大文字伝子が行く53改

活動家教師

　＝＝＝＝＝＝＝＝　この物語はあくまでもフィクションです　＝＝＝＝＝＝＝＝＝

　==============　主な登場人物　================

　大文字伝子・・・主人公。翻訳家。EITOアンバサダー。

　大文字学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。

　愛宕（白藤）みちる・・・愛宕の妻。巡査部長。

　物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。モールで喫茶店を経営している。

　久保田（渡辺）あつこ警視・・・みちるの警察学校の同期。みちるより4つ年上。警部から昇格。

　橘なぎさ二佐・・・陸自隊員。叔父は副総監と小学校同級生。

　渡辺副総監・・・警視庁副総監。

　金森和子空曹長・・・空自からのEITO出向。

　増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。

　青山警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。

　大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。

　田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。

　馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。

　右門一尉・・・空自からのEITO出向。

　鈴木校長・・・民間登用の小学校校長。南原と文子をお見合いさせた。

　南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。高校の国語教師。

　南原蘭・・・南原の妹。美容室に勤務している。

　大田原文子・・・南原の婚約者。

　南原京子・・・南原の母。

　服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。

　みゆき出版社山村・・・伝子と高遠の原稿を担当している。

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　池上病院。南原の病室。

「いらっしゃい、皆さん。南出病院で歌を歌ったんだって？」

「すみません。それで転院を急がせることになってしまって。」と高遠が池上院長に言った。

「いいのよ。あのジジイは頭が堅いのよ。南原君を慰めようとしての行為だもの。微笑ましくはあっても、迷惑行為と決めつける問題じゃない。歌を歌ってもいいけど、ドアは閉めてね。それと、食事時間、消灯時間はダメよ。今朝、早速、血液検査、尿検査、内視鏡検査をしたわ。大丈夫よ、高遠君。外傷以外は健康よ。妹さんの方は明後日退院させます。暫くは通院ね。お母さんがね、『もうお嫁さんが出来て私の出番がないわ』なんて言ってたけど、バトルが始まるわよ。」と、池上院長は笑った。

　池田院長のジョークに、「嫁姑のバトルですか。退院次第式を挙げた方がいい、って2人を見合いさせた鈴木先生が言ってましたね。」と伝子は軽く受け流した返答をした。

「じゃ、私はこれで。早速お見えになったみたいね。あ、お母さん、大田原さん、でしたね。検査の結果は大文字さんと高遠君に言ってありますから。」そう言って、池田院長は出て行った。

　2人が首を傾げて入って来ると、高遠が「内臓は大丈夫らしいですよ。蘭ちゃんは明後日、退院だそうです。」と言った。

「いつもご厄介かけてごめんなさい。」と、南原の母、京子は頭を下げた。

「大文字さん、高遠さん、お母様と二人、交代で龍之介さんの面倒をみます。あ、それで犯人は？」

「警察から話があったと思いますが、今回の事故は、南原のかつての同僚の女性教師、福部京子が、林業の知り合いと組んで起こしたものでした。福部が南原の車がサービスエリアを出発すると、仲間に連絡して、竹林から仲間が双眼鏡で見ながら鏡で光を送っていたんです。角度は大体だから、車を追って、何度も送りました。2台前の車を狙った訳ではなく、偶然だったんです。南原の車は、最近また流行り出したツートーンカラーでした。EITOの協力で、わざと救急車に似せた車を横転させ、福部を待ち伏せしました。福部は、組合に入れば非常勤でなく正式採用になれる、と強引に誘いましたが、南原は断りました。南原は教鞭を放り出して活動するのは嫌だったんです。」と、伝子は長い説明を終えた。

　伝子のマンション。

「ところで、金森さんはスタントマンの経験があったんですか？」と依田が金森に尋ねた。「いいえ。空自でアクロバット飛行の訓練はしましたが。リモコンで空気圧を下げるアイディアは私が出したので、自ら挑戦しました。うまく横転出来て良かったです。」

