主催 夜一の話

 皆様お楽しみいただけたでしょうか。

 私、主催の夜一よいちです。


 最後にサクッと挨拶をして終わろうと思っていたのですが、私も1つお話をしてもよろしいですか?

 友人と私の話なんですが。


 その友人とは長年の付き合いで、その日も突然夜ご飯を一緒に食べようと誘われました。

 指定された場所に行くと、普通の定食屋で友人は豚汁定食を、私はミックスフライ定食を頼みました。

 彼は味噌汁は赤味噌、特に八丁味噌が好きらしくて、それの豚汁が大好物らしいのです。

 残念ながらその豚汁は八丁味噌でも赤味噌でもなかったんですけどね。

 私はというとカキフライが好きでして、メニューの期間限定がカキフライって文字を見てすぐ頼みました。


 当たりだな!と思いながら、定食を食べていると、友人が「彼女が突然いなくなった」と言うんですよ。

 その彼女って言うのが、なつなって言う子なんですけどね。

 彼女とは、もう付き合って長いことたつんですよ。

 彼女は前に流行った歴女っていうんですか?

 歴史が好きで、よく旅行に行っては城の写真を撮って送ってくる子で、思いつきでよく旅行に行く子でした。

 そんな彼女のことだから、いつもの旅行なのでは?と思い、友人にそう言いました。

 でも、友人は旅行に行くとは聞いていないし、それどころか会社にも行ってない、と。

 警察に行っても、成人した人が行方不明になるのはよくあることで、取り合ってもらえない。

 どうしようかと思ったときに、私の事を思い出した、と。

 友人は「最後にこの話をしたら、もしかしたら行方がつかめるんじゃないか」って言うんですよ。

 しかしこの場は怖い話をする場であって、人探しの場じゃないから無理だって断ったんですよ。

 それから何度か友人と電話をしたり、会ったりしました。

 するとね、暫くして友人がこんなことを言い出したんです。


 彼女が見つかった、と。

 初めは信じられなかったんです。

 あいも変わらず彼女は行方不明扱いになっているのに。

 なのに友人は、なつなが「いる」って言うんです。

 姿は見えなくても、気配を感じる、すぐ近くにいる!って。

 あんまりにも荒唐無稽話な、最近彼女の話ばかりする友人にイライラして私はこう言ったんです。


 まさか!どこに?いるはずがない。気配を感じると言うなら、もう死んで幽霊になっているじゃないか、と。

 友人は、その通りだ!と興奮した様子で答えました。

 お前と一緒にいるときだけ、彼女の気配を感じられるんだ、と。

 彼女はお前と一緒にいるって。



 お客さんに聞きたいんですけど、私の後ろに誰かの気配を感じますか?







「なつなはちかくにいるよ」

 三題噺「気配」「城」「フライ」

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