アヤナッチの美術能力
アヤナッチの能力は、描いた絵の通りになる能力。
どういう能力かと言うと、例えば、画用紙に、街並の絵を描いたとする。そうすると、翌日、描いた通りの街並になっている。
そういう能力だ。
ただ、カエッチは、アヤナッチの能力をまだちょっと制限することにした。
アヤナッチの描いた絵に、カエッチの赤丸を加えて初めて、効果の出るようにした。
だから、いくらアヤナッチの好きに絵を描いたとしても、カエッチの赤丸をもらわないことには、何の効力も起きない。
☆
アヤナッチは、女子大の美術専攻の仲間といっしょに、風景画を描くために、野外授業に出掛けて行った。
女子大から、みんなで船着き場に行き、そこからクルーズ船に乗り込んだ。
最初に乗って来たようなクルーズ船だった。
クルーズ船は海に潜りはじめた。
しばらく、ずーっと潜り続けている。
そして、そのあと、こんどは上に向かって昇りはじめた。
お魚さんたちも、手をふってくれている。
やがて、船はザブーンッと海面に出て、海の上をスーッて進んでいる。
向こうのほうに陸も見えている。
なんとなく景色を見ていたら
「あれ?もしかして、ここニースなんかな?」
って思って、友達に聞いてみた。
「いや、ちがうと思うよ」
って言っている。
「ほんなら、カンヌ?それともモナコ?」
って聞いた。
「え?そんなとこやないと思うよ」
と答えてる。
「えーっ?そうなのかー。ほな、どこなん?ここは」
「さあ、知らんわ」
って、みんな言ってる。
美術の先生に聞いてみても
「ここで、風景画を描きましょう」
としか答えてくれない。
みんな、スケッチブックを広げて、それぞれ風景画を描きはじめたから、アヤナッチも、自分のスケッチブックに、今、見えてる風景を描くことにした。
何枚か、みんなといっしょに、ここのきれいな風景を描いていた。
やがて、先生は
「ほな、みんな、だいぶ描けたみたいやから、そろそろ戻りましょうかね」
って言っている。
アヤナッチは、自分の描いた風景画の右下に「AYANA」って黒の絵の具でサインしておいた。
クルーズ船も、またスーッて海の上を進みはじめた。
「先生も、ここのこと、よく知らないんだけど、たまに、なんか不思議な場所に出ることあるんですよね」
って美術の先生も、帰り際に不思議そうに言っている。
友達に、物を移動させる能力を持つ女の子いる。
アヤナッチは、その子に
「うちの描いた絵を、あそこに見える、たぶんホテルのようなところに届けてほしいんやけど...」
って、頼んでみた。
「いいよっ」
って言ってくれたから、アヤナッチは、今ここのクルーズ船の上で描いた、向こう側に見える風景画数枚を、その女の子に渡した。
女の子は、風景画を受け取ると
「えいっ!」
って言って、ホテルに向かって、ビューンッと投げつけた。
風景画は、ピューッと、ぜんぶ、向こうに建ってるホテルのほうに飛んで行った...
アヤナッチは、自分の描いた風景画の飛んで行くのを見送って、船の客室に戻った。
それから、みんなといっしょに、また街の船着き場へと帰って行った。
船着き場にはカエッチ王子、待っていてくれたから、手をつないで、お城へとフューンッと一瞬で戻って行った。
「なんか、不思議そうな場所に行ってたんだよ」
ってカエッチに言ってみた。
「へぇー、不思議そうな場所?」
ってカエッチは、ちょっと笑って答えている。
「うん。今、みんなと風景画を描いてきた」
「そっかあ」
今は、カエッチ王子に嫁入りしてるんだし、だから、カエッチ王子を助けたり支えたりしなきゃだし、かえっちは今いないんだし、池野文奈でなく、アヤナッチ・イケーノなんだから、アヤナッチとして生きていくでーっ!って思っている。
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