サーカスと化す。
噂のはちみつ
第1話 開場
サーカスに行ってみたい。
あわよくば、サーカス団に入ってパフォーマンスがしたい。
それが、僕の夢だった。
ある日、こんなことをぼやいた。
「ママー、僕ね、サーカス団になりたい!」
「…良いんじゃない?」
「だからさ、僕、サーカス見てみたい!」
僕がサーカスを知ったのは街の至る所に貼ってあったポスターだった。「団員募集!年齢・性別問わず誰でも!」と書かれたそのポスターには、パフォーマンスをしているサーカス団員が映っていた。
「あのポスターのやつ?」
「そう!」
「…分かった。じゃぁ今度の日曜日に行こうね。」
そう言って連れてもらったその場所には、封筒が置いてあるだけだった。
「1家族1セットまで。お子さんに預けてください…だって。」
「えー…サーカスは?」
「しょうがないじゃない。お母さん知らないわよ。」
期待はずれすぎた結果に萎えながら、帰りの車でその封筒を開けてみる。封筒の中はメッセージが書いてある紙が1枚。
−20年後、同じ場所で。これは誰にも教えちゃいけないよ。待ってるね。−
20年?長すぎる。でも20年待てばサーカスが見れるなら…
「なんて書いてあったの?」
僕にいきなり問いかけたその言葉は、なぜか急に重みがかかったように感じた。
「え…な、何にも書いてなかったよ…」
「そんなこと…あらほんと。」
僕は今だけルールに忠実になった。ママには裏面の真っ白な面を見せておいた。
「サーカスは今度にしましょう。」
「うん…」
あれから、ちょうど20年が経とうとしていた。もう25歳か。スーツ姿の自分がちょっとカッコ良く見えた反面、まだサーカスの話が脳裏にあってやるせない気
持ちもあった。
「お母さん?19日さ、例の封筒の所行ってくるね。」
「封筒?何それ。私分からないけど…まぁ、いいわ。気をつけるのよ。」
「分かった。」
僕は、あの時の自分みたいに気分が高揚していた。
そして、今日。あの封筒を開いてちょうど20年の6月19日。僕は約束の地へと母の車で向かった。
「着いた…って、これは…?」
運転席側の窓に広がっていたのは、巨大なドームだった。20年もあれば、これだけ壮大なものが作れるのか。
入場口前に車を停めて、まっすぐ歩いていく。やけに眩しい照明を横目に。
だんだん近づいていく入場口には、ピエロのような何かが待っていたのが分かった。どうやらこいつも僕に気付いたようで、やる気のなさそうな姿勢からポージングをとっている。
キラキラしてるやけに長い道を歩いた。けど、念願のサーカスが見れるならと思うと、意外にも疲れは少なかった。前にも何度かサーカスには連れて行ってもらったことはあったが、なぜだろうか。ここのサーカスを想像すると、他とは何かが違うような気がしていた。
「ようこそ、おいでくださいました。」
まるでセリフのようにそう言って出迎えたピエロは、ここまで近づいてやっとピエロだと認識できるぐらい赤く染まっていて分かりずらかった。
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