第4話 ハウツー本

「筋トレしてもいいけど、たぶんその前の体力がないのよ」

「ミレイヌ様だけが分かる言葉で略するの辞めていただけません?」


「ああ、ごめんごめん。つい癖で」

「ここはご実家ではないのですからね。いくらミレイヌ様が過去の記憶持ちだからといって、不用意な発言はご自身の首を絞めますからね」

「うん。分かってる」


 まさか異世界から転生してきましたなんて言えないから、家族には自分が生まれる前の記憶があるとだけ伝えてある。

 そしてシェナもその秘密を共有する数少ない人物だ。


 ついうっかり、はここではダメなのよね。言葉には気を付けないと。


「でもそんな歩くだけで痩せるなんてあるんですか?」

「まだ今は体重がたっぷりあるからねー。そのうちそれでは痩せなくなるから、ちゃんと運動もするわ。あとは簡単に食事制限だけど。あれもこれもダメにしちゃうとやる気なくなるのよね」


「それにしてもやる気なさ過ぎだと思いますけど」

「そうかなぁ。これでほら痩せて、ずぼらダイエットのハウツー本とか出したら儲かるかもしれないし」

「だーかーらー!」


 あ。ハウツー本って言葉もこの世界にはなかったわね。

 そんなに目くじら立てたって、こっちも難しいのよ。記憶持ちっていうには、中身は死ぬ前のまんまなんだから。


 結構あっさり死んでしまったし。それに幸せだった記憶もないから、私にとっては過去の記憶なんて本当は必要ないのだけど。


 でも記憶を持ったまま転生してきたってことは、きっと何か意味があったりするのかな。


「んと、実用書ってことよ。ダイエットの本!」

「そんなの売れるわけないじゃないですか~」


「えー。絶対いいと思うのに」

「何度も言いますが、ご令嬢で太っているのは?」

「ハイ。私だけでした……」


 もーーー。せっかくいい案だと思ったのになぁ。痩せてさらに稼げる。

 しかも知名度も上がるし、妻としての価値も急上昇。って、世の中そんなに甘くはないか。


 とりあえず株上げるよりも、痩せてペット枠脱出を目指すしかないわ。


「ずぼら飯レシピとかならどう?」

「お料理の本ってことですか? それこそ需要あります?」

「んー」


 レシピはこの世界では本にはなってないのよね。紙でというよりも、見て盗むとか教えてもらってとかが主流。

 紙自体がそこまで安くないから、あんまり一般的はないことは確か。


 でもみんながやってないからこその、っていうのもあると思うんだけど。

 ただ言うほど、料理なんてしなことはないのよね。見様見真似っていうか、美味しそうだなって思って作ったものしか覚えてないし。


 それに前の世界とこの世界とでは、多分食材も違うわよね。まずはそこを見てからって感じかな。どうせお昼ご飯を自分で作るつもりだったし。


「とりあえず作ってみて、食べてみてって感じかな」

「そうですね。ミレイヌ様が料理出来るとは思えないですし、ずぼらも何も人が食べれるものが出来るかが微妙ですわ」

「ひっどーい。この体にはお金かかってるんだからね。美味しいモノだけは、分かるわ」

「ああ」


 ぽむっと手を叩くシェナを見ていると、間違った反応ではないのにやたら腹が立つ。絶対に美味しく華麗に痩せてやるぅ。


「厨房に行くわよ」

「はいはい。お供しますよ」

「もー」


 また家畜の鳴き声と言いかけたシェナを無視し、ズンズンと音が鳴りそうな勢いで私は厨房へ向かった。

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