アヤナッチの美術能力

アヤナッチの能力は、描いた絵の通りになる能力。

どういう能力かと言うと、例えば、画用紙に、街並の絵を描いたとする。そうすると、翌日、描いた通りの街並になっている。

そういう能力だ。


ただ、カエッチは、アヤナッチの能力をまだちょっと制限することにした。

アヤナッチの描いた絵に、カエッチの赤丸を加えて初めて、効果の出るようにした。

だから、いくらアヤナッチの好きに絵を描いたとしても、カエッチの赤丸をもらわないことには、何の効力も起きない。



アヤナッチは、女子大の美術専攻の仲間といっしょに、風景画を描くために、野外授業に出掛けて行った。


女子大から、みんなで船着き場に行き、そこからクルーズ船に乗り込んだ。

最初に乗って来たようなクルーズ船だった。


クルーズ船は海に潜りはじめた。

しばらく、ずーっと潜り続けている。

そして、そのあと、こんどは上に向かって昇りはじめた。


お魚さんたちも、手をふってくれている。


やがて、船はザブーンッと海面に出て、海の上をスーッて進んでいる。


向こうのほうに陸も見えている。


なんとなく景色を見ていたら

「あれ?もしかして、ここニースなんかな?」

って思って、友達に聞いてみた。


「いや、ちがうと思うよ」

って言っている。


「ほんなら、カンヌ?それともモナコ?」

って聞いた。

「え?そんなとこやないと思うよ」

と答えてる。


「えーっ?そうなのかー。ほな、どこなん?ここは」

「さあ、知らんわ」

って、みんな言ってる。


美術の先生に聞いてみても

「ここで、風景画を描きましょう」

としか答えてくれない。


みんな、スケッチブックを広げて、それぞれ風景画を描きはじめたから、アヤナッチも、自分のスケッチブックに、今、見えてる風景を描くことにした。


何枚か、みんなといっしょに、ここのきれいな風景を描いていた。


やがて、先生は

「ほな、みんな、だいぶ描けたみたいやから、そろそろ戻りましょうかね」

って言っている。


アヤナッチは、自分の描いた風景画の右下に「AYANA」って黒の絵の具でサインしておいた。


クルーズ船も、またスーッて海の上を進みはじめた。

「先生も、ここのこと、よく知らないんだけど、たまに、なんか不思議な場所に出ることあるんですよね」

って美術の先生も、帰り際に不思議そうに言っている。


友達に、物を移動させる能力を持つ女の子いる。

アヤナッチは、その子に

「うちの描いた絵を、あそこに見える、たぶんホテルのようなところに届けてほしいんやけど...」

って、頼んでみた。

「いいよっ」

って言ってくれたから、アヤナッチは、今ここのクルーズ船の上で描いた、向こう側に見える風景画数枚を、その女の子に渡した。

女の子は、風景画を受け取ると

「えいっ!」

って言って、ホテルに向かって、ビューンッと投げつけた。

風景画は、ピューッと、ぜんぶ、向こうに建ってるホテルのほうに飛んで行った...


アヤナッチは、自分の描いた風景画の飛んで行くのを見送って、船の客室に戻った。

それから、みんなといっしょに、また街の船着き場へと帰って行った。

船着き場にはカエッチ王子、待っていてくれたから、手をつないで、お城へとフューンッと一瞬で戻って行った。


「なんか、不思議そうな場所に行ってたんだよ」

ってカエッチに言ってみた。

「へぇー、不思議そうな場所?」

ってカエッチは、ちょっと笑って答えている。


「うん。今、みんなと風景画を描いてきた」

「そっかあ」


今は、カエッチ王子に嫁入りしてるんだし、だから、カエッチ王子を助けたり支えたりしなきゃだし、かえっちは今いないんだし、池野文奈でなく、アヤナッチ・イケーノなんだから、アヤナッチとして生きていくでーっ!って思っている。

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