スマホノライト

鈴イレ

スマホノライト

 ——よ、夜の学校も、す、スマホさえあれば、こ、怖くないもんね。


 夜の廃校舎。真っ暗になった校舎を白菊稲葉しらぎくいなばはスマホ片手に夜の校舎を歩く。校舎に生きるもの(私は廃校に住んでる。理由は後日。)として避けてはと通れない道だ。


 ——寝る前に飲みすぎた……。


 飲みすぎた……って言っても無論、お酒とか薬とかではない。


 私は未成年で、一応真面目(but元不登校)な少女。女の子のお漏らしとかおねしょとか、どこに需要があるのだか……。恥ずかしくて首をつってしまいそうだ。かといって照明をつけたらお手洗いトイレのことがばれる……。


 トイレは少し歩いて同階3組の近く。たった少しの辛抱だ……。


 照明のない校舎は真っ暗だ。灯りの一つ二つ三つなく、光源は足元を照らすスマホのライトのみ。廊下のきしむ音が一歩一歩と大きくなって木霊する。そのたびに、背中がぞっとする。理由はまあ、あれだ。




「君は死ぬんだよ!」


 背後からの声。ふと、振り返ると!


 ってやっても背後には誰もいない。でも前むけば! きゃあああ!!!


 ——もう! 日暮ひくれ君作のホラーゲームを寝る前にプレイするんじゃなかった!!!




 同居する天才エンジニア・流転日暮るてんひくれはスマホゲームを作った。そのタイトルは「マホノイラスト」。漫画家の少女マホが作った死神が現実世界に現れてーっていう展開。物語終盤、「君は死ぬんだよ。」と死神の声が聞こえ、振り返ってもいない……。でも、前を向けば……。


 きゃああああ!!!!


 というゲームだ。鬼、逃げる人はどちらもplayable characterで、いろいろなフラグのたびにエンドロールも変わるという徹底ぷり。普通に面白すぎた。のだが……。


 「なんであんなゲームやったんだろう」と後悔しながら、暗闇に怯えながらトイレにゆっくりと歩く。死神がいつ襲ってきてもおかしくない。油断したら、私の命を刈り取りに……。「君は死ぬんだよ。」って聞こえた気がしてしょうがない。


 ——もう、日暮、妬ましい!(解せぬ!by日暮)


 ああ、堂々と灯りをつければよかった。変に気遣わなかったら良かった。でも日暮のゲーム面白かった。特に秋戸あきとが担当したがその鬼の操作がへたくそで、自分の鎌に刺されて謎エンドを迎えたところが面白すぎたのだ。


 頭の中で嫉妬しながら歩いていくとやっとトイレについた。ここでは灯りがちゃんとつけれる。女子トイレの個室は5つ。そして奥から3番目のトイレは……。


 ——は、花子さんなんて、いないに決まっている。


 トイレは廃校になった今もきれいなままだ。だが、その分、幽霊でも出たら目立ってしょうがない。思わず見つけてしまいそうなのだ……。 



 どうにかこうにか自分を奮い立たせて自我を保ちながら手前から2つ目のトイレ(洋式)を使う。余談だが、奥三つは和式、手前二つは洋式トイレなのだ。だが、一番手前が故障していて、和式と花子さんを忌避すると使えるトイレは手前から2つ目となる。


 すると……。


 ピンポーン!


稲葉:「きゃああ!!!」


  思わず叫んでしまった。悲鳴が木霊してる……。恥ずかしい。ああ、日暮を吊る前に私の首をつらないといけないようだ。


 全身が恥ずかしさで震えながらもスマホを開く。こんな夜遅くに……、と思いながらスマホを除くと吊る予定の日暮からメッセージ。


日暮:「深夜のホラーゲーム、セカンドステージやる人、2-3集合!」


 時計は0時を回っている。まあ、大体みんな起きてる時間だ。ライン(正確にはそれに準ずるもの)が示すのは「俺、建都けんとは行くぜ!」と秋戸あきと、「いくで!」と貴光たかみつ、「行くよー。」と美来みくる、「イナちゃんがいないから行きます(涙)。」はルームメイトの歩佳あゆかだ。


稲葉:『ごめん、アユ。トイレにいるから先に行っておいて!』


歩佳:『わかった……(涙)、絶対、来てよ……(涙)!』


 ——うーん、アユ、可愛い!


 怖がり系女子とかかわいすぎ! 私なんかのひねくれ者より何百倍もかわいい!!!




 (a few minutes later)


 尿意もすっきりしたし、私はトイレを出た。するとみんな廊下を使うからか、照明もつけてあってありったけの光源に感謝して廊下を歩く。一応い念のため、歩佳あゆか稲葉いなば教室:3-2を確認する。もしかしたら歩佳が取り残されているかもしれない。


 歩佳が電気をつけているのだろうか、明るい教室の扉をスライドさせて目が合うと……。


歩佳:「あ、イナちゃーん!!!」


 飛びつく歩佳。流れる涙が私の腹のあたりを湿らせる。少し涙もろくて、なお可愛いい!!!


