人生とはさもありなん
明日 友郎(あしたともろう)
第1話 先生と生徒の話
ある初夏の学校、職員室前にて。
大きな緊張と小さな反抗心を胸に、僕は戸を開けた。
「し、失礼します。」
鼻をこする。
なにかの飲み物だろうか、香ばしい匂いがあたりを漂っている。
涼しくて広い部屋だ。
電気を使わないようにするためか、天井の光は半分ほどついておらず薄暗い。
カーテンが開いた窓から差す光が、ホコリと踊っている。
ここには先生が何人かいるはずなのに、不思議と静かだ。
「どうぞー。」
静かな空間にのんきな声が響く。
今日、僕はこの声の主に質問しに来た。
大人がたくさんいる部屋で歩くには少し勇気が必要だったけど、目当ての人の前まで僕は歩き、言った。
「・・・e先生、生きるってなんなんですか。」
担任のe先生は椅子を僕の方に回転させ、キィーと鳴らした。
「道徳の時間の続きかな、k君。
それはとーっても難しい質問だよ。うん。
君のこれから人生について、私には分からないという他ない。君はどう思う?」
「わからないから聞いているのに。
e先生って本当は賢くないんですか?
もういいです帰ります!」
「ここで返しては先生としての威厳がっ!!こ、降参だ!ここに椅子があるから是非座ってくれ!
オホンッ!放課後なのによく来てくれた!君は私の大切な生徒だ!無下に断るのは担任として良くないな!うん!でもすこし長くなるからね?覚悟しなよ!」
先生は、僕に聞こえるより大きな声で話した。
「早く教えてください!」
e先生は声が大きいから、僕も鼻息を荒くして言い返した。
「・・・じゃあ一人一人の生きることと、みんなにとっての生きることに分けて話そうか。」
「わかりやすくおねがいします!」
教えてくれるようなので、僕は耳を傾けることに集中する。
「・・・まずは一人一人の生き方についてだ。あ!難しかったらちゃんと言ってね!
簡単に、うん、食べ物の話をしようかな。
僕が一番好きなお菓子はチョコレートなんだ。k君は何が好き?」
「たまに食べられるグミ!あ!飴も!」
「欲張りか!
よし、k君はグミが一番好きだとしようか。
例えば、k君が一番好きなお菓子はチョコレートなんだよ!と僕が他の人に教えたとしよう。
でもk君が本当に一番好きなものはチョコレートじゃないよね。」
「チョコレートは食べちゃだめってお母さんに言われてるから嫌い!」
「ああ!君の好きなものはそう簡単に変わらないはずさ!それでいい!
・・・このお菓子の例からわかることは、みんなそれぞれ違う考えを持っていたり、他の人の考えや気持ちを変えるのは難しい。ということなんだ!
k君がどう生きるかは僕には決められないから、そう!つまり!君の生き方は君が決めるってことさ!
僕の見立てでは、将来君もきっとチョコレートを大好きになるはずだと予測している!」
「ならないです!」
先生は冗談がひどい!僕はグミが一番好きなんだ!
「ははは!
・・・話がそれたけど、みんなにとっての生きるを考えると、また違ってくるのが面白いところさ。うん。
一人一人だと、違う生き方をしているというのはわかったよね?」
「まぁ、はい。」
「実はみんなにとっての生きるという事は、人どうしが仲良くなって繁栄を続けることなんだ。
難しい言い方だけどわかる?」
「難しいです。」
「そうだよね!ははは!
繁栄を簡単に言うと、すごい長ーい年のあいだずっと、速いスピードで人や物を増やし続けていくことさ。
でもね、みんなで生きる事は難しいんだ。
さっきも話したけど一人一人、みんな考えてることが違うでしょ?
もしみんな同じ考えを持っていたなら争いは起きると思うかい?」
「思いません!」
「みんな違う考えを持っているのに仲良くなりたい、繁栄し続けたい、とみんな思ってるからからけんかだったり、争い事が起こるんだ。
面白いとは思わないかい?」
「うーん?よくわかりません。難しいです!」
「おっとごめん!もっと具体的に言うよ!
k君は仲が言い友達はいるかい?」
「・・・」
「おっと、すまない!」
「あ、iちゃん・・・」
「・・・k君を傷つけしまったかと、安心したよ!」
「iちゃんには言わないでね!」
「わかった!k君も年頃だものね!
そう、恥ずかしがることはないさ!ははは!」
「いいから、早く続きを話してよ!」
「おっとごめんね。私の前では君はいつも静かだったものだから、違う一面が知れて嬉しいんだ。」
「い・い・か・ら!」
「そうそう、みんなにとっての生きる、について話していたね!
それで君の仲良しな子を聞いて、それがiちゃんだったね。」
「うん。」
「k君はどうやってiちゃんと仲良くなったんだい?」
「えっ?それは・・・、iちゃんが一人でいたから、僕が一緒に帰ろう。って言ってと、友達になったんだ!」
「やるじゃないか!ははは!
将来は後ろに注意するんだぞ!」
「よくわかりません。」
将来・・・。
「さて君はiちゃんとは仲良くなった。
けど、仲良しじゃない子はいるかい?」
「うーん。uくん!」
「どうしてそう思うんだい?」
「いつも僕のことをからかってくるんだ!それが嫌だからはなれても近づいてくるんだ!」
「・・・そう!それだ!!
どうして、uくんがからかってくるかわかるかい?」
「僕をバカにして、みんなの笑いものにしようとしてるからだよ!きっとそうなんだ!」
「ははは!」
「せ、先生まで僕を笑うんですか?」
「ああすまない!まさに僕が言いたい話を君がしくれたからつい笑ってしまったんだ!許してくれ。
そうそう、からかってくるu君は仲良くなりたがっているはずさ!君とね!
仲良しになる方法がわからないから、君をからかうことで近づこうとしてるのさ!!」
「えっ!?u君が?でも、いつも僕をバカにして、他のみんなと笑っているのに!」
「君は信じないかもしれないけど、u君に言ってみるといい!君は僕と仲良くなりたいのかいってね!
そしたらu君は言い当てられたと思ってびっくりするに違いないさ!君はその顔を見て笑い返してみればいい!ははは!」
「e先生!一生ついていきます!」
普段はちゃんとしてないけど、いろいろ教えてくれるe先生には頭が上がらない。
「このお調子者!!」
デコピンされたけど、不思議とおでこは痛くなかった。
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