第26話 荷物は最速で

 兄が帰宅し、屋敷の者たちへとお礼がてらお土産を配り歩いた。

 買ってきてくれていたいろんな種類のお菓子たちは、全員に分けても余るほどだった。


「相変わらずすごい量のお菓子でしたね」


 部屋に戻ると、シェナが一息つくためにお茶を用意してくれていた。

 もちろんその横に兄が買ってくれたお菓子が数種類、一つずつ置かれている。


「今思えば、あの量のお菓子をほとんど自分で食べていたのよね」

「そうですね」

「これでは太るはずだわ」


 見たこともないお菓子を食べるのは、子どもの頃は本当に楽しかった。

 キラキラと輝くそれたちは、まるで宝石のようでもあったから。


「みんなもミレイヌ様からのお菓子をとても喜んでいましたよ」

「そっか。それは良かった。ふふふ。もう少し早く、こうしていれば良かったわ」

「?」

「だって美味しいものはみんなで食べる方が、もっとおいしくなると思うのよね」


 私が微笑むと、シェナも微笑み返してくれた。

 今までも決して一人占めしてたわけではないけど、でもこんな風に配ったのは初めてね。


 みんな初めて見るようなお菓子に、本当に喜んでくれていた。

 兄が見ていた私も、あんな風だったのかな。


「そうですね。そう思います」

「さて。明日はお兄様に頼んだモノ届くかしら?」

「何を頼まれたのですか? ずいぶん急いでお帰りになられましたが」

「もちろん、ダイエットに使える食材よ!」


 私はビシっと、人差し指を立てた。

 兄に頼んだのは、他国でしか入らないような食材ち。


 というのも、私が作れるレパートリーが少なすぎてダイエットスープも野菜スティックも飽きてきてしまったから。


 いくら私がテキトーな性格とはいえ、同じモノばっかりではさすがにねぇ。


 違うものが食べたくなってきたのよ。

 運動量を増やしたところで、前のようなフルコースを食べてたら痩せれないもの。


 こんな時こそ、兄の力が役に立つはず。


「そんなに珍しいものなのですか?」

「んー。どうなのかなぁ。でもこの国では見たことないのよね」


 もちろん頼んだものが全部そろうとは思ってはいない。

 だって、こんな感じのとは言ったものの、まったく同じものはないだろうから。


 名前が同じなら分かりやすいのだけど、結構違うのよね。

 

「野菜とかですか?」

「あー。野菜と香辛料ばっかり考えてたけど、考えたら肉という手もあったわね」

「肉って太るイメージですけど」

「そうでもないのよ。肉の種類によっても、調理法によっても変わるのよね」


 この世界で鶏肉はあったけど、ラム肉とかああいうカロリー低めのはないのかな。

 でもさすがに、魔物の肉は嫌ね。


 兄に頼むと、そういう系とかフツーに持ってきそうだし。


「ミレイヌ様って前から思ってますが、記憶力いい感じですか?」

「えー、そうかな」

「いくら過去とはいえ、一回生まれ変わってるわけじゃないですか。何年分の記憶を溜め込んでるんです?」

「あー。そう言われたら確かに。でも昔のは曖昧なものも多いのよ。ただね……結構嫌だったことの方が覚えてるものね」


 いい思い出の方がたくさん残っててくれればいいのに。

 ただ、そうも良かった記憶はないんだけどね。


 二人でそんな他愛のない話をしていると、部屋がノックされた。


「はい。どうぞ」

「奥様、すみません。今よろしいでしょうか?」


 そう言って入って来たのは執事長だった。

 やや初老でありながらも、真っすぐな背筋にシワ一つないスーツ。

 たぶんうちの父よりも年上なのだけど、このきっちり感が年齢を感じさせない。


「ええ。大丈夫よ。どうかしたのかしら?」

「ご実家よりかなりたくさんのお荷物が届きまして、全て厨房へ運び入れてありますがよろしかったでしょうか?」

「まぁ、もう届いたの?」


 兄が帰宅してから、まだ半日も経っていないというのに。

 どれだけスピードアップしたのかしら。


 いくら私からのお願いとは言え、こんなに早いとは思ってもみなかったわ。

 執事長にうながされるまま、私は荷物を確認するために厨房へと向かった。

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