第27話 米こそ最強

 兄からは頼んだほとんどの食材が届いていた。


「うれしい。さすがお兄様」


 厨房ではその見慣れない食材たちに、シェフたちが目を輝かせている。

 緑色のゴツゴツしたニガウリに、食欲を掻き立てる香辛料。

 あとは……。


「米! 嬉しい、米もあったのね」


 稲穂についたままの、もみ状態のものだけどこの世界に米があったのは嬉しいわ。

 これでまたダイエットに一歩前進ね。


「奥様、これは……鳥の餌ではないのですか?」


 恐る恐る一人のシェフが近づいてくる。

 この世界ではコレは人が食べるものではなく、餌なのね。

 もったいない、美味しいのに。


「そうなの? これはすごく美味しいのよ。もちろん人が食べても大丈夫だし」

「ミレイヌ様、さすがに家畜の餌は美味しくてもダメなんじゃないですか?」

「ん-。そうかなぁ。だって、人が食べるって思わなかっただけのことでしょう?」


 元の使い道を知っているだっけに、さすがにみんなも米には抵抗感がありそうね。

 まぁ、みんなが嫌なら私だけ食べてもいいし。

 前の世界だって、すべての国の人が好んで食べたわけでもないし。


 住むところが変われば、嗜好などが違うのは仕方のないことだものね。

 それに無理強いが一番良くない。


「私が作ったのを見て、食べたいと思った人だけでもちろん大丈夫よ。いろんな味があるし、人には合う合わないが絶対にあるからね」

「いえでも……さすがにミレイヌ様が食べられるものは、ワタシも口にします」

「無理して付き合わなくてもいいのに」


 変なとこにシェナは固いのよね。

 そんな使命感なくても大丈夫なんだけどなぁ。


「じゃあ、シェナが美味しいって思ってくれるように頑張るね」

「でもこんなモサモサのを、どうやって食べるのですか?」

「ああ、外は取るよー。さすがに外はそのまま食べることはしないから」


 きょろきょろと辺りを見渡し、大きめのお椀を手に取る。

 それを調理台の上でひっくり返し、その下にもみを入れて引っ張る。


 すると稲からもみだけが、お椀の中にとどまった。

 そしてそれを集めて、容器へと移す。


「さてさて、全部もみだけになったけど、ここからが問題なのよね。食べれるのは中の米だけで、周りのもみは落としてしまいたいんだけど」


 これってどうやって落とすのかな。

 すりおぎとかで、ごりごりしたら行けそうだけどそんな器具みたことないし。

 

 手でこすっても、さすがに無理よね。

 ざるに入れたところで、上側の薄い部分が辛うじて取れるくらいかなぁ。


「んんんー。あ、小麦ってどうやって製粉してるの?」

「えっと、水車を使ってると聞いてますが」


 料理長が思い出すように、視線を上げた。

 確か小麦も、上の皮をはいでそれをすりつぶしたものだよね。


 ってことは、米でも応用できないかな。

 水車でもみだけはぐことが出来れば、玄米になるわけだし。


「うん。それでいこう。明日にでもその水車のところにこの米を持っていって、上のもみの部分を取る作業がいいわね」

「奥様、その米というのはどうやって食べられるのですか?」

「んと、玄米よりもさらにもみを落とせたら炊いてそのまま食べた方が美味しいけど、玄米ならスープに入れてふやかす感じかな」

「ふやかすとどうなるのですか?」

「体積が増える」


 そうここが重要。

 元の量よりも体積が増えるから、少しの量でお腹が満腹になる。

 しかも野菜やスープなんかよりも、腹持ちが断然にいい。


 パンは確かに好きだけど、すぐお腹がすくのよね。

 

「体積が増えたら、その分少ない量でたくさんの量が出来るわ。ダイエットにもいいし、もし領地などが食糧難になった時も有効だと思う」


 米は保存もきくし、直火でも炊けるし本当に万能なのよね。

 ああ、食糧難で思い出したけど炊き出しみたいなことが出来たらいいな。


 この国は勝ったとはいえ、まだまだ貧困層も多いし。

 それに炊き出しは有事の際も役に立つものね。


 こういう誰かに役立つためにすることは、全然嫌いじゃない。

 むしろ侯爵夫人の役割って、無駄なお茶会なんか開くよりよほどこっちの方は正解な気がした。


「さてと、米は明日どうにかなるとして、この香辛料たちでカレーを作ろう!」

「カレーですか?」

「そうそう。もちろん、香辛料からなんて作ったことないけどねー」

「え」


 私の発言にさすがにみんなは引いていたけど、そんなことなど気にすることもなく適当に料理を始めた。

 香辛料は匂いが命。

 たぶん匂いながら確認していけば、それっぽいものは出来るでしょう。


 なんて思った時期はいつもあります。

 はい……。

 

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