第3話 人生テキトーが一番
「ミレイヌ、少しいいかい?」
短いノックの後、やや慌てたようにランドが部屋に入って来た。朝の慌ただしいこの時間にランドが私の部屋に来るのも珍しいわね。
「どうされたのですかランド様」
私の髪を梳かしていた侍女を下がらせ、鏡台の前から立ち上がるとゆっくり近寄った。
私よりもはるかに早起きなランドは、すでに出かける用意バッチリといった感じね。
私の頭三つ分くらい高い背に、スラリと長い足。身長差さえなければ、確実に私の後ろにいたらすっぽり隠れてしまえるわね。
これではいくらランドに筋肉や体力があったって、私をお姫様抱っこするなんて無理か。
前は結婚も出来ないまま死んでしまったし、一回ぐらいはお姫様抱っこしてもらいたいって、憧れてたんだけどなぁ。
これでは寝言は寝てから言え状態よねー。
自分が白豚だって自覚はあの時までなかったにしても、さすがに申し訳なさが立つ。
「執事長から昨日、君が夕食を半分近く残したと聞いて心配して見に来たんだ」
「ああ、そうなのですね。わざわざすみません」
「どこか体調が悪いのかい? それとも何かあったのかい?」
「いえ、大丈夫ですよ。昨日ランド様よりいただいたお菓子が美味しくて、つい食べ過ぎてしまったのでお腹いっぱいになってしまって」
「そうか。それなら良かった」
心底ホッとしたようなランドの顔を見ると、小さな嘘に心が痛まないこともない。
でも別に全部が嘘というわけでもないのよね。お菓子を食べ過ぎたのは本当。
で、そのまま夕食を食べようとして、シェナにまたドレスが入らなくなるとチクチク言われたからパンをいつもの半分にしたのだった。
それでもたぶん普通の人が食べるよりは多い方だとは思う。
だってお菓子のカロリーだけできっと一日分のカロリー分くらい食べちゃってたし。
でもあのサクホロのクッキーは本当に美味しかったのよね。
あれはさすがに当日食べないとダメになると思ったんだもの。うん。きっと、私のせいではないわ。
「今日は夜には時間を取れると思うから、一緒に食事をしようミレイヌ」
「はいランド様」
「では行ってくる」
ランドはそう言いながら、私のおでこに口づけを落とした。
「お気をつけていっらっしゃいませランド様」
きちんと今は愛されてるとは言っても、白い結婚のままのペット枠。
この先、ランドに女性として愛する人が出来ないとも限らない。そうなる前に、私は私で出来ることを頑張らないとね。
「よーし、頑張ろ」
「で、ミレイヌ様は何をどう頑張るんですか?」
「わぁっ!」
にゅーっと後ろから顔を出したシェナに驚き、私は思わず大きな声を出した。
「登場の仕方ってもんがあるでしょうに! もぅ。お化けかと思ったじゃないのシェナ」
「音流しながら出てくるわけにもいかないですし、そんな注文付けられても困りますね」
「それはそーだけど」
「そうでしょう?」
「もぉー」
「ほら、牛。ああ、ミレイヌ様の言葉で言うと白豚でしたっけ。そこはぶぅと鳴いて下さらないと」
ああ言えばこう言うっていうのは、このことね。こんなことで腹を立ててたらお腹がすくから辞めておこう。
ただでさえ、今日からダイエットの予定なんだから。
「まぁいいわ。今日からダイエットするんだから」
「ああ、それですがまず何からやるんですか? 食事調整するなら今から厨房行っていますけど」
「そーねー。とりあえず、お昼ご飯は自分で用意するからいらないって言ってきて」
「それで他のご予定は?」
「ん-。とりあえず、しばらくは歩くぐらいかなぁ」
「え? それだけですか? たった歩くだけ? 人間誰しも普通に歩きますよ。二足歩行で」
ジト目で見つめるシェナの気持ちは言われなくても分かる。
でも現状、たぶん体重は三桁まではいかないものの、相当あると思う。そんな人間がいきなり運動とかを始めるのって無理があるのよね。
膝とか腰とか、絶対に痛くなるもの。
それに継続することが一番大事であって根詰めてもいいことなんて絶対にないのよね。
人生テキトーが一番なのよ。そして細く、長く。って、細くなりたいには今の私のウエストよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます