背中合わせでも幸せに
千桐加蓮
第1話 花嫁少女と春爛漫
俺の目の前で振り返った少女。
春の山の公園のブランコの前で、白いワンピースというよりは、ウエディングドレスを連想させるような純白な服を纏い、ハーフアップで纏められたロングの黒髪がふわりと揺れる。
彼女は、まだあどけない顔立ちではあるが、純白な服を着こなしていた。
スマホの時刻が十二時を過ぎた。春の花は風に吹かれている。桜の花びらが舞って俺たちを包み込む。
俺はカメラのシャッターを押した。
「桜が舞ってますね」
彼女が言った。
その言葉にハッとして、我に帰ると、カメラは彼女を捉えているわけではなくて、彼女の向こう側の景色を撮影していたことに気付いた。
慌ててカメラを持ち直して、レンズ越しに彼女と向き合うと、彼女は口を開いた。
「
と、悪戯そうに笑われた。俺は素直に
「桜の花びらが凄くて」
「どう、凄いんですか?」
「綺麗です」
彼女は、くすっと笑うと桜の木を見上げる。風が強く吹くたびに桜の花びらが大量に舞う。
まるで、桜色のカーテンが二人を隠しているようだった。
彼女はそれを見ながら口を開く。
「あの、さっき言いかけたこと……話してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
俺は、撮った写真を見返すためにファインダーから目を離し、それを閉じた。
彼女は、そんな俺の様子を見て少しだけ微笑み、また口を開く。
「花嫁姿って理由があるんですか?」
彼女の目は俺を真っ直ぐ見ているのが分かった。
それは、どこか真剣な雰囲気を感じさせる目だ。
どうして、着ている服がウェディングドレスを連想させるものなのか。なぜ花嫁の姿に憧れを抱くのか。その理由……
「俺も聞きたいですよ、依頼人は花嫁姿でって言ってきたものですから」
「高校の入学式が昨日で、今日は花嫁になるってなんだか不思議な感じがします」
俺は高校二年生、彼女は高校一年生になったばかり。住んでいるところも違う。俺は東京の下町で、彼女は東北の山に囲まれた地域で育った。
「しかも初対面だし、何喋ればいいか分かりませんよね。なんか、すみません」
彼女はそう微笑んでくるっと回りながら後ろを向いて歩き始めた。
「
彼女はこちらを向いた。俺はカメラのシャッターを押す。
彼女はその瞬間、笑顔を作ったのだ。カシャッという音が鳴り響くと同時に、風が吹いて桜吹雪に包まれていく彼女を捉えた写真を一瞬見た後、彼女にカメラを向ける。
すると、彼女はカメラに顔を向けてくるりと回ってポーズを取ってくれた。ヒールは、まだ似合わない。それは依頼人に伝えようと思った。
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