じゃない方芸人 類の話

 どうも。怪談芸人ナッツの、じゃない方のるいです。

 じゃない方ってなに?と思われた方もいますよね。

 相方がね、怪談好きなので貴方も?って言われるんですが、僕は全然。ビビリなんですよ。

 今回、ここに呼ばれたのも初めは断ったんですけど、一つぐらい怖い話あるでしょ?って食い下がられて。

 丁度怖い体験をしたあとだったからあります!って言っちゃったんですよ、勢いで。

 別に山田にね、相方がこんな体験しまして〜って話してもらえばよかったんですけど、何故かあいつもノリノリで「一緒の怪談ライブに出れる!」って子供にもみたいに喜んじゃって……あいつの顔を見たらやっぱ辞めるって言えなくなっちゃったんですよ。

 いつも怪談の場に呼ばれるとビビり要員なんで、話がうまくいかないかもしれませんが、お付き合い下さい。



 一ヶ月ぐらい前にね、僕の住んでるマンションのエレベーターの点検がありましてね。

 マンションはちょっと年季が入ってまして、エレベーターが動く時結構揺れたり、大きな音がするんですよ。

 他の住人も壊れるんじゃ?と心配だったみたいで、三日ほどエレベーターが使えませんと言われても誰も文句を言わず、逆に良かったって感じだったんです。


 で、点検が始まって一日目。

 いつものようにエレベーターに乗ろうとして、「あ、今日から使えないんだった」と階段を使おうと移動したときに、視界のはしに人影があるのに気が付きましてね。

 きっと自分と同じように、点検のことを忘れて使おうとしたんだろうなって、ちょっとニマニマしながら階段を降りたんです。

 仕事が終わって帰ってきて、流石に朝のことを覚えていたので階段に一直線に向かいました。

 自分の部屋に到着して、カバンから鍵を出してってしていたらエレベーターの前にいる人影に気がついたんです。

 きっと朝は覚えていたけど夜は忘れちゃったみたいな感じかなぁと考えて、習慣ってすごいなぁと思いながら鍵を開けて部屋に入りました。

 次の日も階段を使って降りていくと、エレベーターの前には人がいました。

 サラリーマンっぽいお兄さんがごみ袋を持っていて、挨拶をしてエレベーターが使えないと不便ですねって声をかけると、筋トレだと思うことにします、って笑っていました。

 三日目にもなれば、階段を使うことにも慣れて、でも明日からはまたエレベーターで楽が出来るな、なんて思いながら帰ってきた時でした。


 エレベーターの中の明かりがついていたんです。

 もう直ったのかなと思い、「開」のボタンを押したんですが、反応しません。

 何だまだ直ってないのかと思って、エレベーターの扉にある窓から中を覗くと中に人がいました。

 その人はこちらに背を向けて立っているようで、顔はわかりません。

 いや、何だかおかしい。

 どんな服を来ているとか髪型は?とか男か女かもわからないんです。

 ピクトグラムってあるじゃないですか。あれみたいに人型ってのはわかるんですけど、どんな人かってのが全然わからないんです。


 そのピクトグラムが急に動き出したんですよ。

 頭を壁にぶつけたり、エレベーターの中でジャンプするんです。

 ガンガン、ドンって。

 その度にエレベーターが揺れるんです。


 僕、慌てて部屋に帰りました。


 エレベーターは直ったんですけど、それからは使ってないですね。






「エレベーターの中」

 三題噺「点検」「ピクトグラム」「ごみ袋」

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