「金森は、なぎさに継いで、運動神経がいいから、私からも理事官に言ったんだ。」と、伝子が説明を続けた。

　チャイムが鳴った。服部が立っていた。「すみません、先輩。俺が調子こいて南原さんを転院させてしまって。」と頭を下げる服部に、「謝ることはない、服部。」

「転院は予定されていたんだ。僕が池上先生に頼んだから。数日前倒しになっただけ。気にしないで。」と、伝子と高遠は慰めた。

　EITO用のPCが起動した。理事官の隣にいるのは、前田空将だった。

「ごきげんよう、諸君。先に、昇格のお知らせだ。空将、どうぞ。」

「金森一曹。君は今日から曹長だ。今回の横転に見せかけた運転は見事だった。授与式は、改めて行うが、まずは一報。よくやった。おめでとう。」前田空将と理事官はニコニコしていた。

　画面のこちら側では、拍手が巻き起こった。「さて、ここからが本題だ。まだ、情報が少ないから、対処出来る事は少ないが、新宿駅襲撃を仮定すると、JR新宿駅に1本化するしかない。他の情報があれば別だが。そこで、JR側、警察、EITOの警備計画が進行中だ。大手警備会社3社も協力体制を取る。それから、例え1議員でも、当面は新宿駅に近づかない、通過しないことを徹底するように政府に打診した。ま。簡単にルール違反するような奴はスパイか『死の商人』と関わっていると判断出来るがね。それと、紛れ込み難いように、新宿駅周辺の道路工事、ビル工事は一時中止、他の工事も極力延期するように手配した。以上だ。また、連絡する。」画面は消えた。

「漠然としすぎだよ、新宿駅が危ない、だけじゃあ。」と福本が言った。

「まあ、果報は寝て待て、って言うからね。」と高遠が茶化した。

「新宿駅って分かっているだけ、ましさ。『新宿』だったら、範囲はかなり広い。」と物部は言った。「『東京』だったら、もっと広いわね。」と栞も同調した。

「やっぱりJRじゃないかな。私鉄入れなければ範囲は絞れる。」と福本が言った。

「根拠はあるのか？福本。」と依田が突っ込むと、「ない。希望的観測。」と即座に福本は降参した。

「そうだ、イベントは？この間の3カ所攻撃みたいに絞れるんじゃあ。」と山城が言ったが、「日時が分からなければ、やはり絞れないな。」と、伝子が応えた。

「人、かな？いつかみたいに外国から偉いさんが来て、新宿駅に立ち寄るか通過するかするとかさ。」高遠が言った言葉に、「今の所、そういう情報はないそうだ。」と、伝子が応えた。

　1時間後。EITO用のPCの画面が現れ、理事官が伝子に語りかけた。

「大文字君。『イーグルの死の商人』のパープル・ケンから郵便が来た。通常の郵便ではない。どうやら新宿駅襲撃のヒントのようだ。」「本当に奴から来たものですか？」「うむ。指紋は見つからない。筆跡鑑定では一致している。」「電子ファイルにして送って貰えませんか？」「了解した。画面は消えた。

　数分後、高遠のPCにメールが届き、添付ファイルは、郵便の写真だった。

　2時間後。伝子は高遠と検討し、集まった皆の意見を聞き、EITO用のPCを起動した。

「理事官。ケンは組織に捕まっていますね。だが、ヒントはくれた。『暫くぶりだな、大文字。他の死の商人もことごとく倒したそうだな。大きな場所で暴れるらしいぞ、気を付けろ。晴れの日に、お前に会いに行きたいぜ。』まず、他の死の商人の情報はどこから手に入れたのか？という疑問がある。そして、ここには、組長が言っていた新宿駅は出てこない。私に会いに行きたい、とは、会いに行けない事情がある、と判断出来る。新宿駅から出発する路線で、私に関連しそうな名前の駅がある。大江戸線の『大門』という駅です。私に会いに行きたい、とは、『大門に向かえ』という暗喩だと思います。この駅は、芝公園に近く、そして、東京タワーに近いです。危ないのは新宿駅じゃない、東京タワーです。」と伝子は理事官に進言した。

