舞台の開幕
小説でいえば、ここまで来るのに一巻分も使ってしまうくらいに時間をかけてしまった。
逆にアニメでいえば、ここまで来るの三話分。時間にして約一時間半くらいしか使っていないくらいに内容が薄い。
ようやく来れた出発地点への感想はそんな気分だった。
「ただいま」
「...なんていうか」
「...ぼろぼろじゃない?」
あれ。こういう時っておかえりって言ってくれるものじゃないの?
ぼろぼろだっていいじゃないか!これは頑張った証なのだから!
「まぁ、しょうがない。とりあえず、はいこれ」
「っとと」
俺は自身が担いで持ってきた眠り姫を渡す。
「ちょっと!もう少し丁寧に扱ってもらえません?」
「お前だって扱うとか言ってるじゃん」
「私はいいんですー」
人には物事を強制させ、自分には緩い。
こんな暴虐を起こす人物は、のうのうと霊界で待っていた術士木茎 悠莉だった。
「そんなことよりも、予定と大幅にズレてるんで、社長は早く仕事に戻ってください」
「鬼かよ!?」
まったく、一体誰がこんな教育をしたんだ。
「紅璃、七星。透禍が動けるようになったら、お前たちにも今までついてきた嘘について語るから。ちゃんと授業出ろよー」
俺はそう言いながら軍の本部がある方向へ歩いていく。
後ろ向きに振った手にはいくつもの視線を感じ、それに安堵する。
「じゃあみんなはこっちについてきて。怪我ばっかりしてるから、一応医者に診てもらいに行かないとね」
悠莉がそう先導して、透禍たちを連れて行く。
意識のある二人は謎が多すぎて、何も言葉が出ない様子だった。
そこまで心配する必要はないと思うが、大丈夫かな?
俺は曲がり角で、後ろにいる全員から見えない位置まで行くと、その場で床に腰を下ろし、壁に背中を預ける。
「...ごほっごほっ。...うぅ、おえ」
俺は手で必死に口を押さえ、咳き込みや吐き気が収まったところで自身の手を見る。
「何度見ても酷いものだな」
手にはべっちょりと真っ赤な血が塗られていた。
「はぁ...」
口の中に残った気持ち悪さを出そうとしたのか、ただ単に疲れたからなのか、それとも両方か、どちらか。
そんなことを思わせるような曖昧な溜め息が出る。
「あなた、自分の体のこと分かってるの?」
不意に質問が飛び出してきたので、少し驚く。
だが、彼女ならそれをしても仕方がないだろう。
「やっぱり見えてるんだ、俺の寿命」
俺が来たのと同じ方向から一人の人物が出てきた。
越智 鏡月。彼女の術なら、人から物まで、様々なものの情報を知ることができるからな。
当然、俺の寿命を知っていて、今の俺の状態も分かってしまうだろう。
「あなたが死ぬって報告される前に見た時は二十七年って書いてあったのが、今じゃ二年って出てるんだけど。これはどういうこと?」
「そのままの意味さ。なに、ちょっと力を使いすぎただけだ」
「...」
バレているとは思っていたが、隠していたのがまずかったかな。
最初からこうなることを言っておけば、彼女に悲しい顔をさせなかったかもしれない。
「まぁ、大きな戦いは終わったし、大丈夫だろう」
「...そういう問題じゃない」
「ん?なにか言ったか?」
「なんでもない。それよりも、あなたも診てもらいに行くわよ」
「え、でも仕事が残ってるんじゃ」
「仕事なんて何もないわよ。あれはあなたを休ませるための彼女なりの方便よ」
へー。悠莉がそんなことをするだなんて。
彼女に教育した者は優秀だったらしい。
「はー。それならお言葉に甘えますかね」
「...本当のことを話すって、あれこそ本当のことなの?」
「あぁ。本当さ。やっと、その勇気を持つことができたよ」
「ふ〜ん。そう、良かったわね」
そう言って、さり気なく鏡月は肩を貸してくれる。
さてと、まさか自分について、みんなに話すことになるとは。
予定ではなかったけど、それもまたいいか。
たとえ、それで運命が変わったとしても、それを含めて俺の運命なんだろう。
だから、俺は最期まで諦めない。
最期に至ったとしても、何度でも地獄から這い上がって来てみせる。
それが、俺にできるあいつらへの、せめてもの恩返しだから。
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