第7話 濃いお味がお好き

 ウインナーからある程度のダシや旨味は出る。だけどコレに塩を入れても、所詮野菜クズスープでしかない。


 さすがにこれではちょっとなぁ。いくらずぼら飯でいいとはいえ、味は重要なのよね。これじゃあ、私には味気なさすぎる。


「んーーーーー」

「どうされたんですかミレイヌ様」

「いや、味薄そうだなぁって」

「ご自身で作ってて、それ言います?」

「まぁそうなんだけどさぁ。んー。どうしようかなぁ。薄味はあんまり好きじゃないのよねぇ」


 どうしようかなと厨房の中を見渡していると、籠に入れられた赤く熟れた野菜が視界に入る。


「あー! 料理長、アレもらってもいいかしら?」

「え、あ、大丈夫ですけど……」

「ありがとう!!」


 赤い実を手に取ると、それは昔よく見たものに似ている。そう、トマト。

 たぶん名前は違うと思うけど、サラダで出してもらったことがあるけど、味もほどんど変わらなかったと思う。


「ミレイヌ様、それってサラダにする野菜なのではないですか?」

「そそ。よくサラダで出るやつ~。これ入れるの。味濃くなるから」

「「えええ」」


 シェフたち数人の声が上がっていたが、あえて気にしない。

 考えたらトマトソースの食べ物はないこともないけど、これを入れたスープってなかった気がする。


 この世界、スープは透き通るようなコンソメ風しか出てこないのよね。

 さすがに味も結構濃いし、みんなの口には合わないかな。


 でも私これ好きなのよね。ミネストローネ風スープっていうか、脂肪燃焼スープの改良版って感じかな。


 食物繊維たっぷりだし、野菜でも腹持ちがいい。

 パンとか食べちゃうとカロリー高くなっちゃうけど、これだけならいつも食べてるものの半分もないはずだもの。


「美味しいよ?」


 鍋に入れてそのまま木のヘラで上から押しつぶす。刻んだ方がよいのかもだけど、コレ刻むとまな板がベタベタになるのよね。

 汁たれるし。汚くなるし、片付けがめんどくさいから嫌。


 火をつけてもらい、塩で味を調整していく。潰したトマトもどきは簡単に溶けだし、形をとどめない。


 鍋の中がコトコトし始めると、厨房の中にいい匂いが充満していった。

 やや酸味がありつつも、他の野菜とウインナーが入っているからきっとそれらが味をまろかやにしてくれてるはず。


「あ、あの……わたくしどもにも、味見させていただけますでしょうか奥様」

「たくさん作ったから構わないわよ。私は私の食べる分だけあればいいし。シェナも一緒に食べるでしょう?」

「そうですね。変なものを一人で食べて、あとでお腹でも壊されたらご実家より抗議が入りそうですからね」

「ひどぉぉい」


 そんな風に悪態をつきながらも、シェナの目は明らかに楽しそう。他のシェフたちも初めて見るスープに興味津々のようね。


 野菜が溶けてきたのを確認すると私は小さな器に少しだかスープをとり、まず味見する。

 うーん。ケチャップがあれば味がもっとしっかりしまるけど、まぁそれは無い物ねだりね。

 これでもいつものスープたちよりは、十分味が濃くて美味しいわ。


 野菜クズたちは溶けてはいるものの、原型がないわけではない。だからこそ、食べこたえがあるというものなのよね。


 それに野菜の芯の部分は食物繊維もたっぷりだし、トマトもどきのリコピンも入ってるから栄養もバッチリ。


「奥様、昼食はこれだけですか?」

「朝食はちゃんと食べたし、夕食はランド様が一緒にと言っていたから、これで十分よ」

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