海軍を含めて軍人にはまだまだ必要の無い機体はできる限り見せない方が良いからだ。

 取り敢えず、支那事変及び日米戦争のとっかかりを戦い抜けるだけの機体の準備はほぼ完了している。


 それはともかく、吉崎航空機製作所の産み出す航空機の話に戻すと、後は如何に量産体制に持って行くかだが、・・・。

 既に海軍でのお披露目に使う予定の機体である「ルー101」については、日産5機程度の半自動量産化体制が整っている。


 そうしておそらくは海軍から申し入れがあるであろう艦載機用としての最適戦闘機は「ルー101」の劣化版で足りるはずである。

 本来であれば、ルー101でも十分に艦上戦闘機として使えるのだけれど、短期的にはパイロットが未熟なうちは四菱の試作機の方がより安全の筈だ。


 一応、予測されるのは離陸距離の問題と、着陸時の最小速度の筈であり、エンジンの過給気量と馬力を落とし、かつ、翼面積を増やすことで速度を落とし、更には燃料の搭載量を減らす等の重量軽減で離陸距離を縮めることが可能な筈だ。

 その為の半自動生産ラインも9割がた出来上がっているので、陸用、空母用いずれの要求にも応えられるようにはしているのだ。


 ルー101ならば、現状で地下の格納庫に50機が保管してあり、必要とあれば月産で150機を順次追加できることになるが、そんなに生産しても恐らくはパイロットの養成が間に合わないはずなのだ。

 海軍(場合により陸軍も)には、高速機に慣れてもらうために、単発練習用航空機「ラー1」を早急に導入することを強くお勧めすることとしよう。


 現状の赤とんぼは、初期の訓練には良いかもしれないが、赤とんぼでいくら訓練したにしても、高速機の操縦はできないし、危険過ぎる。

 その為に最低でも中速度(300~350ノット程度)で飛行できる練習機が是非とも必要だが、四菱や仲嶋製の練習機では正直なところ稼働率が悪く、更には操縦性能が悪すぎる。


 操縦性が高く、質の良い専用の複座型練習機が是非とも必要なのだ。

 因みに「ラー1」は最初から練習機として製造しているので中速から高速域までの速度調整が可能なのだ。


 従って、現状で海軍が保有している各練習機に加えて「ラー1」を加えれば、高速機対応の教練が十分可能になるはずである。

 将来的には、ジェット機対応の練習機も必要となるだろうが、それは少なくとも3年から4年ぐらいは先の話と考えている。


 高速練習機から別の話に跳ぶが、帝国海軍でも空母着艦の際にフックを引っ掛ける制動ワイヤー(アレスティング・ワイヤー)が昭和五年頃から導入され始めているはずだ。

 未だ制動力が少ない型式で、改善の余地がかなりある筈なのだが、我が社に航空母艦の発注若しくは何らかの意見要請が無い限りは、何も言わずに放置しておくつもりだ。


 ルー101の劣化版でも爆弾と燃料を満載すれば4トンを超える重量になってしまう。

 九六式艦戦が制動できるからと言って、ルー101改は簡単には制動できないだろうな。


 仮に、将来的に航空母艦の発注なんかがあったならば、千葉県の太平洋側にでも造船所を作ってトライしてみようとは思っている。

 その際にはアレスティング・ワイヤーもカタパルトも新型のモノを披露してやろうと思っているし、空母もアングルド・デッキを備えた大型艦を造ることになるだろうと思っている。


 ああ、そうそう、十二試艦戦の要求書にある20㎜機銃の搭載については現段階では全く不要だと思っている。

 航空機の搭載兵器は今のところ左程に力を入れているわけでは無いけれど、新型の12.7ミリ機銃と同じく新型の7.7ミリ機銃については、これまでの銃身と発射薬を改良したことにより、12.7ミリ機銃で発射速度が従来の4割増しの1,110m/sとなっているし、新型の7.7ミリ機銃でも初速が990m/sで、いずれも空気信管付マ弾が使用されているから破壊力は格段に増している。


 因みに新型12.7ミリ機銃の炸裂弾では、500m先の厚さ30ミリの鋼板を撃ち抜けるし、新型7.7ミリ機銃の炸裂弾でも500m先の15ミリ鋼板を撃ち抜く威力があるはずだ。

 しかも、炸薬量が7.7ミリで6.5g、12.7ミリで35gながら、これまでの通常弾に比べると数倍の破壊力を有しているから、7.7ミリ機銃による破壊では翼面若しくは機体に大きなまくれを生じさせ、12.7ミリの場合はエンジンであっても一撃で破壊し、防弾装備が施されている燃料タンクですら一撃で破壊する威力がある。


 私自身としては、大型爆撃機が出て来た時のために、マ弾よりもミサイルの採用の方が良いかどうかを現状では迷っているが、更なるミサイルを開発するにしても少なくとも二・三年数先の話だと思っている。

 迷っている原因はコストの問題なのである。


 間違いなくミサイルの方が百発百中で確実性はあるけれど、製造コストがやはり高くつくので、戦時と言えど費用対効果も種々考慮しなければならないのだ。

 また、正直なところ、当節の軍人さんは何かと過激な連中が多いから、余り強大な武器を与えたくないとも私は考えている。


 それに、ミサイルが無くとも、炸裂弾(マ弾)と高々度上昇能力の高い航空機があれば、当座の爆撃機対応は十分可能なはずなんだ。

 そんな中でわざわざ性能の悪いエリコンなんか搭載する必要性が無いし、私が作った新型の12.7㎜機銃と7.7㎜機銃で空気信管付のマ弾を使用すれば、将来出て来るであろうB29であっても確実に落とせる。


