第35話
運ばれていくエミリーさんを見送った俺は気持ちを切り替えて途切れることのない列の相手をしていった。
もちろんみんな美人ではあるのだがとりわけ印象に残ったのはやはりロシアとヨーロッパ連合だろうか。
ロシアはエルフかと見間違うほどの透き通った金髪スレンダーな白人、ヨーロッパ連合はフランス人形が動き出したのかと思うほどの可憐な美少女だった。
だが、そんな容姿の違いはあるもののみな遠回しにではあるが、ぜひ我が国にという部分は同じだった。
そんな彼女たちを次々相手していると最初は絶対無理だ!と思っていた要人の相手もかなり慣れてきた。
そうしてようやく終わりが見えてくる。
残すところもあと三カ国かぁ…頑張ったよ俺。これ終わったら十二時間ぐらい寝よう。
そんなことを考えていると次の国の女性がおどおどと俺の前に出てきた。
その肌と髪は非常に特徴的で、まさに絵に描いたようという言葉が相応しい黒人女性だった。
おぉ!黒人さんだ!
背たけー足なげー。しかもボン・キュッ・ボンだし。スタイルはエミリーさんに負けず劣らずだなぁ。
「あ、あの…私カサンドラ言います。アフリカから来ました。
片岡様にお会いできて光栄にござりまする。
よろしくお願い申し上げまする」
頑張って覚えたであろう日本語を一生懸命話す彼女
「片岡 和也と申します。こちらこそよろしくお願いいたします。
日本語お上手ですね。以前日本に来たことがあるんですか?」
そう言いながら俺は手を出して握手を求めたのだが、それを見た彼女は両手を自分の後ろに隠してしまった。
あれ…アフリカでは握手しないのかな?俺なんかミスった?
そんな不安が表情に出ていたのだろう。彼女はそのことに気づき申し訳なさそうに理由を語り始めた。
「あの、私黒人。他の国の男聖みんな触れるの嫌がる。片岡様も無理しないでくださりませ」
悲しみをこらえてこちらを気遣い無理して笑顔で語る彼女を見た俺はなんだか無性に切なくなった。
そこで俺は更に一歩踏み出しカサンドラさんの後ろに組まれた手を取ってから言った。
「綺麗な手ですね。私は肌の色の違いなんて全然気にしないですよ。
だから、カサンドラさんもそんな悲しいこと言わずにもっと握ってください」
俺がニコッと笑顔を向けると彼女の目からは大粒の涙が溢れ出す。彼女はそれをドレスの腕の部分で拭いながら「…はい…ありがとうございまする」と何度も呟いた。
「ほぇーアフリカの海ってそんな綺麗なんですね。一度自分の目で見てみたいものです。あっ…でも、私泳ぎは自信無いんでした。あははは」
「ふふふ。片岡様面白い方です。
私教えます。だからぜひぜひ一度遊びおいでくださりませ」
握手のあとも緊張気味だった彼女も時間が経つにつれて徐々にその緊張がほぐれていき今では笑顔すら見せてくれるようになっていた。
だが、俺はどうやら彼女との楽しいひとときを長く楽しみすぎたようだ。彼女の後ろの女性がカサンドラさんの肩をグイッと引っ張ってからイライラを抑えた声で言った。
「あなたいつまで話してるのかしら?
私をこんなに待たせるなんて黒人のくせに図々しいわね」
切れ長の目をしたとても顔の整った女性だ。その肌や髪からはほとんど日本人と見分けがつかないだろう。
「あ…あの私すみませ…」
急に背後から声をかけられた上に肩まで掴まれオロオロするカサンドラさんに代わって返事を返す。
「お待たせしてしまい申し訳ございません。
じゃあ…カサンドラさんまた後で」
最後に笑顔で手を振って自分のテーブルへ戻る彼女を見送った。
そして前へ向き直り改めて待たせてしまったことを謝罪した。
「いえ〜、片岡様がお気になさることはゼ・ン・ゼ・ンございません♡
私は朝鮮民国のソユンと申します〜♡片岡様とお近づきになりたいな〜なんて♡」
さっきの様子とは一転して猫撫で声で近寄ってきた彼女は人差し指で俺の胸元にハートマークを描く。
朝鮮民国って確か…
2028年秋に全世界で大流行した男性死滅病、通称MD病によってほぼ全ての男性が亡くなってしまった。
中でも発生源の中国に近かった韓国や北朝鮮では他の国よりも被害が甚大で、もはやそれぞれの国だけでは存続すらできないほどになっていた。
そこで2029年韓国と北朝鮮は念願の統一を果たす。それでできたのが朝鮮民国。統一したことで男性に関しては他国と同条件になることに成功する。
だが、それと同時に問題も起こった。それが経済問題だ。
それまでは割と裕福であった韓国だが北朝鮮の全員を援助したこと。そして、さらに全世界の混乱により貿易が停滞したことで一気に財政難からのデフォルトに追い込まれてしまった。その数は6度にも及ぶ。
泣きついてきた朝鮮民国を日本が支援してさらに人工授精技術も無償でーーーーだっけ。
俺が桃華さんから聞いた朝鮮民国の経緯に思いを巡らせているとしびれを切らしたのか遂に腰に手を回してきたソユンさん
「ーーーーーねぇ〜♡聞いておられます?」
「あ、はい。
それでソユンさんは日本語がお上手なんですね!」
腰の手をほどきながら返した。
実は桃華さんの話を思い出していたので全く耳に入っていなかったのだが、そこは35歳の年の功でこの手の躱し方はお手のものである。
「あっ、それでは次の方も待っておられますのでそろそろ…」
「あら、もうですか〜?
ソユンさびしいなぁ♡今度はベッドの中で…ね♡」
はははと乾いた笑いを彼女へと返した。
彼女には申し訳ないがはっきり言って全くそそられない。
同じような積極性でもエミリーさんのときは思わず手が出そうだったのになんでだろ?という俺の疑問はすぐに解決することとなる。
彼女が去り際に髪を掻き上げながら何気なく呟いた一言がはっきり聞こえてしまったからだ。
そう、確かに彼女はこう言った。
『なんでチョッパリなんかに…』
それを聞いた俺は妙に納得した。
同じ積極性でもエミリーさんのは良くも悪くも裏表がない。だが、彼女は違う。完璧に自分の心を押し殺して作られた積極性なのだ。
俺はいつかの韓国大統領が発した『千年恨む』『恨』という言葉は民衆向けのパフォーマンスであると思っていた。だが、あの言葉はパフォーマンスなどではなく彼女ら民衆の意思であり、朝鮮という国は南北が統一しようが一世紀以上経とうが反日というところは全く変わらないのだと思い知らされた。
だからといって彼女を責める気はない。
彼女にとって歓迎会などは付き合いで本来の目的は首相との会談であり交渉であるのだから…
まぁ今後関わることも無いだろうし別に気にすることもないだろうという俺の思いとは裏腹に先の彼女の発言とこの後の俺の行動が朝鮮民国の命運を左右するなどとは今もこれから先も知る由もなかったのだった。
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