稲葉:「それじゃ、いこっか!」


 私は歩佳の冷たい手を握り、私は3-2教室を後にした。




 purpose:2-3教室に行こう!


歩佳:「イナちゃんありがとう。やっぱあたし、怖くて……。」


稲葉:「まあ、夜の学校だもんね。スマホノライトさえあれば大丈夫よ。」


歩佳:「そんなすごいものの?」


稲葉:「まあ、大切なものだね。だって、友達からもらっただからね。」


歩佳「え……。」


稲葉:「いじめ被害で転校しちゃったの。そんで、転校した翌日、家のポストにあったのが新品のスマホと彼女の連絡先。私が慌てて電話すると彼女は答えてくれた。すごく涙声だったけどね……。もちろん、私も涙が止まらなかった。それ以降時々、メールのやりとりをしてる仲。今度はと付き合ってほしいね。」


歩佳:「イナちゃんもいい友達じゃないの!」


稲葉:「そうだと、うれしいけどね。でも私は助けられるばかりだったから。」


歩佳:「どういうこと……?」


稲葉:「最初、いじめられていたのは私だけ。無口で読書とアニオタな私がいじめの標的にされていた。それを助けたから、彼女はいじめられて、そして、転校しちゃった。彼女の人生を狂わしたのは私なんだ。そう思うと、途端に生きる気が失せて、学校にも行けなくなった……。」


 稲葉はスマホのライトを消した。すすり泣く音があたしの隣でする。握っている手を放して、私は彼女に抱き着く。私の腹の中ですすり泣くイナちゃん。今は、彼女の頭をなでてあげることしか渡すにはできなかった。




arrival at:2-3教室


 すでに2-3教室に人は集まっていた。教室のドアを開けると建都は秋戸の左腕に引っ付いて離さず、美来は眠そうに顔をこすり、貴光はと笑い話をしている様子だ。


秋戸:「よ、イナ。」


稲葉:「遅れてごめんね。」


 そう答えると「全然! 今から始めるところだぞ!」と絞めてやりたい張本人・日暮がスマホ片手に手を振る。


歩佳:「全く、イナちゃん! 一人でどこに……。」


 目の前の歩佳がそう言った。歩佳、あれ……。


 ——今まで、

 

 全身の毛が逆立った……。今までの、あの話は……、いったい、誰に……。


歩佳:「イナちゃん?」


 私は教室にいる歩佳が私の名前を呼んできた。それに私は苦笑いを返すことしかできなかった。


 ふと、手を繋いできた歩佳の手を強く握る。意を決して歩佳だと思ったものを目視した。


『でも、……。そして、……。』




稲葉:「いやあああ!!!!!」


 思わず目を見開いた……。窓からの木漏れ日。時計は6時20分。息を深呼吸をして整える……。


歩佳:「大丈夫? うなされてたけど……。」


 飛び起きた私を心配そうに歩佳が見つめてくる。


稲葉:「よかった……。」


 なんだか、急に力が抜けた……。全部夢だったんだ。全部。今の歩佳は本物で……。なんだか、涙が出てくる……。


 でもあれ、なんだか、シーツが湿っている……。そして、少し匂うような、ないような……。


 ——だった……。そうだ。だから……。


歩佳:「よくないよ。だって、洗濯しないと、だからね!」


 私は朝から思わず叫んだ!!


稲葉:「いやあああああああ!!!!!!!!!!!」




episode:スマホノライトED & after the story「マホノイラスト」


歩佳:「ねぇ、イナちゃん。何見てるの?」


稲葉:「ん……(涙)。」


 歩佳にスマホの画面を見せる。私が見てるのはとあるイラストレーターの画像だ。


歩佳:「これ、稲葉ちゃんと、その友達!?」


 私はこくりと縦にうなづく。この絵には私と友達のマホちゃん。二人でピースして最高の笑顔で映っている画像。




 私が、私があの時一番見たかったのは、彼女の笑顔をだったのかもしれない。最後、電話で別れを聞いた時、一番欲しかったのは彼女の笑顔。涙ぐみながらの、悲しみ負けないようにという笑顔。


 ——私は彼女にとって最高の友達で入れただろうか?


 その答えを聞くことすら、今はできない。恥ずかしいし、もう、答えは出ているから。


マホ:『happy birthday dear my friend!』


 今、別に泣いてなんかいない。ほんとだし! 泣いてなんかいないし!  だって、今泣いたら、この最上の笑顔が歪んで見えなくなっちゃうから。


 だから、私は——泣いたらダメなんだ。


 ——ありがとう。マホちゃん。


 after the story ED .

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