第18話 ダンジョンの秘密

 ダンジョンの裏側にある入口。 情報も非公開と言うその入り口は、鉄の門で閉ざされていた。


 ムラサキさんは、扉の横にあるパネルと操作すると、


「覚悟は良い?」と聞いて来た。


「いやいや、ムラサキさん。まるで覚悟なんてできてませんよ」


 そんなやり取りをしていると扉が開いた。そこには……何もなかった。


「ムラサキさん、これは……なにもありませんが?」


 そこには小部屋があった。


 魔力も流れていないので、転送魔法が仕込まれている様子もない。


「慌てない慌てないヒカリくん」とムラサキさんは、何もしない。


 やがて、異変が起きる。


「……これは、部屋自体が動いている。まさか、エレベーターだったのか?」


 動き出した小部屋。下へと向かっているのはわかる。 


 けれども、長すぎる。 一体、どれほど地下に潜っていくのだとうか?


「これ、いくらなんでも長すぎませんか? もう10分くらい動き続いているはずなんですが……」


「もうつくよ」と彼女の言葉通り、普通のエレベーターと同じ音が鳴る。


 鉄の扉が開く。そこには――――


「ムラサキさん、ここは?」


 広がっている空間。 間違いなくダンジョン内部だ。


 しかし、そこは奇妙だった。


「普通の道路に、普通のビル……町にしては、人の気配がない」


「そりゃ、ダンジョンの深層だからね。人はいないよ」


「……やっぱり、ここはダンジョン内部なんですね。でも、なんで普通の町がダンジョンで再現されている?」


「ここは、ただ再現されているだけじゃないよ。こっちに付いてきて」


 俺は言われた通りにムラサキさんの後をついて行く。


 すると、違和感が増していく。 なんて言うか……


「段々、町の様子が近代化していくというか……まるでSFの世界みたいに」


 この現象は何か? 少し考える。


「もしかして、ダンジョンが文明を学習して……いや、文明の発展を推測して再現しているのか?」


そうだとすれば、新しい疑問が浮かぶ。


『他の階層は何を――――いや、どこの場所を模したのか?』


「もしかして……いや、そんな馬鹿な……」と困惑する俺に対してムラサキさんは、


「言ってみると良い。だいたい、それが正解だから」


「……もしかして、このダンジョンは他の世界……異世界から異世界に移動しながら、その文明をダンジョン内部で再現している」


「うん、正解だね」


「――――ッ!」と俺は絶句するしかなかった。


 しかし、同時に納得した。このダンジョンの正体————より正確には、


 このダンジョンを作った者の目的。 それは……


「このダンジョンを異なる世界に転移させて、その文明を学習、再現させてから元の世界に戻る……ダンジョンは異世界の情報を収集するための装置そのものだった?」


「そうだよ。概ね、私たちの組織が推測している内容と同じだね」


「でも……どうして、どうしてソレを俺に教えたのですか?」


「うん、君への情報開示の目的。もちろん、理由がある」


「……」


「君に見て欲しいのは、こっちにある」


「これは……なんで、こんな所にこんな物が?」


 それは異質。 


 地球の文明を再現して、進化させた近未来のような空間にあっては不自然なもの。


 それは――――


「石でできた洞窟————いや、これはダンジョンか!」


 そんな馬鹿な……でも、これは明らかに……ダンジョンだった。


「ダンジョンの中にダンジョンが……ムラサキさん、この中はどうなっていますか?」


「――――わからないわ」


「え?」


「過去に我々は十分すぎるほどの装備を整え、このダンジョンへの攻略を挑みました。でも……」


 ムラサキさんは、当時の事を思い出しているのだろう。


「そして、私たちは撤退。なんの成果も得られず戻るしかできませんでした」


 彼女の表情には怒りと屈辱が同居している。


「しかし、我々は近い将来————1年後には、このダンジョンに再挑戦しようとしています」


「このダンジョンに……」


 俺は中を覗き込む。 何も見えない。


 真っ暗だった……ただ暗闇が広がっているだけ。


「私が言いたい事がわかりますか?」


「……いえ? 心当たりもありません」


「ヒカリくん、1年以内にトップ配信者になってください」


「え? なにを……」


「君は、殺人鬼の2連続討伐成功。それは過去に例がない偉業です」


ムラサキさんは俺の瞳を覗き込む。どこか鬼気迫る恐さを持ちながら――――


「私は1年後、ダンジョン攻略のチームにあなたを――――緋炎ヒカリを推薦します」 


 そう断言するのだった。

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