第2話 価格

「6万あったら色々できるよね」


 妻がそう突っ込むのも無理はない。

 子供の頃を思い出して欲しい。

 年1度のお年玉を。

 1万円あったら――


 俺(僕・私・わたし・あたい)、めっちゃ最強~(^^)v


 この世の全てが買えるという錯覚に陥ったことはありませんか?


 1万円は大金中の大金……っ(利根川先生で脳内変換してください)


 これさえあれば、吉野家の牛丼が何杯食えるんだよって話だ。


 時代は移り行く。いくら消費者物価指数が上がったところで、この事実は古今東西なにも変わらない。

 その1万円が、6つも並ぶのだ(ちなみに、ファイナルファンタジー16のソフト代を込みすると7万近い)……っ!


 どうすればいいんだ……

 と呆然としながら扇風機にあたる私の背に妻は問い掛ける。


「てゆうか、そんなにゲームなんてしてるっけ?」


 冷静に考えると、そんなにしてない。ぶっちゃけ月に1度もPS4を起動していない。起動するのはバイオハザード4を買った時ぐらい。クリアしてからほぼ放置状態。思い出したようにPS4の生存状態を確かめると、薄っすらと埃が積もっていた。PS4は真っ黒なボディなので嫌味なぐらい埃が目立つ。まるで、僕(PS4)全然ご主人様に遊ばれてないよ~と嘆いているようでもある。


「どうしても欲しかったら買えばいいし、ほとんどやらなかったら買わなければいいんじゃない。高いし。勿体ないし。邪魔だし」


 そう。

 まさにこれ。

 PS5に限らず、何かしらモノ・サービスを購入する時には、価格ありきではなく、欲求ありきで考えなくてはならない。この絶対的な順序を疎かにすると、人は幸せにはなれない(…………はず)。

 消費者が行動を起こすということは、目には見えない神の法則に従っているに過ぎないのだ。

 今一度、よ~く自問自答してみた。


 私とファイナルファンタジー16と。

 妻と。


私「欲しい」

妻「6万ね~。ソフト込みで7万ね~(冷めた目)」

私「うーん」

妻「ぶっちゃけ、そんなにゲームやらないでしょ。テレビ占領されても迷惑だし」

私「そう……」

妻「ファイナルファンタジーやるだけなら無駄じゃない?」

私「まあね」

妻「そのお金があったら子供たちに色々買ってあげられるな~」

私「そうともいえる」

妻「もし買っても、テレビ占領しないで深夜やってよ。音もうるさいから消してね」

私「……」

妻「ぶっちゃけゲーム邪魔なのよね。パソコンに繋いでやれば?」

私「いやいや、そんな小さい画面じゃ醍醐味がなくなるでしょ」

妻「ファイナルファンタジー13だっけ? あの時、ずっとテレビ占領されてめっちゃ迷惑だったわ~。ちゃんちゃんちゃんちゃちゃちゃんちゃん――? あの音楽もう二度と聞きたくない(ちなみに閃光は名曲中の名曲です)。それに、PS5ってどれくらいの大きさよ」

私「これぐらい(結構でかい)」

妻「掃除の邪魔ねえ。どうせすぐ埃かぶるよ」

私「まあね」

妻「どうせ買うならPS5なんかより、子供たちと一緒に遊べるスイッチとかの方がいいんじゃない?」

子「スイッチ買って~(わいのわいの)」

私「うーん……」


 暫し頭を冷やす。

 果たして、本当に私はこれを欲しいのか。

 迷いが生じた。

 そして、そのまま時が流れた――

 

 今は便利な世の中で、ゲーム実況動画がいくらでも流れている。一応、買うかもしれないので16の動画は見ないようにして、過去作を漫然と眺めてみる。

 

 うーむ、改めて実況動画を眺めてみると13って名作中の名作だな。

 なにやら、ファルシのルシがコクーンでパルスという意味不明な中傷がネットに溢れているが、今一度、私はこのナンバリングを再評価したい。

 皆はご存知だろうか。

 13、屈指の名シーン。

 ホープとスノウの和解を。

 憎しみを超えて、同じ苦しみを背負った仲間として共に前を向く、このシーンに涙を流さないものはいない。

 ちなみに、私は13こそがファイナルファンタジーの正統進化だと思う。どこかSFチックな世界観が織り交ぜられているのが、このシリーズの良いところ。


 やはり……


 オレ……



 おまえらのこと好きだわ(ファイナルファンタジー)。





 ……さて。

 分かる人にはわかるネタを挟んだところで、購入する「意志」は決定した。

 消費のファーストステップは「欲求」だが、次からは現実的なプロセスが必要になる。なんでもかんでも「欲求」に従って動いては、人生というものは簡単に破綻してしまう。石橋を叩いて壊れたら渡らないぐらいが案外丁度いい。


 現実と欲求のすり合わせが必要なのだ。


 これは、何もファイナルファンタジー16に限った話ではない。個人の消費行動だけでなく、企業の事業活動、全てに当てはまる。


 問題は――


 タイミングと取捨選択だ。


 つづく――

 

 


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