 海軍さんがそれでも文句を言うのであれば、試射して結果を見せれば良い。

 それでも納得しないとなれば、どうしようもないが・・・。


 陸軍自慢の最新戦車である97式中戦車であっても簡単に破壊できるんだが、それは余りに陸軍の兵器開発責任者が可哀想なので、せめて95式軽戦車あたりを標的にして破壊して見せれば、如何に新型機銃の性能が高いのかを認識するはずだ。

 正直に言って、エリコンでは到底破壊できない戦車を12.7㎜機銃が簡単に破壊してしまったなら、果たしてエリコン信奉者はどんな顔をするのか見てみたいものだと思う。


 そんなわけで、武装については取り敢えず新型の12.7㎜機銃と7.7㎜機銃で十分だと考えている。

 それよりも、そもそもウチで造る軍用機はいずれも防弾性能を非常に高くしている。


 至近距離から20ミリ機銃で撃たれたぐらいでは、殆ど傷もつかない機体と防弾ガラスでパイロットを守っているんだ。

 口径100ミリぐらいの高射砲をまともに食らえば、流石に破損するかもしれないが、パイロットの生存率を高めるためのあらゆる努力を講じているところではある。


 ウチの軍用機にはやわ


な超々ジュラルミンなんぞは使用していない。

 尤も、秘密がバれそうな輸出用の機体については、勿体無いのだけれど普通の超ジュラルミンを使う予定でもある。


 わざわざ新素材を外国の諜報組織や技術陣の目にさらす必要は無いからだ。

 その場合でも素材は輸入品を使う予定はない。


 素材は既にうちの会社の工場を作った際、或いは道路を造った際の岩石を大量に保管しており、その中から必要な素材を錬金術で抽出できるからだ。

 日本のような資源に乏しい国は、資源を無駄にしてはならないということもあるが、自前で入手できる素材を活用した方が後々のメンテナンスにも良いはずだ。


 ウチは、ナノカーボン繊維と窒化ケイ素の複合材料で生み出された「セラカーボン」を新型機の機体各部に使用している。

 「セラカーボン(比重1.3、強度6,839N/㎟)」は、超々ジュラルミンに比べて重量で二分の一と軽いにもかかわらず、強度は約12倍もある。


 単純に言うと、5ミリ厚の「セラカーボン」は、90ミリ厚の鋼板にも匹敵する強度を持っている。

 しかも本来の素材は、どこにでもある炭素(わが社では二酸化炭素から分離している)と窒素、それに土の中にたくさんあるケイ素だけである。


 セラカーボンを作るには、私が直接錬金術で造る場合を除いて、特殊な魔道具と魔石が必要なんだけれどね。

 特殊な魔道具は、既にウチの工場に10基設置してあり、熟練職工とともに随時稼働できる状態にある。


 この製造機は21世紀の3Dプリンターに似ているかもしれないな。

 炭素粉末、窒素、ケイ素粉末を常温で融合させ、事前に入力した形状に組み上げて行く装置なんだ。

従って、どんな形状でも簡単に作り上げることができる。


 長さ2m、幅1m、厚さ5ミリの曲板を作るのに要する時間は三次元図面の製作時間を除けば正味5分程度だから同じ部品の大量生産には最適な魔道具機械なんだ。

 しかもこいつは電力さえあれば24時間稼働できるし、精度も千分の一ミリまで調整が可能だ。


 こいつを増やすことはできるが、今のところその必要性は薄いだろうと考えている。

 そうして、こいつにはフル稼働の場合、中型魔石が年間一個は必要だ。


 セラカーボン自体は、将来的には実験室で生み出せる可能性はあるから、我が社の独占というわけには行かないかもしれないが、まぁ、最低でも今後30年程度は我が社の寡占状態が続くだろうと見込んでいるよ。

 一方、風防に使用されている防弾ガラス(実はガラスではなくって透明な性情を持つ特殊金属)も、間違いなく我が社でしか生み出せない代物だ。


 この防弾ガラスも僅かに7ミリ程度の厚さで、60ミリ厚の鋼材に匹敵する強度を持っている。

 この防弾ガラスは至近距離での37ミリ機関砲や、対戦車砲による射撃にも耐えられるから、コックピットの中は、陸軍さんの97式中戦車よりも余程安全なはずだ。


 その防弾ガラス生産のために必要な魔道具を作り上げてあるが、仮にその魔道具の構造を真似したとしても、肝心の魔石が無ければ機能しない魔道具である。

 おまけに理屈抜きの錬金術で造る代物だから、現代科学でも複製や生産はおそらく無理だろうと思っている。


 工場内に設置した防弾ガラス製造用の魔道具は全部で10基、それに必要な魔石は24時間フル稼働状態で年間二つの小魔石を必要とするが、私の異空間収納庫にはその小魔石が千個ほど、中型魔石も500個以上あるから、当分枯渇する心配は無い筈だ。

 魔石が枯渇した場合は、空になった魔石に私が魔力を込めてやれば再生する。


 ちょっと時間はかかるけれど、そうなったら、必要に応じてやるしかないだろうなぁ。

 今後、準備が必要なものとしては、むしろ加工用具としての携帯型溶接機若しくは接着材が整備に必要になるかもしれないと思っている。


 どんな機械でもメンテナンスは必要であり、海軍にどれだけ優秀な整備士が養成できるかが問題だ。

 単純に言って航空機は消耗品の塊だ。


 壊れなくても部品はいずれ消耗し、交換が必要になる。

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