本文第七話
訳のわからぬ暗号文を解かされて約一週間、私は安寧の日々を過ごしている。暑いけどな。しかしながら、その安寧の日々も終わりらしい。
『こんにちは!開駿先輩!四日ほど私に時間をいただけませんか?』
先日の一件以来、贄暈さんと連絡先を交換した。いや、されてしまったというべきだろう。別に不快ではない。彼女は頻繁にメッセージを送ってくるような人間ではないし、今のところ、良い関係を築いていると思っている。思っているが…まぁ、この不穏な文面、その関係が崩れそうだ。それにしても四日…。ホテルかなんかで開催されるリアル脱出ゲーム旅行でもする気か?
『用件は何でしょう?』
『実はですね、また暗号を解いていただきたいのです!』
四日もかかる暗号なのだろうか?本当に暗号解読ツアーでも行く気だろうか?正直、承諾する理由はないし、断っても文句は言われないだろう。だが、大学生の夏休みというのは暇なもので、少々退屈していたのもまた事実。
『…まぁ分かりました。詳細を教えてください』
このような感じで、私はあまり深くは考えずにこの依頼を受けてしまった。
『話すの面倒なんで、通話してもよろしいですか?』
『はい、構いませんよ。』
それだけ、大規模なイベントなのか、それとも複雑な事情なのか…。
「…もしもし、先輩聞こえてますか?」
「はい、大丈夫です。それで、詳細について…」
「わー!なんか不思議な感じですね!先輩と通話してお喋りなんて!」
「無視かい」
「さて本題ですが」
…この子、マイペースなのか、自分勝手なのか、よくわからない人間だな…疲れる…。
「現在、私の家では後継者選定が行われていまして…」
「はいストップストップストップストップ、なんですか、その後継者選定とかいう小説の中でしか出てこないような単語は?」
「あー、えーっと…贄暈という苗字で察してると思いますが、私は贄暈グループの娘でして…」
だろうな、という感想。「贄暈」なんて、多く使われている苗字じゃない。彼女が贄暈グループの関係者、御息女であることは予想していた。最も、贄暈グループが一体何をしているのかはよく分からないが、割と大きな企業集団だったはずだ。つまり、彼女はお嬢様ってことか…ほんまか?
「贄暈重工業の社長であり、グループの会長である私の父が、早期に後継者を選定、育成したいとのことで…」
「それはまた…」
私のような人間には想像できない世界だなぁ。
「しかし、その後継者選定と暗号がどう関係するんです?」
「それが…近々別荘で行われる暗号解読ゲームで、その後継者を決めるんです」
「うっ…」
「嘘だろ」と言いたくなったが、格式高いお家の常識など、私は知らない。故に、何も言えなかった。とはいえ大切な後継者をそんなんで決めるのはどうなん?
「…ん?それって贄暈家内の事情ですよね?私のような部外者が関わっても良いのですか?」
「はい!それは大丈夫です!協力者の有無は自由ですので」
ふむ。まぁ、そのような人材を確保できるかどうかも、評価の対象ということだろう。
「わかりました。でしたら、参加させていただきます」
「ありがとうございます!」
「まぁ、この前のようなお遊びのような暗号とは比べ物にならないほど難易度が高い場合、私でも解けるかどうか…」
「あ、この前の暗号は、今回の暗号解読ゲームに参加できるかどうかの、所謂試験のような物でした。ですので自信を持ってください♪」
…この子……策士だな。
え、暗号解いたらそこまで行かなきゃいけないんですか!? テラ・スタディ @Teratyan
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