「分かった。作戦を練ろう。しかし、日時は？」「昨日今日は曇りでした。明日は快晴の予報です。最短の決行日は明日です。」「すぐオスプレイを送る。EITOに来たまえ。」

「みんな、聞いての通りだ。さっき皆と話した推理が採用された。また、皆に助けて貰えそうなら連絡する。今日は、解散だ。学。準備だ。」

　伝子は、寝室に着替えに戻った。高遠は、台所のバルコニーを開け、伝子の緊急出動に備えた。伝子は手早く準備したリュックに手を通し、降りて来たオスプレイの縄梯子を掴んだ。あっという間に、伝子は空に消えた。

　DDのメンバーは、バルコニーを閉めた高遠に声をかけ、玄関から帰っていった。

　EITOベースゼロ。会議室。

「理事官。おねえさまの推理によると、決行は晴れていることが必須だということでしょうか？」と、なぎさが質問した。

「金森空曹長。君の意見は？」「晴れた日が必須ということは、飛行条件という風に考えられます。」

「その通りだ。町中で戦闘機を展開するか、ドローン攻撃をするかは分からないが、準備が必要だ。早急にな。知っての通り、先日、仙石諸島の先、『大安国』に那珂国に、挑発のドローンが複数飛んだ。一部、沖縄の近くにも飛んできた。ドローンを利用した攻撃は前例がないが、油断は出来ない。」と、前田空将が言った。

「こちらも、その場合はドローンで迎撃だ。勿論だ、その為のドローン飛行大会だった。実弾は搭載しないが、妨害電波を発信することは出来る。長波ホイッスルの応用だ。」渡辺副総監が発言した。

「東京タワーは電波塔でもあったが、今はその役目を終え、観光客の為のタワーだ。何らかの故障が、例えばエレベーターの故障が発生したという理由で、観光客を遠ざける。一般の通報は行わない。予約客に連絡しても危険だから、報せない。当日やって来た観光客は直ちに避難させる。」と、久保田管理官が言った。

「こちらも、遠くない位置に待機させる。」と、仁礼空将が言った。

「全員、覚悟せよ。あ、これは斉藤理事官の台詞かな？」と橘陸将が言った。

「あ。いえ。大文字アンバサダー。君の推理と勘を信じる。明日の準備がない者は早めに休んでくれ。」

　翌日。午前9時。東京タワー前。

　10時の開館前に早めに来た観光客が戸惑っている。東京タワーの社員らしき男が警備員と共に場外整理している。「済みません。エレベーターが故障しておりまして。またお越し頂けるようでしたら、こちらにご記入頂ければ、予約整理チケットを送らせて頂きます。無料チケットです。」と、男は言った。

　観光客は諦めて帰る者、チケット欲しさに記帳する者、様々だった。

　同じ頃、JR新宿駅。

　ホームで爆発物が発見されて、大騒ぎになった。駅長室で待機していた爆発物処理班が出動した。時限装置はなく、リモコンで爆発するタイプだった。

　京王線新宿駅。

　ホームで爆発物が見つかった。こちらはダイナマイトが箱に入っただけのものだったが、鉄道捜査官が警察本部に連絡してきた。

　同じ頃、小田急線新宿駅。爆発物を見付けた警備会社の警備員が警察本部に連絡してきた。

　また、同じ頃、西部新宿駅。

　警邏中の警察官が爆発物らしきものを見付けて、警察本部に連絡してきた。

　午前9時半。芝公園。

　いくつもの気球が降りて来た。数機の零戦風の戦闘機が気球に、こしょう弾を投げ込んだ。それぞれの気球の操縦士は、緊急着陸をした。久保田警部補率いるチームが降りて来た者を次々に逮捕して行った。

　同時刻。もみじ谷。東京タワーに抜かっていく、黒覆面の一団があった。

「散歩にしちゃあ、変な格好だし、物騒なもの持っているな。」と、ワンダーウーマンは言った。

　グループのリーダーらしき男が言った。「おねえさんこそ、ワンダーウーマンの格好でアイマスクまでして、ハロウィンはまだ早いぜ。」男はいきなり銃を撃った。

　ワンダーウーマンは、一気に10人に増えた。「くそっ！！やっちまえ！！」

　午前10時。仙石諸島。海自の船が、那珂国の魚船が実効支配しようと上陸しようとしたので、こしょう弾を連射した。漁船は逃げていった。

　同じく午前10時。

　東京湾に、アメリカ海軍の潜水艦と自衛隊の潜水艦が浮上した。

　午前11時。もみじ谷。ジープが到着した。やはり黒覆面の男達だった。

　ワンダーウーマン達は、こしょう弾を投げながら、ある者はトンファー、ある者は三節痕、ある者はヌンチャク、ある者は竹刀、ある者は柔道や格闘技で応戦していた。

　もみじ谷から近いコンビニ。双眼鏡でコンビニの中から、もみじ谷の方の様子を観察している女がいた。照明弾が空に上がった。それを見た女は慌ててコンビニを出て、車を走らせた。駐車場を出て行く、その車の後を追う車があった。

　高速道路に入り、ジャンクションに、女の車は止まった。女は車から降りた。

　付けてきた車から福本と伝子が降りて来た。「君に『交通安全教室』は任せられないな。」と、福本が言うと、伝子が言葉を紡いだ。

「お前が『新しい死の商人』だったのか。敵地に乗り込むとは、大胆不敵だな。音無英子さん。

「どうして？」「どうして？伊東親分に聞いた時に、新宿駅という指摘が中途半端な気がしていた。親分も利用されたようだな。照明弾は白旗の積もりか。お前の部下から合図を受けて、堂々と逃げ出した訳だ。」

「祥子の推薦ではあったが、妙に理屈っぽいから、問いただしてみた。そうしたら、あんたから寄って来て、自分は変わったんだとアピールしたという。芝居の腕を見てから、と思っていたが、もうたっぷりと見せて貰ったよ、死の商人さん。下手くそな演技をね。」

　拳銃を取り出そうとした音無より早く、伝子は近寄って一本背負いを音無にかけた。

　パトカーが音を消して近寄って来た。パトカーから、愛宕が青山警部補と降りた。

「こいつが、南原さんに重傷を負わせたんですね。」「これを。」

　青山警部補から渡された手錠を、愛宕は力強くかけた。

「お話は、たっぷりとお聞きしますよ。」と、青山は言い、伝子に一礼して愛宕とパトカーに乗って去って行った。

　正午。もみじ谷。ワンダーウーマン軍団が倒した黒覆面の男達は、、応援に来た中津警部補と警官隊が逮捕連行した。

　少し離れた場所に、オスプレイ2機が到着し、なぎさが率いるワンダーウーマン軍団は引き上げた。

　東京タワー。

　終了の知らせを受けた筒井は、警備員に、「解除されました。社員さんに報せてタワーを運行して下さい。」と告げ、歩いて、いずこかへと去った。

　翌日。午後1時。

　午前11時から始まった、依田夫妻、物部夫妻の挙式並びに披露宴は、つつがなく終わった。

　2組の新婚が表に出た時、恒例の『ブーケトス』。慶子が投げたブーケを受け取ったのは、金森だった。栞が投げたブーケを受け取ったのは、何故か編集長山村だった。

　蘭が、目を三角にして怒っている。

「大丈夫。私の時は、蘭ちゃんに投げてあげるよ。コントロールいいんだぜ。」というなぎさに、「一佐はいつ結婚するの？」と蘭が尋ねると、なぎさは「いつか。」と笑って応えた。

　二組の新婚を乗せた2台の車は出発した。後部バンパーから結わえた、かんからを鳴らしながら。

「あれ、誰のアイディア？」と、蘭が祥子に尋ねた。「副部長。」「やっぱし。いつの時代よ。」「まあ、いいじゃないか。」と二人の会話に伝子が割って入った。

「うちもやろうかな？」という伝子に「恥ずかしいから、ダメ。」と高遠が言った。

　―完―