悪辣聖女見習いと行く、リリンサの冒険!!

青色の鮫

第1話「盗賊の出る峠」

「ん、これはどう?ワルトナ」

「お?純銀製のベルトだね。魔法陣もあるし、間違いなく魔道具だ。お宝だよ、リリン!」


「……よし、貰っておく」

「そうそう、とりあえず根こそぎ頂こう。あ、この腕輪も価値あるものだね。いやー大漁大漁!」



 ここは殺風景な岩石地帯。

 ただ道があるだけの、特に記すべき事の無い、普通の岩山の中腹に位置する場所。


 そんな場所で、可愛らしい声を弾ませている少女が二人がいた。


 一人は、鈴の音のような声をもつ、青い髪の少女。

 背丈は150cmに満たず、着ている魔導服も少しだけ大きい。

 そして、整った顔立ちはまさに美少女と呼ばれるそれで有りながらも、平均的な表情をしている為か、何処か近寄りがたい。

『精密緻密に作られた天使像を、そのまま人間にしたようだ』と、彼女『リリンサ・リンサベル』と出会った人は、揃えて口にする。


 もう一人は、どこまでも楽しげな声色の、白い髪の少女。

 だが、その言葉の端を注意深く観察すれば、その実、彼女がいつも冷静沈着だという事が見て取れた。

 背丈もリリンサと同程度の彼女は、真っ黒な魔導服に合わせて作られた貴族の恰好に近いストールや帽子も着用している。


 そして、当然のように美少女だ。

 しかし、浮かべている表情は美少女とはかけ離れたものだった。

『熟練の悪徳商人が大儲けをした時に浮かべる表情を、少女っぽく加工した悪魔人形のようだ』と、彼女『ワルトナ・バレンシア』と出会った人は、口を揃えて絶句する。


 彼女達はまさに天使と悪魔。

 表と裏であり、二人で一つのワンセット。

 今も二人仲良く、戦利品の徴収に励んでいる。



「期待していなかったけど、案外、良いもの持ってるもんだねー」

「うん。あ、これ価値がありそう」


「おお!グラデーションダイヤだね!この大きさだと、2億エドロくらいかな」

「よし。貰っておく!」



「あの……。」



 そしてこの場には、もう一人少女が居た。


 楽しげに笑いあう少女から、物理的にも精神的にも一歩引いた位置に立つ少女の名前は『ローズハーヴ』。

 彼女はそれこそ、こんな岩石地帯にふさわしく無い恰好をしている。


 ヒラヒラと可愛らしい装飾が施された丈の長いドレスは、体をきつく締め上げて美しさを引き立てているものの、運動をする事を一切考慮していない。

 当然と言わんばかりにあつらえられた靴も、踵の高いハイヒールだ。

 そんな恰好で山を登らされた彼女の姿はみすぼらしく泥で汚れ、魔導師のローブを着こみながらも清潔さを保っているリリンサ達とは対照的だった。



「あの……。」


 そしてこの、か細い呼びかけはローズハーヴから放たれているものだ。

 意を決して、お宝を漁る少女たちに語り掛けたローズハーヴの表情はまさに、『困惑』と『混乱』と『安堵』を極めた複雑なもので、何度目かの問いかけでようやくリリンサが気が付いて返事をした。



「……ん。どうしたの?」

「おや、正気になったのかい?」

「あの、た、助けて頂いておいて、こんな事を申し上げるのは、ど、どうかとも思うのですが……」


「いい。私達が好きでやったこと。気にする事は無い」

「そうそう。僕らにも利益がある事だしね。遠慮することは無いよ」

「そうですか……でしたらその、えっと……。今は何を、なされているのです?」


「「追い剥ぎ」」

「……ですよね!?そうとしか見えませんもの!?」



 確かに、この場には三人の少女が居る。

 だが、それ以外にも人物は存在しているのだ。


 今も微動だにせず横たわる、小汚い野郎の群れ。

 その格好は酷く汚れており、一目で健全な人物ではないと分かるほどだった。


 そんな人物に、可愛らしい少女が群がっている。

 それはまるで生を失った死体に群がるカラスのようで。


 ローズハーヴにとってこの光景こそが、今日一番の衝撃的な出来事。

 ついさっき絶望の中で何度も想像した自分の未来とは、まるで逆の光景だったのだから。



 時は、1時間前に遡る。

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