ダイエットは明日から!! 愛され白豚令嬢の華麗なるズボラご飯

美杉。節約令嬢、書籍化進行中

第0話 白豚と気づいた結婚式

「ああ、ミレイヌ……。うん、ずいぶん見ない間に……その成長したね大きくなったね


 真っ白なシルクの裾には金の糸で花の刺繍が、これでもかと施されていた。

 そんな勢を尽くしきったドレスに身を包んだ私のベールを、婚約者であるランドが上げる。


 しかしその表情がほんの一瞬困ったような顔になったのを私は見逃さなかった。


 敵意や嫌悪感があるわけではない。

 ただ純粋な困惑といったように眉が少し下がり、どうしようかと考えているようだった。


「ランド様?」

「えっと……うん」


 ランドの困ったような表情に、挙式に参加した者たちがざわざわとし出す。

 しかしそれも一瞬のこと。式は止まることなく、進んで行く。


 私とランドは幼馴染であり、私の初恋の人だ。

 幼い頃、私の両親の半ばごり押しでこの婚約は決まった。やや歳の差はあるものの、ずっと仲良くしてきた方だとは思う。


 そう七年前までは。


 七年前、隣国が突如として侵略戦争をけしかけ、彼も前線に行くことに。

 そこからずっとやり取りは手紙だけ。それでもその戦いに勝利し、今日という日を迎えた。


 本当だったら顔合わせとか、交流とかいろんなことの後に結婚式の予定だったのだけど……。


 この国のお祝いを兼ね国民に幸せを届けるためにと、国王陛下からの提案で帰国パレードの後そのまま弾丸挙式になってしまったのよね。


 だから教会の中は貴族や国王陛下夫妻などの豪華メンバーがびっしりといて、尚且つ外にはたくさんの市民が祝福してくれている。


 式の順番は昨日レクチャーがあって、誓いの指輪を交わした後、ベールを取って誓いのキス。


 そのあと、私を式場からお姫様抱っこして馬車に乗り込み凱旋パレードだったはず。

 そして今止まってるのは、誓いのキスのところだ。


 大きくなったってどういう意味かしら。

 確かに七年前よりはほんのすこーし背も伸びたかもしれないけど、ランドの方が背も高ければ、昔とは違って筋肉もたくさんついた気がする。


 七年前はひょろりと背の高く色白の王子様って感じだったのに、今はムキムキまではいかないけど本当にたくましくなっていると思う。肌が小麦色なのも私好みだし。


 それでもなお、ブルーグレイの髪にきりりとした眉毛、二重の大きな青い瞳は変わらず、にこやかに微笑むと私の顔もニヤケてしまうぐらい。


 ああ、本当に素敵なのよね。それに声。ランドの声は私にとって癒しってくらい好きなの。


 でもそんなランドが困惑して止まるって、どういうことかしら。その瞳にはしっかり私が映っている。

 特に嫌そうな感じもないのに、どういうことなの? 何が起こってるの?


「あ、あの」

「……みたいで可愛いよ、ミレイヌ」


 んんん?

 今、何みたいって言ったのかしら。あまりのカッコよさに見とれてしまって、全然聞いてなかったし。


 しかしそんな私を気にすることなくランドはそのまま口づけをした。

 そして私の指輪がはまった左手をとり、高く掲げるとなぜか歩き出した。


 そんな私たちの姿に、参列者たちはクスクスと笑っている。何がそんなにおかしいのか私にはまったく分からない。


 でも煌びやかな扇子の下に隠されたその貴族令嬢たちの笑みは、明らかに敵視してるというか……見下しているようだった。


 何がいけなかったのかしら。今日の化粧だってみんなバッチリって言ってくれたのに。もしかして、バッチリしすぎで濃かったとか? 


 それに予定とは違い、お姫様抱っこされぬまま私たちは参列者たちの間を抜けていく。


 そして外に出た途端降り注ぐ日差しに顔を背けると、落とした視線に祝福の花かごを持った小さな男の子が見えた。


「わぁ、見て見て。花嫁さんだね~」


 にこやかな笑みと、純粋な言葉。その言葉の意味を理解したとき、やっとランドの行動の意味が分かった。


 大きくなったの意味。それは成長したとかじゃなくて、純粋に……いえ、物理的にデッカくなったという。そう。やっと理解した。


 純白の衣装に身を包んだ、大きな令嬢ってさぁ。もしかして、もしかして!?


「あれ、私……もしかして、白豚令嬢なんじゃあ……」

「え、あ、いや。ミレイヌは十分可愛いよ?」


 そう言ったランドの顔を私は忘れることはなかった。

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